第13話 3+1人組と43人の冒険者
「……『キラーウルフ』が一撃なんてね……」
グリーは真っ二つになった魔物を見て呟いた。
「キラーウルフって、あの黒い狼か?」
「うん、……危険度Dの中位魔獣だよ」
うわ、やっぱり危険度Dだったのか……!
「それを一瞬で二匹も倒すなんて……」
「おい、貴様ら」
『!!』
前から声がした、……シルムさんだ。
「何をしている?……敵はもう目の前だ、さっさと前に出ろ」
シルムさんは顔を魔物達へ向けたまま、静かに言い放つ。
「……へっ!!」
それを聞き、一人の冒険者がシルムさんの横まで出た。
「レ、レイラ!!」
「………」
「そんなこと言われたら、前に出るしかねぇじゃねーか!!」
レイラはパキパキと白いオーラをまとった拳を鳴らし、ニッと笑う。
……って、見てる場合じゃないな、俺も行かないと!!
「……貴様、それは……」
「あ?」
シルムさんはレイラの拳を見て、少し驚いた顔をする。
「………いや」
シルムさんは無表情に戻ると、魔物達へ視線を戻す。
「真っ先に前に出るなんて、威勢がいいな坊主!!」
二人の後ろには、十人近くの冒険者がいた。
その中の一人の冒険者が……、
……レイラに言ったんだよな?今の……。
………ってことは………。
ゴッ!!
「いってぇ!!?」
「……口に気ぃつけろ。『坊主』じゃねぇ『小娘』だ!!」
「いや、その言い方はどうなんだよ……ってか殴るなよ!」
今げんこつですごい音したぞ……。
まぁ、俺の時よりはマシだろうけど。
「あぁ?戦闘前だからちゃんと手加減したぞ」
「それでもすごい音したけどな……」
「んなことより、遅ぇぞお前ら!」
レイラは俺と、俺の後ろにいるメリス、グリーを見て言う。
「お前が早いんだろ……」
「レイラ、一番に飛び出したもんね~!」
「やる気は十分みたいだね」
………ん?
「っておい、メリスとグリーは前に出ていいのか?」
「えー?なに言ってるのハディ!
これから乱闘になるんだから、前に出ないと魔法使えないよ!」
「味方に当てるなんて論外だからね」
あ~、そりゃそうか。
よく見ると魔法使いっぽい人達もけっこう前に出てきてる。
いつの間にかほとんどの人が前に出てるな……。
「……死ぬ自信がある者は私のそばにいろ。
命ぐらいは守ってやる」
「けっ!何寝言言ってんだ?」
シルムさんの言葉に、レイラが顔をしかめる。
「……まぁ、ついてこられたら、だが」
その瞬間、シルムさんは魔物達の方へと走り出した。
って速っ!?あんなでかい武器持ってんのに!!
「って、だから見てる場合じゃないな!俺達も行くぞ!!」
「おう!!」
「うん!!」
「無理はしないようにね?」
俺の声に、三人が応えてくれる。
………行くぞ!!
「うわっ!?」
魔物達の方へと向かっていった俺達が最初に相対したのは……。
「キラーウルフ……!!」
さっきシルムさんが真っ二つにしてた、黒い狼……!
こうして近くで見るとでかいな、2m以上あるぞ……!!
「グガアアアァァァ!!」
「っ!!」
キラーウルフが右前足を振り上げるのを見て、俺は慌ててその場から飛び退く。
その直後、地面が音を立てて砕けた。
「危ねぇ……な!!」
少し地面にめりこんでいるキラーウルフの前足に、思いっきり剣を振り下ろす!
「ガアァッ!!」
「うおっ!」
一太刀を受けたキラーウルフは前足を振り回す。
危ない危ない、剣が弾き飛ばされそうだった……!
ってか、ぶった斬るつもりだったのに、半分も切れなかったな……!!
「うおりゃあっ!!」
「グガッ!?」
レイラがキラーウルフに飛びかかり、顔面を殴りつける。
って、キラーウルフが数m吹っ飛んだ!?
さらにレイラはキラーウルフの方を向き、手の平を向かい合わせる。
すると、その間に白いオーラが集まり、直径20cm程の球体ができあがった。
「闘気弾!!」
レイラの叫びと共に、その白い球体がキラーウルフへと放たれる。
ドッパアァン!!
「いっ!?」
球体はキラーウルフにぶつかった瞬間破裂し、さらにキラーウルフは吹き飛ぶ。
「大気より火の集いを呼ぶ……燃えろ フレイア!!」
そこにメリスが炎を放ち、キラーウルフを火だるまにした。
「………うん、倒せたみたいだね」
グリーが黒焦げになったキラーウルフを見て、言う。
「三人がかりでこれか……」
「そりゃあね、『ソレイユ』の人達と同じようにやるのは無理だよ」
「とっとと次行こうぜ、敵はまだまだいるんだ!」
「おう………なぁ、レイラ」
「ん?」
「さっきから気になってたんだけど……それ、何?」
俺はレイラの拳からひじまでを包む、白いオーラのようなものを見て言う。
「これか?」
「……ねぇレイラ、それもしかして……『魔力』?」
「おっ正解!さすが『魔導師』!」
レイラはグイッと白いオーラをまとった腕を突き出す。
「こうやって魔力をまとうことで筋力を上げてんだよ」
「き、筋力を上げる?」
「……そんなことできるのかい?」
「実際こうしてると殴る力が強くなるんだ。
さっきキラーウルフとやらを吹っ飛ばしただろ?」
……確かに、あんなでかい魔物を殴り飛ばすなんて、人間業じゃないよな……。
「ほら、いいから次行こうぜ!」
と、その時。
「……―――――!……」
「!」
レイラの後ろから、奇妙な声が聞こえた。
見ると、木製の杖を持った紫色のドラゴンが宙に浮いている。
大きさ1.5m程のドラゴンは、周りが赤く光っていた……!!
「『マージドラゴン』!!」
「レイラ!!よけて!!」
「……―――!!」
そのドラゴンが何かを叫ぶと、直径20cm程の炎が現れ、レイラへと放たれる。
あれは……『フレイ』!?
「レイラ!!」
「しゃらくせぇ!!」
レイラは振り向きざまに左腕を振り、向かってきた炎を拳で振り払った!
「レ、レイラ!?」
何でよけないんだ!?
炎を手で直接触ったりしたら……!!
ドォンッ!!
銃声と同時に、マージドラゴンがよろめく。
「ハディくん!!」
「お、おう!!」
その隙をつき、俺はマージドラゴンに迫り、斬りかかった!
ガギイィン!!
「ちぃっ!!」
首に剣を振り下ろすが、固い鱗のせいで斬ることができない。
「闘気弾!!」
「な!?」
俺の後ろから飛んできた白い球体が直撃し、マージドラゴンは吹き飛ばされる。
「おい!動いて大丈……」
「大丈夫に決まってんだろうが」
俺はレイラの左手を見て……目を疑った。
「……無傷……!?」
炎を直接手で振り払ったのに、レイラの手には、火傷の一つもなかった。
「な、なんで……」
「ハディくん!後ろ!!」
振り向くと、起き上がったマージドラゴンが『集中』をしていた。
「水よ集え!アクア!」
バッシャアァァ!!
メリスの水魔法が勢いよくマージドラゴンに直撃し、その衝撃でマージドラゴンの『集中』が途切れる。
「ハディくん!鱗のない腹を狙って!!」
「おう!!」
俺は一気にマージドラゴンに迫り、腹に剣を突き立て、さらに斬り上げる!
………ちょっと残酷だけど、しょうがないよな。
俺は絶命したマージドラゴンを見て、そう思った。
「……で?レイラ、その左手……」
「だから大丈夫だっての」
「いや、なんで大丈夫なんだよ!?」
さっきマージドラゴンの炎魔法を素手で振り払っただろ!?
無傷なんてありえないぞ!!
「……魔力をまとってたから、だね?」
「そういうこった!」
ま、魔力……?
「魔力ってのは『魔法の元となる力』だろ?
だから魔力をまとった拳なら、魔法とも張り合えんだよ!
無傷なのはあの炎魔法より、俺のまとってる魔力の方が強かったからだ」
「そんなことできるのか!?」
驚いたな……!
魔法に対抗できるのは魔法とか兵器だけかと思ってた。
「でも、魔力をまとうなんてめちゃくちゃ難しいよ?」
「え?」
メリスはうーん、と小さくうなる。
「『集中』見れば分かるでしょ?
少しでも気が散ったら集まった魔力は散っちゃう」
「魔力をまとって、しかもその状態を維持しながら戦うなんて……よっぽど魔力のコントロールが上手くて、さらに集中力を維持する気力がないとできっこないね」
「あいにく俺にはそんな気力ねーよ、ただ単に慣れてるだけだ。
……っつっても、ずっとまとってるのはやっぱ無理だけどな」
レイラが軽く腕を振ると、白いオーラは一瞬で散り、消える。
「これで倒したの二体目だね!兄さん、今のも危険度Dなの?」
「うん、マージドラゴンは危険度Dの下位竜だよ。
……でも、今までは多対一だからなんとかなったけど、敵も大量にいるんだから、気をつけないと……」
『うわああああぁぁ!!!』
「なんだ!?」
「あ、あれ!!」
メリスの指差した方を見ると、十数m程離れた場所で、二人の冒険者が三匹の魔物に囲まれていた。
「ちっ!急ぐぞ!!」
しかし、俺達が走り出したちょうどその時、大きな緑色の竜が腕を振り上げた。
くそっ!!間に合わ……。
ドオォンッ!!
竜の頭に、銃弾が直撃する。
鱗があるせいで大したダメージはないだろうけど、その隙に俺達は二人の冒険者の元へ着くことができた。
「加勢する!!」
「あ、ありがてぇ!助かった!」
「……あれ?あんたら……」
さっきフライドラゴンと戦った二人だ。
剣士の方は腕を刺されてケガしてたよな……まぁ、エンジさんに治してもらってたけど。
「腕は大丈夫か?」
「けっ!どうってことねぇ!」
「おしゃべりはそのぐらいにしてね!」
グリーにしかられる。
そうだ、今魔物に囲まれてるんだった!
「『レッサードラゴン』に『ブレードキャット』……それに、『ミドルドラゴン』……!!」
グリーが三匹の魔物を見まわして、呟く。
どうやら、体長2mぐらいの緑色の竜が『レッサードラゴン』。
しっぽの先と爪に鋭い刃が生えてる体長1mぐらいの……ヒョウ?が『ブレードキャット』。
で、さっきグリーが銃弾を当てた、体長3mぐらいの角のある竜が『ミドルドラゴン』か……!
「六対三……だけど、決して有利とはいえないね……!!」
グリーが冷や汗をかきながら、苦笑する。
……やっぱりというか、こいつらもけっこう強い魔物なんだな。
特にこの、『ミドルドラゴン』は……やばそうな気がする。
俺はちょうど目の前で相対している、大きな竜を見る。
その竜は、赤い瞳でこっちを見ていた。
「っ!!っぶねぇ!!」
レイラの声が聞こえた。
見ると、ブレードキャットがレイラに飛びかかり、それをレイラがよけたみたいだ。
攻撃の隙をつき、レイラがブレードキャットに一撃を叩き込む。
ブレードキャットは吹き飛びながらも体勢を整え、地面に着地した。
「おい!こいつは俺がやるぞ!文句はねぇな!?」
「レ、レイラさん!?『ブレードキャット』は危険度Dの中位魔獣だよ!?」
「けっ!知るかっての!!」
レイラは白いオーラを腕にまとい、走り出した。
ブレードキャットも爪を振り上げ、レイラに飛びかかる。
その爪をレイラは横に飛んでかわし、ブレードキャットに殴りかかる。
それをブレードキャットは跳んでかわし、爪を振り下ろす、とレイラはしゃがんでかわし、さらに前に転がって少し距離をとる。
「す、すげぇ……!危険度Dの魔物と互角に……!!」
「感心してる場合じゃないよ!!」
グリーの声にハッとする。
そうだ、後二匹いる!
俺は目の前数mの位置にいるミドルドラゴンと、後ろの方にいるレッサードラゴンを確認する。
「………なぁあんたら、そっちのレッサードラゴン二人で倒せるか?」
「ハ、ハディくん!?」
「……おう!!任せろ!!」
「二対一なら、なんとか……!」
俺の声に、二人の男は不安げながらも応えてくれる。
明らかにこのミドルドラゴンの方がやばそうだからな、この二人に任せるのは無理だろ。
「……全く、正気かい?ハディくん……」
「ん?」
「……ミドルドラゴンは、危険度Cの中位竜だよ?」
「うぇっ!!?」
き、危険度C!?
「……まぁ、危険度Cの中では最弱の部類だし、中位竜の中では一番弱いから、絶対無理だとは言わないけどね……」
「……ど、どうするの?ハディ……」
「くっ……!」
やばい、危険度Cなんて戦ったことないぞ……!!
「……グギャアアアアァァァァ!!!」
「っ!!」
ミドルドラゴンが咆哮を発し、俺達三人を一瞥する。
……なんだろう、なんか見下された気がする。
「……メリス、グリー」
「……え?」
「全く……挑発に乗ったわけじゃないよね?」
「違う、……どっちにしろ、こいつの相手は俺達がしないとだめだろ」
レイラは一人で危険度Dの魔物と戦ってる。
二人の冒険者もレッサードラゴンと戦ってる。
……だから、俺達の相手は残ったこいつだ!!
「危険度C……上等だ、やってやる!!」
身長の倍ほどある竜をまっすぐ見据え、俺は剣を握る手に、力を込めた。
レイラを活躍させすぎた気がします。
……次回は主人公達が大活躍します!!
……予定です。