第15話 将と将
「………」
ジェネラルドラゴンは対峙する三人を無言でジッと見つめる。
相手の力量を計ろうとしているみたいだ。
「……ふん」
しびれをきらした『銀狼』ロギ・シルムさんが、刀身2m程ある剣を構え、凄まじい速さでジェネラルドラゴンに迫る!
それと同時に『星の賢者』イア・ランディアさんの体が茶色に光り始める。
………『集中』だ。
「はぁっ!」
シルムさんがジェネラルドラゴンに斬りかかる……が、ジェネラルドラゴンは上空に飛び立ち、それをかわす。
「星の化身よ その姿を槍と化し……
彼の者を貫け! ガイアランス!!」
そこに、ランディアさんが鋭くとがった岩を複数放つ。
対するジェネラルドラゴンは、飛んでくる岩の槍に向かって巨大な炎を吐きだした!
岩の槍と炎のブレスがぶつかる。
岩の槍は炎を貫き、一直線にジェネラルドラゴンへ向かっていった。
「ガッ……!!」
ジェネラルドラゴンはとっさに腕で防ぐ……が、鋭い岩は固い鱗を貫き、ジェネラルドラゴンを負傷させる。
「わー!二人ともかっこいいー!!」
「……だから、あんたは行かなくていいのかよ」
一人戦わず、応援?に徹するエンジさんに、レイラが呆れ声を出す。
「はっはー!俺は補助専門だからなー」
エンジさんは軽快に笑う。
……行く気ないな、この人。
俺がそう思った、その時。
「あ、危ない!!」
メリスの声が聞こえた。
見ると、シルムさんに向かって、右方向から大きな炎が飛んできていた。
ゴオオォッ!!
ジェネラルドラゴンと戦っていたシルムさんは反応できず、炎に包まれる。
「………危ないなー」
しかし、シルムさんは無事だった。
いつの間に移動したのか、割って入ったエンジさんが炎を受けたからだ。
もちろんエンジさんも無事だ。
半透明の壁によって、炎を防いだから。
「結界魔法……!!」
壁を作り出す魔法、結界魔法。
確か回復魔法と同じで、全種類応用魔法なんだよな……。
「おい、今の炎どこから……」
レイラがそう言って、周りを見る。
そうだ、今の炎は明らかにジェネラルドラゴンのものじゃない。
一体誰が………。
「げっ……!!」
俺は周りを見回して、思わず声を出す。
いつの間にか30匹近くの魔物が、俺達と『ソレイユ』、ジェネラルドラゴンの周りを取り囲んでいた。
くそっ!そういえば今は乱闘状態だったんだ。
周りに魔物はいっぱいいたし、ジェネラルドラゴンは群れの親玉、援護しに来て当然か!!
「ちっ………」
「あっちゃー……」
「………」
『ソレイユ』の三人も、周りの状態に不安げな表情を浮かべる。
いくらこの人たちが強くても、この状態じゃ多勢に無勢だ!
「………大丈夫ですよ」
そんな中、ランディアさんが小さく微笑んだ。
「私達は負けてなんていません。
……力も………数も!!」
ズバアァッ!!
「グガアアァッ!!」
突然、取り囲んでいた魔物の一匹が、背中から黒い血しぶきを上げて倒れる。
「急に魔物が少なくなったと思ったら、こんな所に集まってやがったか!!」
魔物を斬り倒した剣士は、そう言って剣についた血を振り払う。
「天空より雷の集いを呼ぶ……痺れろ サンダガ!!」
バリバリィッ!!
その隣にいたキラーウルフに、球体に集まった雷が直撃する。
「うおらあああぁぁぁぁっ!!」
キラーウルフが痺れているところに、走ってきた剣士が胴体を切り裂く。
「いっちょ上がり!!……って、まだこんなにいるのかよ!?」
「……いい加減魔力がもたないわ」
「大丈夫だろ。
……こっちにだって、これだけ人数がいるんだからな!!」
そこにいたのは、今魔物を倒した三人だけじゃなかった。
30人近くの冒険者達が、それぞれ武器を構え、戦闘態勢に入っていた!
「す、すげぇ………」
俺は思わず呟いた。
初め、魔物達と戦い始めた時、冒険者の数は俺達を含めてたった47人、対する魔物は180匹以上いたはずだ。
それなのに今は、冒険者は少なくとも30人以上、魔物はもう、ここにいるのを含めても、せいぜい50匹いるかいないかだ。
「はっはー、頼もしい援軍だなー!」
「エンジさん、残りの方は……」
「安心しなーイア中将。
他の人もその辺で戦ってたり、岩陰にいたりするぜー?」
エンジさんの言葉を聞き、ランディアさんはほっとした表情を浮かべる。
「……一人も死なせてないだろうな?」
「はっはー!
………二、三人、大けがしちまった奴はいるけどなー……」
「………仕方ないか」
エンジさんとシルムさんは不満そうな顔をする。
え、まさか犠牲者0!?マジで!?不満そうな顔してるけど、十分とんでもないだろ!!
「おら!何ぼーっとしてんだよ?
俺達も行くぞ!!」
レイラの声で我に返る。
そうだ、まだ魔物はいるんだ!
俺は立ち上がり、落ちていた剣を拾い、ぐっと手に力を込める。
「ハディ……、大丈夫?」
メリスが心配してくれる。
「あぁ、エンジさんのおかげだな」
軽く剣を振ったり、ジャンプしてみたりする。
さすがに少し違和感はあるが、動けないほどじゃない。
……まだ、やれる!!
「……全く、無理はしないようにね」
グリーはそう言って、銃の装填を済ませる。
「分かってるって、……みんな、行くぞ!!」
メリス、グリー、レイラ、
そしてワールとリスタルを見る。
「うん!」
「援護は任せなよ」
「待ちくたびれたっての!」
「おうよ!」
「ちょうど、来たみたいだぞ!」
リスタルに言われて見てみると、一匹の竜がこっちに向かってきていた。
「……ミドルドラゴン!!」
さっき苦戦した、危険度Cの竜だ!!
「グギャアアアアァァァ!!!」
ミドルドラゴンは走ってきた勢いのまま、一番近くにいたリスタルに襲いかかる!
「させるかぁっ!!」
ミドルドラゴンが振り下ろした腕を、ワールが剣で受け止める。
「氷よ集え! フリズ!!」
リスタルがミドルドラゴンの顔を狙い、三つの鋭い氷を飛ばす!
しかし、ミドルドラゴンは後ろに跳び退いてかわし、さらに息を吸い込み始める。
「遅ぇよ!!」
レイラが一気に距離をつめ、ミドルドラゴンの顔にアッパーをくらわせる。
ミドルドラゴンの吐いた炎は、誰もいない上空へと飛んでいった。
「グオオオッ!!」
「うおっと!」
目の前に着地したレイラに、ミドルドラゴンはかみつこうとする。
レイラが慌てて後ろに下がると、ミドルドラゴンの牙は大地に突き刺さった。
レイラと入れ替わるようにして、俺はミドルドラゴンの首に斬りかかる。
しかし、ミドルドラゴンは首を戻してかわし、拳を俺に向けてくる。
「悪いけど、その速さはもう慣れた!!」
俺は横に跳んでかわし、ミドルドラゴンの胴体に斬りかかる!
……でも、鱗があるからな……!!
「パワーブレス!」
剣がミドルドラゴンの胴体を捕える寸前、剣に赤いオーラが纏った。
ズバァッ!!
「えっ!?」
俺の剣がミドルドラゴンの胴体を切り裂いた。
なんだ!?いきなり剣の切れ味が増した!?
「ハディ!!」
メリスの声にハッとする。
「グオオオオオォォォォッ!!!」
体を斬られたミドルドラゴンは、怒りのままに両腕を振り上げ、俺に向かって振り下ろしてきた!
俺は思い切り跳び上がってそれをかわし、そのままミドルドラゴンの肩口から、袈裟切りにする!
ミドルドラゴンから黒い血が吹き出し、ミドルドラゴンは倒れ、事切れた。
「はぁ……はぁ……、倒……した……?」
「はっはー、お疲れー!やるなー、青年!」
呆然としていた俺に、エンジさんが話しかけてきた。
……なるほどな。
「……えぇ、おかげ様で」
俺はエンジさんに笑いかける。
この人だ、さっき俺の剣に、鋭さを増す魔法をかけたのは。
「はっはー!そーんなことはないなー、俺がやったのはあくまでも補助、それだけだからなー!」
エンジさんは相も変わらず、軽快に笑ってみせる。
……その補助が大きかったんだけどな。
「……ってか、あんたここにいていいのかよ?」
レイラがエンジさんに言う。
……そういえば、『ソレイユ』はジェネラルドラゴンと戦ってたはずじゃ……。
「おー、あの二人に任せてきたからなー」
「なっ!?い、いいんですか!?」
いくらなんでも、ジェネラルドラゴンを二人で相手するなんて!!
「はっはー!おかしなことを言うなー青年」
エンジさんは軽快な笑みを浮かべたまま、俺の方を見る。
「あの二人なら、ジェネラルドラゴンぐらい余裕だぜー?」
エンジさんはそう言って、次に補助する人を求めて、歩いて行った……。
~サイドアウト~
二十数匹の魔物と、34人の冒険者達が戦っているその場所の中心当たりで、二人の男女と、三匹の魔物が対峙していた。
二人の男女とは、もちろん『星の賢者』イア・ランディアと、『銀狼』ロギ・シルムのことだ。
そして、三匹の魔物……一匹は、この群れの親玉である、危険度Aの上位竜、ジェネラルドラゴン。
もう一匹は、危険度Cの上位魔獣。
体長3m、高さ2m以上ある、黒い体に赤いたてがみを持つ馬の魔物。
ナイトメアホース。
最後の一匹は、危険度Cの中位竜。
四足歩行で体長3m、高さ1.5m程あり、全身が鎧のような鱗で覆われている恐竜のような魔物。
アーマードラゴン。
ナイトメアホースとアーマードラゴンは危険度Cの中でもかなり強い部類であり、この群れにおいて、ジェネラルドラゴンを除けば、最強の魔物だった。
「………ずいぶんと警戒されているようだな」
「そうですね……」
ジェネラルドラゴンがこの二匹を呼んだのは、目の前にいる二人の人間の力を恐れているからだった。
自分だけでは敵わない、そう思ったのだろう。
「………ふん、ならば、逃げればいいだろうに」
ロギはそう呟き、剣をゆっくりと構えると、目の前にいる魔物達を睨みつける。
魔獣よりも魔獣らしいその気迫に、アーマードラゴンは一瞬たじろぐが、竜としてのプライドに負けたのか……、その男に向かって突進した。
……それが、間違いだとも知らずに。
ロギは突っ込んでくるアーマードラゴンを、正面から相手取り、剣を振るう。
ガギイイィィン!!
「!」
巨大な銀の剣、シルバーファングは、正確にアーマードラゴンの頭部を捕えた。
しかし、中位竜の中では最高の硬度を誇るアーマードラゴンの鱗を切り裂くのは、さすがに無理だったようだ。
「ブゴオオオオオォォォォッ!!」
アーマードラゴンは、頭を振って、頭部に生えている闘牛のような角をロギに突き刺そうとする。
しかし、その瞬間ロギの姿が消え、角はその勢いのまま、地面に突き刺さる。
「………」
ロギは空中にいた。
一瞬で、3m程跳び上がっていたのだ。
剣を両手に持ち、頭の後ろまで振りかぶる。
そして、重力により落ちていく、その勢いのまま剣を振り下ろした。
「……堕落の牙」
ボゴオオオオオオォォォォォォンッ!!!
その一撃はアーマードラゴンの頭部に直撃した。
頭部は大地にめり込み、凄まじい衝撃によって、アーマードラゴンは動かなくなった。
シルバーファングはその大きさゆえに、ただ斬るというより、叩き斬るような剣だ。
アーマードラゴンの鎧のような鱗を斬ることは難しくても、破壊することならば、ロギにとっては容易だった。
「………悪く思うな」
事切れたアーマードラゴンに向かって、ロギは顔を向けず、そう呟いた。
ロギがアーマードラゴンと戦い始めた時、イアもナイトメアホースと戦い始めていた。
両者の体が、ほぼ同時に光り始める。
イアは茶色く、ナイトメアホースは黒く。
「ギガイアス!!」
「―――――!!」
イアの周囲の地面から大きな岩が複数浮かび、ナイトメアホースへ放たれる。
一方でナイトメアホースの前に黒い霧が現れ、そこから黒いガイコツのような形の闇が、イアに向かって放たれる。
闇属性、基礎魔法レベル3『シャドネス』だ。
複数の岩と巨大な闇がぶつかる。
しかし、一瞬で闇は打ち破られ、岩はそのままナイトメアホースへ向かう。
『シャドネス』が弱い魔法なのではない。
イアとナイトメアホースの魔力が、あまりにも違いすぎるからだ。
「!!」
ナイトメアホースはとっさに高く跳び上がり、ギガイアスをかわす。
「……彼の者に重き制裁を グラビディア!!」
しかし、イアは間髪いれず、ナイトメアホースに重力強化の魔法をかける。
ナイトメアホースにかかる重力が一気に三倍近くまで上がり、地上三m程の高さにあったナイトメアホースの体は、一直線に地面へ落ちていった………。
「………後は、貴様だけだ」
二人がそれぞれの相手を倒したのは、ほぼ同時だった。
「………!!」
それを見ていたジェネラルドラゴンは、焦りと驚愕で目を見開いていた。
「………ふん」
そんなことは知ってか知らずか、ロギは剣を構え、容赦なくジェネラルドラゴンに迫る。
ジェネラルドラゴンは慌てて羽を広げ、上空へと逃れる。
「………まだ、未完成だが」
ロギはそう呟き、すでに剣の届かない位置にいるジェネラルドラゴンに向かって、凄まじい速さで剣を振った。
「………飛空閃!!」
ザッ!!
「ガッ!!」
もちろん、ロギの振った剣は、ジェネラルドラゴンには届いていない。
にもかかわらず、丁度剣閃の延長線上にあったジェネラルドラゴンの腕に、切れ込みが走った。
「力の行使によって 汝の存在を証明せよ!ブラストボム!!」
ドッガアアアアアァァァァァン!!
突然、ジェネラルドラゴンの頭部付近で爆発が起こる。
爆発をまともに受けたジェネラルドラゴンは、力なく地上へと落ちていく。
ロギはそれを見逃さず、ジェネラルドラゴンの首の位置まで跳躍する。
「パワーブレス!!」
声と同時に、シルバーファングが赤いオーラに包まれる。
「はっはー!最後ぐらいは補助しねーとなー!」
「………ふん」
間の抜けた同僚の声に顔も向けず、ロギは剣を持つ手に力を込め……ジェネラルドラゴンの首を、切り裂いた。
今更ですが、なんか『ソレイユ』が目立ち過ぎてるような。
……まぁ、相手が相手なので仕方ありませんが。