第7話 依頼と魔塔
※7/9 誤っていた箇所を訂正しました。
「おはよー!」
次の日、俺が起きると、すでにメリスが起きていた。
……まぁ、昨日夕方に二時間ぐらい寝てたしな……。
「おっす」
声の方を見ると、レイラがベッドに座り髪を結んでいた。
「おはよう」
グリーも、銃の手入れをしながらあいさつをしてきた……。
……って、起きたの俺が最後かよ。
「珍しいねー、ハディが寝坊なんて!」
「疲れてたんだ……、っつーかまだ七時じゃねーか!
寝坊じゃないだろ!」
七時に起きるのが寝坊なら、いつもは八時以降に起きるメリスはどうなるんだよ……。
「いいでしょ別に、寝坊してないし」
「なら俺も寝坊じゃないよな?んで、心読むなっつーの!!」
なんか最近心読まれてばっかなんだが……。
「文句があるならハディが起こしてよー!」
「別に文句なんて言ってないだろ。
……一応言わせてもらうが俺はいつも起こしてるぞ、なのに起きないだろお前……」
「んー……、じゃあさ、おとぎ話の王子様みたいな起こし方してよ!
それなら絶対に起きるから!」
「はぁ?お前何言ってん……!!」
俺の言葉が、凄まじい殺気にさえぎられる……。
「………ハディくん………?」
その殺気を放つグリーは、巨像のごとく鎮座していた。
……なんかドス黒いオーラが見えるのは目の錯覚だと信じたい。
「落ち着けグリー!なんで怒ってんだ!?」
グリーの怒りの原因が分からない。
「何だよ、分かってねーの?」
動揺している俺とは違い、冷静なレイラが、ニヤつきながらそう言ってきた。
「王子様がお姫様を起こす方法といえば、キスしかねぇだろ?」
あー、なるほどキスか!
それでグリーが怒ってんのか、そりゃあ俺がメリスにキスを……。
「しねぇよ!!」
「よっ!この強姦魔!」
「ハディ最低ー!」
「しねぇっつってんだろ!!
その前にメリス!お前が言いだしっぺだよな!?」
どの口が最低なんて言うんだ一体!?
「ははは……、ハディくん、撃ち抜かれるなら右目と左目どっちがいいんだい?」
「どっちもいやだ!!待てグリー!笑いながら銃を向けるな!!
恐いから!マジで恐いから!!」
狂人のように笑うグリーに手の平を向け、なんとか説得しようとする。
「大丈夫だよハディくん、痛くないから……、
………痛みを感じる時間なんてないから……」
「即死させる気か!?」
誰か!!この常時殺人未遂男をなんとかしてくれ!!
「ねぇ、それより朝ごはん行こうよ!おなかすいちゃった!」
「そうだね、そうしようか」
メリスの言葉を聞いた瞬間、グリーは銃をしまい、メリスににっこりと笑いかけた。
……助かった……。
「助けられたな」
「……感謝する気はないけどな?」
そもそもの原因はメリスだ。
「ってか、お前もあおっただろ……」
「わりぃわりぃ、つい悪ノリしちまって」
レイラは頭をかいて、おどけてみせる。
「まぁ、お前はまだ、悪ふざけしてるだけだからいいけど……」
目の前で談笑している兄妹に目を向ける。
「グリーは冗談の度を越してるし、メリスは何故かグリーをけしかけるし……」
「は?」
ため息をつく俺に、レイラは驚いたような声を出す。
「ん?なんだよ?」
「いや……、気づいてねーの?」
気づく……?何に?
「んー……まぁいいか」
「いや、勝手に納得されても俺は良くないんだが……」
「気にすんなって、まっ!できるだけ早く気づいてやれよ?」
ポンッ、とレイラが軽く背中を叩いてくる。
……何なんだ?
「二人ともー!ご飯行こう!」
メリスが手を上げて呼んでくる、グリーもこちらに微笑みを向けていた。
……冗談だとしても銃を向けていた相手に、微笑むことができるこいつは、本当に大物だと思う。
いろんな意味で……。
「ごちそう様ー!」
「だから早ぇよ!!」
食べ始めて20分、メリスはご飯を二回、おかずの焼き魚を一回、さらに味噌汁と納豆を一回ずつおかわりし、朝食を終えた。
こいつどんな速度で噛んでんだ!?
むしろ本当に噛んでるのか!?
「当たり前でしょ?噛まないと飲み込めないよ?」
「オーケー、もう心を読まれることにはつっこまないからな?」
人間は慣れる生物だって、どっかで聞いたことがある。
「たしかにメリスは食うの早ぇよな……」
「良い食べっぷりだよね」
「おいグリー、そこは『健康に悪いからゆっくり食べてね?』とか言う所だろ……」
「ハディ、声マネ似てないよ?」
「悪かったな!」
他愛もない会話をしながら、朝食を進める。
ちなみに、他の奴らはというと、レイラがご飯を一回、俺も同じく、グリーはおかわりなしだ。
……っつーか、普通の奴は一回もおかわりしない量なんだが……。
「さて、メシも食い終わったし……」
「依頼の話、おじさんに聞かなきゃね!」
暇そうに煙草を吹かしている酒場のおやじを見て、言う。
俺達は酒場の宿屋に泊まったため、朝食は酒場の一階で食べた。
……少し酒臭いが、まぁ、そこは我慢した。
おやじの方も俺達の声が聞こえたのか、こっちを向いたのが見えた。
「依頼……か……」
おやじはそう呟き、少し考え込んでいた。
「なんだよ、ないのか?」
しびれを切らしたレイラが言う。
「いや、あるぜ、……とんでもねぇのがな」
おやじは一拍置いてから、真剣な表情で続ける。
「……だが、正直お前らにはおすすめできねぇ」
「なんでだ?」
「それぐらい危険なんだ。
……お前らの予想通り、この町に来てる冒険者は大半がこれ目当てだ。
……だが、このヤマはD級や、例えC級でも子供には無理だぜ?」
……なんか、相当やばいっぽいな……
「話だけでも聞かせてもらえませんか?
受けるかどうかは聞いてから考えます」
グリーがおやじにそう言う。
「………そうだな。
それぐらい自分で判断してもらわねぇとな!」
おやじは笑ってそう言うと、
依頼の詳細を話し始めた……。
「……お前ら、『ジェネラルドラゴン』って知ってるか?」
『?』
おやじの言葉に、俺達は疑問符を浮かべる。
「知らないけど……ってグリー、どうした?」
唯一疑問符を浮かべなかったグリーは、青白い顔で何かを呟いていた。
「そんな……まさか……!」
「ど、どうしたんだ?何か知ってんのか?」
レイラの言葉に、グリーは顔を上げる。
「……『ジェネラルドラゴン』……危険度Aの中位竜だよ……!!」
「き、危険度A!?」
なんか強そうな名前だと思ったけど、マジで!?
危険度Aっていったら、
A級冒険者なら数人、
B級冒険者なら十数人がかりで、
やっと倒せるレベルだぞ!?
「『竜』がすげぇのは知ってたけど、中位でも危険度Aがいるのかよ……」
魔物を5つに大別した時、『竜』はその中で最強だって言われてる。
「……いや」
俺の呟きをグリーが否定する。
「『ジェネラルドラゴン』自身の戦闘力はそこまででもないんだよ、危険度Bの魔物と同じぐらいらしい。
……ただ、その習性が厄介なんだ……」
危険度Bって十分恐ろしいけど……。
「……ジェネラルドラゴンは、弱い魔物を引き連れる習性があるんだ」
「はぁ!?」
引き連れるって……何だそれ!?
「つまり、自分よりも弱い魔物を下僕として従えるんだよ。
……そうして、巨大な群れを作る……」
「巨大なって……、ぐ、具体的にどれぐらい?」
「……大きいものだと、総勢300匹を超えることもあるらしいよ……」
「300!?」
何だその数!?もはやちょっとした軍隊じゃねぇか!!
「本当に怖いのは数じゃないよ。
ジェネラルドラゴンが引き連れるのは、危険度C~Eの奴ら、つまり一匹でも危険な魔物が大量にいるんだよ……。
まさに大軍勢の『将軍』って感じだね……」
「……そういや、危険度は魔物の『戦闘力と危険性』によって決められるんだっけか?」
……なるほど。
その魔物一匹の戦闘力はBぐらいでも、群れを作る危険性から危険度Aになってるのか……。
「おいおい……。
そんなのに出くわしたら一巻の終わりだな……」
……ん?ちょっと待て、俺達は今依頼の話を聞いてるんだよな?
なんでそんな恐ろしいドラゴンの話に………。
「………おい、まさか……!!」
当たって欲しくない予感ほど、当たってしまうと聞いたことがある。
……できれば、この予感は外れてて欲しかった……。
「……その、まさかだ」
酒場のおやじが、真剣な表情で言った……。
「200匹を超える魔物の群れが、この町に向かってきてる。
……その親玉がジェネラルドラゴンなんだ……!」
「ウソ……だろ……!?」
俺達は驚愕に目を見開いていた……。
「だ、だって……、この町に、そんな様子は全然……!!」
「そうだ!!そんな魔物の群れが向かってきてるなんて、この町の危機だろ!?
なのになんで、町で騒ぎになってないんだ!?」
「あぁ、それは……」
おやじが俺の質問に答えようとした時……、
入口の扉が開いて、人が入って来た。
「あっ、マウロさん、少しよろしいですか?」
「ランディア中将!どうかしましたか?」
………へ?……中……将……?
ランディアと呼ばれた女性は、軽く駆け足でこっちに向かって来た。
「はい、人数の確認をしたくて……、その子達は……?」
女性は、俺達を不思議そうな目で見ていた。
……まぁ、俺達はまだしも、13歳のレイラは絶対に不思議がられるよな……。
「あぁ、こいつらも冒険者なんですよ」
「えぇ!?あっ、本当!腕輪!!」
女性は、口に手を当てて、驚きの声を出す。
……何か子供っぽい人だな……。
改めて女性をよく見てみる……。
背はメリスとだいたい同じぐらいで、暗い茶髪を背中で三つ網にしている。
毛先が黒いけど、染めたんじゃなくて地毛って感じだな、
瞳はメリスやグリーと同じような、普通の茶色だ。
……なんか、雰囲気がメリスに似てる気がする……。
「それじゃあ、この子達も作戦に?」
「いや、それはまだ話してる所で……」
「あ、あの!!」
女性とおやじの会話をメリスがさえぎる。
なんか、メリスの顔が紅潮してる……、
ってか少し興奮してるように見えるような……。
「も、もしかして……イア・ランディアさんですか!?」
「えっ!?」
「イア・ランディアって……、あの!?」
メリスの出した名前に、グリーとレイラも驚く。
……え~と……。
イア・ランディア……、何か聞いたことはあるんだけど……。
「は、はい、そうです」
「わぁぁっ!!」
それを聞いた瞬間、メリスがもの凄くうれしそうな顔になる。
「わ、私、メリス・テーナスっていいます!!
ランディアさんにずっと憧れてました!!」
「え、えっと、あ、ありがとう……」
完全に興奮状態のメリスに、
ランディアさんは少し困惑気味だ……。
………ん?メリスが憧れてた………?
「あああああぁぁぁぁぁぁーーー!!!」
突然大声を出した俺に、その場にいた全員が、ぎょっとする。
「思い出した!!」
俺達が冒険者を始める少し前から、メリスがよく言ってた……!!
最強の魔法使い『魔塔』に、史上最年少で選ばれ、現在は23歳にしてスイーツ王国軍魔法部隊隊長を務め、八人の魔塔、通称『八つの魔塔』の一角に、唯一『大魔導師』で君臨する鬼才!!
「『星の賢者』イア・ランディア!?」
またも大声を出す俺。
「……え、えーと……はい」
イア・ランディアさんは、苦笑しながらそう答えた。
またも新キャラ登場です。
こちらの設定はこの章が終わったら書こうと思ってます。