第8話 賛成と反対
~二年と少し前~
「ねぇハディ、『魔塔』って知ってる?」
「『魔塔』?」
剣の修業をしている俺に、メリスが話しかけてきた。
「知らないの?『最強の魔法使い』のことだよ!」
「最強?なんだそりゃ、そんな組織かなんかがあるのか?
冒険者ギルドみたいに」
「違う違う、ただそう呼ばれてるだけみたい。
……でも、すごいよね!最強か~……」
メリスは持っている本の表紙を眺めながら言う。
「なんだその本?」
「週刊魔法ブック!」
メリスは本を俺に見せてくる。
本の表紙には20歳ぐらいの女性が載っていた。
週刊魔法ブックとは、魔法の基礎や上達法、魔術書の紹介、他には有名な魔法使いのエピソードなどが載っている本だ。
メリスはこれが大好きで、毎週欠かさず買っている。
「お前も物好きだな……」
「だって私が魔法使えるようになったの、これのおかげなんだよ?」
そりゃ、その本も助けにはなっただろうけど……。
「……で?なんでいきなり『魔塔』の話なんてしてきたんだ?」
「だから、今週の特集で『魔塔』の人が載ってるの!!」
グイッと俺に本を押しつけてくる。
「……まさか、この女の人が『魔塔』?」
俺は本の表紙を指差して言う。
……もちろん冗談だ。
こんな若い人が『最強』なんて呼ばれるわけ……。
「うん!!よく分かったねハディ!!」
「はぁ!?」
ウソだろ!?
魔力は筋力と違って歳をとっても衰えないから、普通、強い魔法使いって歳とった人ばっかなのに……。
「このイア・ランディアさんは21歳、史上最年少で『魔塔』になったんだって!!」
「……世に言う『天才』って奴か……」
「『天才』じゃなくて『鬼才』って書いてあるよ!」
メリスが特集のページを見せてくる。
……よく分からないけど、とりあえずすごいんだな。
「すごいよね~……私もいつかこんなふうになりたい!!」
「お前、十分強いだろ……」
向上心があるのはいいことだが、
メリスは十分すごい魔法使いだ。
この村で魔法において、メリスの右に出る奴はいないからな……。
「それはこの村の中の話でしょ?
世界にはもっとすごい魔法使いが、いーーーっぱいいるんだから!!
……それに私、こんな小さな村で一生過ごす気なんてないよ?」
「あ、それは俺もだ」
別にこの村が嫌いなわけじゃないけどな……、やっぱり、村の外に出てみたい気持ちはある。
「そういえばハディ、冒険者目指してるんだよね?」
「『そういえば』ってなんだよ……。
俺一応この村じゃ、一番冒険者に近いっていわれてんだけど……」
「じゃあさ!冒険者になったら私もパーティに入れてよ!」
「……はぁ?」
メリスが顔を輝かせて突拍子もないことを言ってきた。
「いいでしょ?私魔法使いなんだから!
絶対役に立つって!」
「……まぁ、そうだろうけど……。
グリーがなんていうだろうな……」
「兄さんもきっと賛成してくれるって!」
「いや、それはない」
絶対反対してくるぞ、あの人は……。
「ってか、何でいきなりパーティに入ろうなんて思ったんだ?」
「だって、強くなるには実戦が一番でしょ?
私、もっともっと強くなって……、いつか『魔塔』の一人になる!!」
そりゃ大層な夢だな……。
「だから、ハディも私に釣り合うぐらい強い剣士になってね!」
「なんだその勝手な言い草は……」
そりゃあ、男の立場から言わせてもらうと、仲間を守れるぐらいの強さは欲しいけどな……。
……なんでこいつ上から目線なんだよ。
「いいからいいから!
はい、指切りげんまーん……」
メリスは勝手に俺の手をとって、小指を絡ませてくる。
「切った!!」
「ちょっと待て!!略すな!!」
……俺達三人が旅に出るのは、この少し後の話だ……。
~現在~
「………」
少し回想が長くなったが……、その、イア・ランディアさんが、今、俺達の目の前にいる。
……メリスが興奮するのも無理ないな……。
「あ、すみません。
マウロさん達お話の最中だったのですね……」
「あ、いや……」
ランディアさんがマウロ……酒場のおやじに、ぺこりと頭を下げる。
「……成程ね」
ランディアさんを見て、グリーがそう呟く。
「国の方から大きな援護が来てるんですね。
……それで町も騒ぎになっていない、と」
「そういうことだ」
え~と、つまり……。
まだ俺とメリスはよく分かっていない。
「挨拶が遅れました」
そのことに気付いたのか、ランディアさんが話しかけてきた。
「私はスイーツ王国軍から派遣されました、イア・ランディアと申します。
この度の『チョコレート町防衛』の指揮を執らせていただきます」
『え!?』
指揮!?
「……軍人が指揮を執るってことは……」
「えぇ、この依頼、依頼主は『国』です」
ランディアさんがにっこりと笑いかけてくる。
「そりゃ大層な依頼主だな……。
ところで、援軍はあんただけなのか?」
「ちょっ、レイラ!?」
平然とタメ口を使うレイラに、メリスが慌てる。
「いえ、私の他に、『ソレイユ』から10名が援護に出されています」
「『ソレイユ』から!?」
ランディアさんはレイラの態度に、特に気にしたふうもなく答える。
その内容にグリーが驚きの声を上げた。
『ソレイユ』ってのは、スイーツ王国軍の精鋭部隊のことだ。
人数はたった30数名だが、大国の軍隊以上の戦闘力を誇るらしい……。
「相手が相手ですからね……、一般兵の出撃は控えました、
その代わり……といってはなんですが、冒険者の皆さんの力を借りたいのです」
「なるほど、数には数を、ってことか」
レイラがニッと笑って言う。
……っつーかさ。
「俺らまだ、詳しい依頼内容聞いてないんだけど……」
『あ』
いや、こんだけ話せば大体分かるけどな?
「え?まだだったのですか?」
「そういやそうだったな」
ランディアさんは驚いていた。
……まぁ、普通に話してたからな。
「依頼内容は『魔物軍団の殲滅』だ。
報酬はD級が一人二万G、C級は一人三万Gだ」
「うわ、報酬すごいな……」
二万とか三万……、
しかも人数分もらえるのか……。
「それだけ危険な依頼だと、そう思って下さい」
ランディアさんは、少し心配そうな目をしていた。
「依頼は『殲滅』なんですか?『防衛』ではなく……?」
「はい、『防衛』は『ソレイユ』から五名があたります」
たった五人……と思わなくもないが、まぁ、『ソレイユ』なら大丈夫なんだろうな……。
「じゃあ、『殲滅』の方に来る『ソレイユ』は残りの五人なのか?」
「いえ……」
レイラの質問に、ランディアさんは首を横に振る。
「残り五名の内、三名はビスケット町に向かっています」
「……え?」
ビスケット町?なんで?
「万が一、魔物の群れが方向を変えてビスケット町に向かった時のため。
また、取り逃がしてしまった魔物がビスケット町に向かう可能性があるため、です」
「あ、そうか、ビスケット町も近いもんな……」
ここからビスケット町まで徒歩で八時間ぐらいだ、ドラゴンが飛んでいけば、もっと早く着くだろう。
その万が一のとき、自分達が駆け付けるまで時間を稼げるように、か。
ちなみに、この近くにある人里はチョコレート町とビスケット町だけだ。
………って、ちょっと待て。
「『殲滅』に来てくれるの、たった二人!?」
いくら『ソレイユ』でも、ちょっと少なすぎないか!?
「いえ、三名です」
ランディアさんが、にこっと微笑む。
「私も『殲滅』にあたります」
………そうか、この人がいた。
考えてみれば当然か、指揮を執るって言ってたし。
「ま、そういうわけで、この国最強の兵士が出向いてきてくれてるんだ。
おかげで町の奴らも安心してる」
「だから騒ぎになってないのか……」
そりゃあ、軍隊も壊滅させられるって噂の『魔塔』だもんな……。
味方にすりゃこれ以上に頼もしい奴はいない。
「それで?お前さん達、この依頼を受けるのか?」
「はい!!」
「おいメリス、勝手に決めるな」
勢いよく手を上げるメリス、……理由はなんとなく分かるけど……。
「だって、ランディアさんと一緒にお仕事できるんだよ!?」
やっぱそれか……。
「ん~、でも確かに……」
報酬は二万X三……、いや。
「なぁ、メリスは『冒険者の資格』持ってないんだけど……」
「資格を持ってない『仲間』は、一人一万Gだ」
ってことは、二万X二+一万=五万Gか……。
これだけあればしばらく楽になるし、いろいろ買いたい物も買えるな……。
「………僕は反対だよ」
声の方を見ると、グリーが眉をひそめていた。
「二人とも、この依頼がどれだけ危険なのか、よく分かってないんじゃないか?」
「いや、まぁ危険なのは分かってるけど……」
それを聞いて、グリーは小さくため息をつく。
「ハディくん、バトルプラント覚えてるよね?」
「そりゃ、覚えてるけど」
「あれが危険度Dなんだよ?」
『小人の遊び場』での戦いを思い出す……。
大したケガはしなかったけど、今思えば少し危なかった。
「それよりも強い魔物が、少なくとも100匹以上いると思った方がいい」
……危険度C~Eの魔物の群れだっけ、そういや……。
「………危険すぎる、だから僕は反対だよ」
グリーはもう一度、真剣な目でそう言う。
「大丈夫だよ!!」
メリスが、大きな声でグリーに言った。
「他の冒険者もいるし、何より、ランディアさんがいるんだから!!」
「……メリス、確かに町は守れるかもしれないけど、僕達個人が大怪我をする可能性が……」
「大丈夫!!」
メリスがゴリ押しでグリーを納得させようとする、が、さすがにグリーも今回は譲れないらしい。
「んじゃ、とりあえず俺は依頼を受けるぜ?」
そんな二人をしり目に、レイラが酒場のおやじに言う。
「……かまわんが、明日の昼集まった時に、他の冒険者と組むようにしてくれ。
いくらなんでも、お前さん一人じゃ無理だ」
「分かってるって!」
レイラはニッと笑って言う。
一人旅をしてるからか、こういうことには慣れてるみたいだな。
「……で、お前らどうするんだ?」
手続きを済ませたレイラが、未だに言い争っている二人に言う。
「もちろん受けるよ!!」
「ダメだって言ってるだろう!」
「大丈夫だってば!」
「大丈夫じゃないよ!」
「……どうすんだ?」
「う~ん……」
二人を無視して俺が勝手に決めるわけにもいかないしな……。
「……まぁいいや、俺は少しぶらついてくるな」
レイラはそう言うと、酒場から出て行った。
……さて、どうするか……。
「……お前ら」
俺が悩んでいると、おやじが声をかけてきた。
「魔物の群れは早ければ明日の16時頃に町に着くらしい。
だから、13時30分ごろには町を出て、町から五㎞ぐらい離れた場所で迎え撃つんだ」
そりゃそうか、町の目の前で戦うわけにはいかないもんな。
流れ弾とか危ないし。
「集合は明日の13時に町の広場だ。
受けない場合は明日の朝に町の避難所に避難することになる。
それまでに決めてくれ」
おやじは俺に手続きの紙を三枚渡した。
「………はっきり言って、D級には荷が重いだろう。
無理だと思うなら、おとなしく避難するか、今日の内にさっさと町を出て遠くに行っちまうかだな」
「………」
手続きの紙を見て、俺はどうするべきか悩んでいた……。
「とりあえず!!」
「うおっ!」
いきなり現れたメリスに、俺は驚く。
忍者かお前は……。
「今日は町を見て回ろうよ!!」
「話はどうなったんだよ?」
「一時休戦、だって兄さん全然納得してくれないんだもん」
こういう時、二人とも頑固だからな……。
「で、ハディ!お金ちょうだい!!」
「は?」
何言い出すんだこいつ……。
「私の取り分!せっかくだから自由に見て回りたいの!」
「あ、そういうことか」
合点がいった。
「ほら、じゃあお前の取り分、1500G」
「……少なくない?」
「全員同額だ、少ないのは貯蓄に回してるからだって」
最低宿代だけでも持っておかないとまずいからな……。
「うん、じゃあ夜には戻るから!」
「変な奴について行ったりするなよ?」
「むー、子供じゃないんだから!」
いや、お前ならアメとかにつられてさらわれそうだ……。
「アメなんかじゃつられないよ!!……チョコだと迷うけど……」
「迷うな!!」
成人近いくせにお菓子につられるなよ……。
「分かったって!それじゃ行ってきまーす!!」
「行ってらっしゃい」
元気よく酒場を飛び出していくメリスに、一応言っておく。
「……で、お前はどうすんだよ?グリー」
「……ハディくんは、依頼受けたいのかい?」
「そりゃあな、報酬良いし」
「………」
少し黙っていたが、グリーは小さくため息をついた。
「多数決なら僕の負けだね……」
「一人でも納得しないなら依頼は受けねぇよ。
もちろん、ちゃんとした理由があれば、だけどな」
俺達はずっとそうやってきたんだ。
……まぁ、金欠時とかは例外だけど。
「とりあえず、せっかくだから町を見て回ろう。
そうすりゃ考えも変わるかもしれないし」
「……この町に愛着がわく、とか?」
いや、そこまでとはいわないけど……。
「……そうだね、せっかく大きな町に来たんだから、観光ぐらいゆっくりしようか」
「おう!あ、おやじ!俺達の部屋取っておいてくれ」
一応おやじに言っておく。
部屋取られて今日野宿とか嫌だからな……。
「同じ部屋でいいな?レイラもそう言っていたが」
「あぁ!」
……いつ言ったんだ?手続きした時か?
「夜までには戻るから。
……あ、昼飯どうするかな……」
「それじゃ、昼飯の分の金は返そうか?」
「あ、頼む」
見た目によらず、気が利くな。
「ほれ、三人で600Gだ」
おやじから金を受け取って、ふと思う。
「……メリスの分は……、ん~、会ったら渡せばいいか。
会えなくても、一応1500G渡したから大丈夫だろ」
少し心配だけどな……。
「よし!じゃあハディくん!
今から僕が町中駆け回ってメリスを捜……」
「そこまでしなくていいだろ……。
ってか、さっき少しケンカっぽかったけど、大丈夫か?」
俺の言葉を聞いて、グリーはハッとなる。
「ケンカっぽかった……?
ま、まさかメリス、僕に気を使って一人で行ったのか!?
……くっ!メリスに気を使わせてしまうなんて!!」
「……いや、それは知らないけど……」
「確か、『夜には戻るから』と言っていた……!
夜まではお互いに頭を冷やそうということか!?」
「落ち着け!!」
頭を抱えてなんか変な妄想を始めるグリーの肩をつかみ、揺する。
落ち着けっつーか、正気に戻れ!
「よし!!僕は夜までに全力で頭を冷やすぞ!!」
「………おやじ、冷蔵庫持ってきてくれ」
「ハディくん!?冷蔵庫に入れられたら全身凍ってしまうよ!?」
よし、正気に戻った。
「そんじゃ、行ってくるな」
「おう」
おやじに一声かけて、俺達は酒場を出た。
さてと、何から見て回るかな……。
~サイドアウト~
ハディとグリーが出て行き、酒場の中はおやじとイアだけになった。
「……それで、ランディア中将、何か話があったのでは?」
「あ、そうでした!」
イアは思い出したように手を打った。
「現在依頼を受けている冒険者の数を確認したいのですが……」
「あぁ、はい」
おやじはゴソゴソと紙を取り出した。
「……先ほど依頼を受けたレイラを合わせて、45名です」
「……そうですか……」
イアはそれを聞き、少し顔をしかめた。
「依頼を受けにきた冒険者は300名ほどいたんですが、……『ジェネラルドラゴン』ですからね。
実際に依頼を受ける度胸がある奴は少ないです」
この町に来た冒険者は、どうやら『報酬の良い仕事がある』、とだけ聞いて来たらしく、依頼内容を聞いたら、ほとんどの奴は怖気づいてしまった。
「……無理もありません……」
イアは小さく呟く。
「『ジェネラルドラゴン』が親玉の群れは、通り道に存在する町や村を全て滅ぼしてしまうといいます。
……怖がるのも無理ありません」
「……『魔塔』らしからぬ台詞ですな」
イアはフッと笑う。
「大丈夫ですよ。
……この町は、絶対に守ってみせますから!」
イアはにっこり笑ってそう言うと、おやじにぺこりと頭を下げ、酒場から出て行った……。
なんだかまたギャグが少ないですね……。
次回はもう少しギャグやお笑いを入れたいです。