第11話 星の賢者と銀狼
「ん……」
翌日、俺はいつもよりかなり早く目が覚めた。
「……まだ六時じゃねーか……」
結局、昨日は散々町を探索した後、夜メシ食って、風呂入って寝たんだよな……。
緊張で眠れないかと思ったけど……逆に早く目が覚めちまった……。
周りを見ると、メリスもグリーもまだ寝てる……。
……ん?
俺は一つだけ、空になったベッドを見つけた。
「レイラ……?」
「お、いた」
「ん?」
酒場の外に出てみると、レイラが筋トレをしていた。
「おっす、なんだ早いなハディ」
「おう、なんか緊張で目が覚めちまって……何やってんだ?」
「筋トレ」
いや、それは分かるけど。
「物心ついたときから日課なんだよ。
毎日起きたら筋トレとランニングをするのがな」
「今日もやるのか。
……戦闘始まったら、嫌でも動かなきゃならないのに」
「だからだ」
レイラは俺の方を向いて、ニッと笑う。
「これやらねぇと、逆に体調を崩しちまう」
「………」
13歳でC級。
こいつ、ただの『天才』じゃないみたいだな……。
「でも、あんまりやりすぎると疲れるぞ」
「分かってるって、だから今日は軽く200回しかやってねぇ」
………ん?
「……なんだって?」
「あ?だから、腕立ても腹筋もスクワットも200回しかやってねぇって。
……やっぱりちょっと物足りないけどな」
いや、何言ってんだこいつ!?
「んじゃ、ランニング行ってくる!」
「……どんだけ走る気だ?」
「適当」
適当、って……。
「朝飯までには戻るからな!」
「え、おい……」
俺の言葉も聞かず、レイラは走って行った……。
……速っ!?もう角曲がっていったぞ!!
あいつ、あの速度で走り続ける気か……!?
……いや、まさかな……。
「おはよー……」
「おっ、メリスにしちゃ早いな」
起きたメリスは、眠そうに目をこすっている。
現在時刻7時20分だ。
メリスはいつも八時以降に起きるからな……。
「やっぱりメリスもあまり眠れなかったのかい?」
グリーがメリスに問いかける。
ちなみにグリーはいつも七時前後に起きるが、今日は六時半ごろに起きていた。
「……あれ、レイラは?」
「ランニングに行った。……一時間以上前に」
レイラはまだ帰ってきてない。
……どこまで行ったんだか……。
「そういえば昨日僕が起きたとき、ちょうどレイラさんが戻ってきたんだけど……」
「……だけど?」
「なんか、五時半から七時前まで走ってたって……」
「は!?ちょっと待て、俺が起きた時あいついたよな!?」
「だから、七時前まで走ってたんだって。
その後、髪を結び直してたときじゃなかったかな?
ハディくんが起きたのは」
……そういやそんな覚えあるな。
と、そこで部屋の扉が開いた。
「ただいまーっと」
「おかえりー!どこ行ってたのレイラ?」
「いや、ランニングだって今俺が言っただろ……。
でも遅かったな」
「わりぃ、ちょっと調子に乗って走りすぎた」
……そう言う割に、あんまり息乱れてないけど。
「朝飯行こうぜ、走ったら腹減った」
「あ、私もお腹ペコペコー!!」
メリスがレイラに同意し、大きく手を上げる。
……手を上げる必要はないだろ。
朝食……、やっぱりみんな緊張しているのか、あんまり食べてないな……。
あのメリスですら、今日はご飯一杯しかおかわりをしなかった。
グリーに至っては、半分以上残している。
「……グリー、食べないと力出ないぞ」
「分かってるんだけどね……」
グリーが苦笑する。
「……にしても、なんか客少なくないか?」
酒場の食堂には、俺達の他に数人しか人がいない。
そういや、昨日の夜は酔っ払いの声が聞こえなかったな……。
「そりゃあそうだよ。
依頼を受けない冒険者は昨日、もしくは今日の早朝にでもこの町を離れてるだろうから」
グリーは人の少ない食堂を見渡す。
「なんでも、昨日この宿に泊まった人、僕達を含めて10人いるかどうからしいよ」
「おいおい、二日前俺らが来た時は満室だったよな?」
最後の一室をレイラと俺らで泊まったんだよな。
「そういや、依頼受けた奴ってどれぐらいいるんだろうな?」
「最低でも100人はいるだろ。
ほとんどの宿屋が満室になるぐらい人がいたわけだし……」
「48人だ」
俺とレイラが話していると、
横から声が聞こえた。
酒場のおやじだ。
「おやじ……。って、え?」
「だから、依頼を受けたのは48人だ。
お前さんらを含めてな」
おやじは重々しくため息をつく。
「よ……48人!?」
「ど、どういうことだ!?」
驚く俺達。……いや。
『お、おい!今の聞いたか!?』
『たった48人!?相手は200匹以上の魔物の大群なんだろ!?』
どうやら、今の会話が聞こえていたらしく、食堂にいる他の冒険者達もざわつき始める。
……だが、一人だけ驚いていない奴がいた。
「……当然、かもね」
グリーだ。
「グ、グリー?」
「何を驚いてるんだい、ハディくん。
相手は200匹を超える魔物の大群。
こちらの味方は『星の賢者』に精鋭部隊『ソレイユ』。
それこそ人の域を超える『戦争』が起こるんだ。
……逃げ出すのが普通だよ」
「そういうことだな、……おい」
おやじは動揺している俺達を一瞥する。
「……依頼を取り消すか?」
「あ、いや……」
「取り消すなら早めにしろ。
どうせ今から町を出ても間に合わないからな、11時までには避難所に行った方がいいぞ」
おやじは俺達が食べ終わった食器を片づけながら言う。
「………」
……何を悩んでるんだ、俺は……!
昨日、決心したはずなのに……!!
「……依頼の取り消し?何言ってんだ?」
「レ、レイラ……?」
レイラがおやじをにらみつけている。
その目は、『ふざけんな』と訴えていた。
「200匹を超える魔物の大群?『星の賢者』に『ソレイユ』?
……そんなの、昨日教えてもらっただろうが」
レイラはイラだった口調で言う。
……そうだ。
確かに昨日おやじとランディアさんに教えてもらった。
「確かにそいつらがどれだけ危険なのかとか、俺はよく分かってなかったし、味方がたった48人ってのも想定外だったけどよ。
だからって一度受けた依頼を、そう簡単に取り消すわけねーだろうが!」
レイラはそう言って、バン!と机を叩く。
「ビビって依頼を取り消すなんざ、冒険者が一番やっちゃいけねぇことだろ!!
……なめんじゃねーよ」
レイラ、本気で怒ってるな……。
なんかプライドに触ったのか……?
……でも、そうだよな……。
どの道、もうこの町から逃げる時間なんてない。
俺達にできるのは、避難所にこもっておびえているか、正面切って魔物と戦うか、のどちらかだ。
……俺達は、冒険者なんだ。
選ぶ道は、決まってる!!
「……二人は、どうする?」
ちょうど、グリーが聞いて来た。
……二人は、か。
グリーはこのことを予想してたんだな。
……だから昨日あれだけ反対したんだろうし、今、おやじから聞かされてもそんなに驚かなかったんだろ。
……グリーはもう覚悟を決めてる。
例え俺とメリスが依頼をやめるって言いだしても、今度はグリーが反対するか、もしくは一人でも受けようとするだろ。
「と、取り消したりしないよ!!」
メリスが声を張り上げる。
「だ、大丈夫だよ!!イアさんがいるんだもん!!」
……って言う割には、少し震えてるけど。
やっぱり少しは怖いんだよな、俺だってそうだ。
「……ハディくんは?」
グリーはメリスに微笑んだ後、俺に顔を向ける。
「……言わなくても分かってるだろ?」
「まぁね。……でも、一応聞かせてくれないか?」
「取り消さない。
依頼は受けて、絶対に成功させる!!」
俺がそう言うと、グリーはうれしそうに微笑んだ。
「……そういうわけだ」
俺はおやじの方へ顔を向ける。
すると、ちょうどこっちを見ていたおやじと目が合った。
「悪かったな、動揺しちまって。
……でも、俺達は依頼を受けるからな!」
キッ、とおやじをにらむ。
別におやじに怒ってるわけじゃない。
俺達が情けなかったから、おやじも依頼を取り消さないか聞いたんだろうし……。
でも、俺達は本気でこの依頼をやるってこと、おやじに認めてもらわないとな!
「……良い目だ」
しばらくして、おやじは小さくそう言った。
「悪かったな、動揺させるようなこと言って。
……どうせ味方の人数なんてすぐ分かるからな、集まってから騒がれるより、前もって知らせた方がいいかと思ったんだ」
「……俺らが依頼取り消したらどうするつもりだったんだ?
ただでさえ少ない味方が、余計減っちまうぞ」
レイラがおやじに不満をぶつける。
「そんな臆病者は逃げ出した方がいいだろ。
……ランディア中将も言ってただろう。
『今回は一般兵を出してない』って、あれは犠牲者を出さないためだ。
今回の依頼、ランディア中将は、一人の犠牲者も出さないつもりなんだ」
おやじは小さくため息をつく。
……まぁ、甘い、よな。
200匹以上の魔物相手に、一人の犠牲者も出さないなんて。
「本気でそうするつもりなんだろうね。
……『ソレイユ』から10人も連れてきてるんだから」
グリーは苦笑しながら言う。
……『ソレイユ』って、そんなにすごいのか……?
あんまりよく知らないけど……。
「それで、お前さんらはどうするんだ?」
おやじは、食堂にいる他の冒険者達に問いかける。
冒険者達は、やっぱり少し悩んだようだったけど。
『や、やるに決まってるだろ!!』
『そうだ!ビビって依頼を取り消すなんて、冒険者が一番やっちゃいけないことだ!!俺達をなめんな!!』
『子供に任せて逃げるなんてできるか!!』
……おい二人目、レイラの言葉をパクるなよ。
三人目、『子供』ってのはレイラのことか?
いや、あの人見た目三十代ぐらいだし、ひょっとして俺やメリスも『子供』扱いされてるのか?
「……そうか」
おやじはうれしそうな顔をしていた。
「前にも言ったが、集合は13時に町の広場だ!遅れるなよ!!」
『おう!!!』
現在時刻は八時過ぎ、だ。
……あと、だいたい五時間って所か……。
「お~、来てる来てる」
「そりゃあ、もうすぐ時間だからね……」
12時50分。
俺達が広場に来た時には、もう40人近い冒険者が集まっていた。
ふと、広場の周りを見ると、シャッターが下ろされ、無人になっている店が、いくつもあった。
「………」
「ねぇ、ハディ……」
俺がそれらを見ていると、メリスが話しかけてきた。
「この依頼が終わったら、みんなでおいしいお菓子食べようね!!」
そう言うメリスは、顔は笑っていたが、体は少し震えていた……。
……無理しやがって。
「おう!……食い過ぎんなよ?」
俺は少し笑ってそう言ってやった。
敵は、200匹を超える魔物の大群。
それに対して、こちらは『ソレイユ』を含めてもたったの51人。
……怖くないといえばウソになる。
でも、もう俺に迷いはない!!
「……時間だね」
グリーが時計を見て言う。
時計の針は、13時を指していた。
「あっ、ハディ、あれ!」
メリスに言われた方を見ると、冒険者達から少し離れたところに、赤いマントをはおった人が三人立っていた。
一人はランディアさん。
その両側に、銀髪の男と茶髪の男が立っている。
ランディアさんは手に杖を持っていて、銀髪の男は左肩から右腰に巨大な剣をかけている。
茶髪の男は特に目立った武器は持ってないな。
「あの赤いマント、確か『ソレイユ』の証だろ」
レイラがそう呟く。
なるほど、この三人が『殲滅』に参加する『ソレイユ』の人達なのか。
ランディアさんはゆっくりと冒険者達に近づき、声を張り上げた。
「冒険者の皆様!
依頼を受け、ここに集まってきて下さったこと、心より感謝いたします!!」
冒険者達はランディアさんの方へ顔を向ける。
「私はスイーツ王国軍、魔法部隊隊長、イア・ランディアと申します!
この作戦において、皆様の指揮を執らせていただきます!!」
手を胸に当てて、名乗る。
その瞬間、一部の冒険者達がざわめき出した。
「どうしたんだ?」
「……『星の賢者』の外見を知らなかった人がいるのかもね」
あぁ、確かに知らなかったら驚くよな。
『星の賢者』がこんなに若い女だなんて。
……いやでも、ランディアさんってけっこう外見も有名なんじゃ?
少し前に雑誌に載ってたし……。
と、俺が思っていた、その時だった。
「ふざけんな!!!」
いきなり、広場に怒声が響き渡る。
と、冒険者達の中から、その声を発した男が、ズカズカとランディアさんの前まで出てきた。
右腕に銅の腕輪をつけてるから、C級冒険者か。
「俺は『星の賢者』が参加するって聞いたからこの依頼を受けたんだぞ!?
何なんだ、この小娘は!?」
「ですから、私が『星の賢者』です」
ランディアさんは、自分より30cm以上も背の高い屈強な男を前に、凛とした態度を保っている。
「こんな小娘に命を預けろってのか!?話が違う!!
『星の賢者』に任せて俺達は適当に逃げてりゃ大金がもらえるんじゃねぇのかよ!?」
……何言ってんだこいつ……。
そりゃ、強い奴を頼るのは間違ってないけど、強い奴だけに任せるってのはおかしいだろ!
……C級にも、こんな奴いるんだな……。
めちゃくちゃなことをわめき散らす男を、ランディアさんはキッと睨みつける。
「……すみませんが、依頼内容に不満があるようでしたら今すぐ依頼を降りて下さい。
今ならまだ避難所も開いていますので」
「んだとてめぇ!!」
怒った男はランディアさんにつかみかかろうとした。
その瞬間……ほんの一瞬、ランディアさんの周りが茶色く光った気がした……。
「い、いてててて!!!は、放しやがれ!!」
……あれ?
気が付いたら、男は銀髪の男に手をひねられ、押さえつけられていた。
「……貴様のような奴の手など借りたくもない。
今すぐ消えろ」
銀髪の男は、狼のような殺気を出しながら、男を睨みつける。
「くそっ……お、覚えてろ!!」
解放された男は、なんともマヌケな捨て台詞を残して、広場から立ち去った。
……どこのザコだよ。
「ありがとうございます、ロギさん」
「………」
ロギ、と呼ばれた男は、
ランディアさんを無視し、元いた場所へと歩く。
と、ランディアさんとすれ違った所で、何か耳打ちをした。
「! ……すみません」
ランディアさんは、少し気まずそうな顔でそう呟いた。
「なんか、すごかったな……。
一瞬でC級冒険者を押さえ込むなんて……」
「……流石は『銀狼』ってところだね」
……銀狼?
「あの銀髪の人、たぶん『銀狼』ロギ・シルムだよ。
スイーツ王国軍、騎士部隊副隊長」
「マジで!?」
確かランディアさんが魔法部隊隊長だったよな!?
それに加えて騎士部隊副隊長も来てんのか!!
「……ところで、どーすんだよ?この騒ぎ……」
レイラは、未だにざわついている周りの冒険者達を見る。
あのザコ男が散々わめいたせいだ。
「………皆様!!」
そこに、ランディアさんの声が聞こえた。
ざわつきが収まり、冒険者達はランディアさんの方を見る。
「お騒がせしてしまい、申し訳ありませんでした!
……これから作戦の詳細を説明いたしますが、その前に……」
ランディアさんは、少しうつむいた後、冒険者達をまっすぐ見た。
「……もし、先ほどの方と同じことを思っている人がいるのでしたら、今からでも、依頼を取り消して下さってかまいません」
静まっていた冒険者達が、またざわつき始める。
……いや、ランディアさん!?
これ以上味方が減ったらやばいんじゃ……。
「……しかし、もしもこの中に、迷っている方がいらっしゃるのならば、心配はいりません!!」
ランディアさんは、冒険者達に呼びかける。
「私達と共に、魔物達に立ち向かって下さる方には、絶対の勝利をお約束します!!」
冒険者達のざわつきが収まる。
「私達『ソレイユ』と冒険者の皆様が力を合わせれば、魔物の大群など、敵ではありません!!」
力強い言葉に、
冒険者達の顔から不安の色が消えていく……。
「この町を襲う魔物達を、共に討ち滅ぼしましょう!!」
『うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉーー!!!』
辺り一帯に、冒険者達の声が響き渡った。
もちろん、俺も声を張り上げたけどな。
『そうだ!!魔物の大群がなんだってんだ!!』
『やってやるぜ!!!』
『人間様の底力を見せてやる!!』
『精鋭部隊ソレイユ万歳!!』
『俺、この依頼が終わったら結婚するんだ!!』
『よし!お前死んでこい!!』
………なんか最後の方、アホな会話が聞こえた気がするけど、
………気のせいだな。
「それでは、作戦の説明を始めたいと思います」
冒険者達の興奮が収まってきた所で、ランディアさんが説明を始める。
「といっても、大したことではありません。
……まず、魔物達を待ち伏せ、私の魔法で出来る限り数を減らします」
まぁ、待ち伏せるなら魔法の準備もできるからな。
「その後は、できるだけ遠距離から魔法で攻撃しつつ、ある程度距離が縮まってしまったら、白兵戦となります」
……魔法だけで全滅させるってのはやっぱ無理だよな。
ってか、それなら俺達いらないし。
「白兵戦では、できる限り多人数で魔物一匹と戦うようにしてください。
パーティはすでに組んでいますね?」
そういや、レイラが酒場のおやじからそんなこと言われてたな。
「白兵戦の先陣は騎士部隊副隊長、『銀狼』ことロギ・シルムが切って下さいます!!」
ランディアさんは、斜め後ろに立っている銀髪の男を見て言った。
冒険者達から、おおっ、という歓声が上がる。
「……では、皆様。
覚悟はよろしいでしょうか?」
ランディアさんの言葉に、冒険者達の間に少し緊張が走る。
「これより、ジェネラルドラゴン及び魔物の群れの殲滅に向かいます!!」
『おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーー!!!!』
俺達も含めた50人の冒険者が一斉に大声を上げる。
覚悟なんて、とっくにできてる。
もちろん死ぬ覚悟なんかじゃない、勝つ覚悟だ!!
「皆様、到着しました!」
現在時刻、16時少し前。
俺達はチョコレート町から五㎞程離れた平原に到着した。
俺達の周囲には大きな岩がいくつかあるが、それ以外には、特に障害物は目につかない。
「それではロギさん、後はよろしくお願いします」
「承知しました」
ランディアさんは俺達から30m程離れた場所に立つ。
すると、ランディアさんの周りが、茶色く光り始めた。
……『集中』か。
『集中』の光の色は、使う魔法の属性によって違うんだよな。
茶色って何属性だっけ?
「はーい、みんなよく聞けよー?」
と、なんだか間の抜けた声が聞こえた。
『ソレイユ』の茶髪の男だ。
「俺は補助部隊のエンジ。
基本、この辺にいるからケガした奴は来なー?」
……なんか軽そうな人だけど、『ソレイユ』の一員なんだから、すごい人なんだよな……?
「……地響きがするな……」
『銀狼』シルムさんが小さく呟いた。
「貴様ら、もう覚悟はできているな?
後、20分もしない内に魔物共が見えるだろう」
目を鋭くして、シルムさんが冒険者達に言った。
……覚悟はできてるけど、やっぱ緊張するな……。
「おいおい、何震えてんだ?ハディ」
「うっせぇ!……武者ぶるいだっての」
そういうレイラはよく平気だな……。
ん?
「おいレイラ、お前武器は?」
「は?今さら何言ってんだ?
俺は武器なんて使わねーよ!」
……素手で戦うのかこいつ!?
いや、そういう奴もいるって聞いたことあるけど……。
「やっぱり、緊張するね。
……誤射しないようにしないと」
グリーが装填の済んだ銃を持って言う。
……マジで気をつけろよ、怖いから。
「メリス、敵はたぶん魔獣と竜が中心だと思うから、
基本、魔獣には炎、竜には水の魔法を使ってね」
「う、うん!!」
グリーの助言に、メリスは全力で傾く。
……あんまり緊張しすぎると、『集中』に悪影響あるんじゃなかったか?
魔法使いは緊張とも戦わないといけないよな……。
「見えたぞ!!あれだ!!!」
15分後、俺でも分かるぐらいに地響きが強くなったころ、地平線の辺りに、黒い影が現れ始めた。
……魔物の群れだ……!!
冒険者達の間に、大きな緊張が走る……。
魔物の速度なら、後10分もしない内に、ここまで来るだろうからな……!!
冒険者達は岩の前に立ち、それぞれ武器を取り出し始める。
……と、その時だった。
ミシッ……バキッ、バキッ……!!
「な、なんだ!?」
音の方を見ると、ランディアさんの足元から、大地に亀裂が走っていた。
「な、なぁ、グリー。
あれって、まだ『集中』……だよな?」
「……『星の賢者』が15分間も『集中』してるからね。
あそこにはとてつもない魔力が集束してる……。
大地が割れるぐらい、当然なのかもね」
……どんな魔法使う気だよ、ランディアさん……。
「……星の中心に存在せし、核のエネルギーよ……。
……我は地を治める者なり……」
間もなく、『詠唱』が始まった。
大地の亀裂がさらに大きくなり、茶色い光も、その輝きを増していく。
「……地の女神ガイアとの契約の履行を命ず、その姿を我が前に具現せよ……!!」
突然、ランディアさんの隣に、半透明の……身長三mぐらいある茶髪の女性が現れる。
その女性……いや、『女神』は、四、五㎞離れている場所を走る魔物達に、哀れみの眼差しを向ける。
それは、今からそのモノ達を襲う、『災害』を予兆しているようだった……。
「………散り果てろ グラス・ギガイア!!!」
『呪文』と同時に、魔物達の黒い影が、真っ白な光に包まれた………。
今までで一番長くなりました。
二話に分ければよかったですかね……。
次回から、本格的に戦闘になります!