第6話 メモリーズ
「……というわけで今日はツリーの点灯式です」
——ビッグボスがマエダさん?!
ツリーの点灯式前の打ち合わせをしている間中、僕は頭の中でずっとビッグボスの顔とあの日見たマエダさんの顔を重ねていた。
——確かに似ている……。でも、今とは髪型と化粧の雰囲気が違うのか?
——となるとあの時感じた既視感。あれはやはりビッグボスの面影を感じたからなのか。というか、僕は過去のビッグボスに会ったと言うことなのか? つまりそれはタイムスリップをしたと言うことか?
「タテノ、聞いてるの?」
「え?! はい、聞いてます!」
「聞いてるならいいけど……。とにかくみんな注意してね。10年前のこともあるし」
「10年前?!」
ビッグボスから10年前という言葉が出たことに驚いてしまう。そう、僕がタイムスリップしたのはちょうど10年前くらい……?
「そう、10年前にツリーの飾りが落ちる事故があったのよ。幸い直前に私が気付いたから大事にはならなかったけど……」
話を聞くと、登場働き始めて間もなかったビッグボスがツリーの飾りが落ちそうなことに気づいて、点灯式の中断を1人で決断して、お客様をツリーから避難させたらしい。そして、避難した直後にそこそこ大きい飾りが風に吹かれて落下してきたとのことだ。
——その頃から心持ちはビッグボスだったんだな……
僕がそれに気づいたとしても、すぐに行動できるだろうか。どうしようと迷っているうちに、落下してきて大惨事になってしまうかもしれない。
「まぁ、そういうこともあるから本当に注意しておくこと。何かが起こってからでは遅いからね」
あの時あったビッグボスが……マエダさんがそんなすごいことをしていたなんて。10年前のビッグボスは僕と同い年くらい。今の僕に当時のビッグボスのようなことが出来るのだろうか。
「じゃあ話は終わり! 今日はみんなよろしくね。あ、タテノだけ残ってなさい」
「え?! 俺だけ?!」
◆◆◆
僕はビッグボスと2人でその場に残っていた。何かしてしまったのだろうか、また怒られるのかと色々考えているとビッグボスがいつもの口調で話し始める。
「タテノ、これあげるわ」
カキカキカキ
ビリっ
ビッグボスはそう言うと、手帳に何かを書いて破って渡してきた。そこには殴り書きで『考える前に動け!』と書いてあった。
「あんた、うじうじとしてる時あるから、迷った時はこの紙を思い出して動きなさい。何かあったらすぐ動くことね」
「え……。俺、そんなにうじうじしてますか?」
「してるわよ。そんなんだと、あかねちゃんも誰かに取られちゃうんじゃない?」
「——?!」
「好きなら好きって早く言わないと、チャンス逃しちゃうわよ」
「なななな、何で俺があかねちゃんのこと好きって……」
「そんなの見てりゃわかるわよ。あかねちゃん人気だから、うじうじしてると……」
「そんな! 他にあかねちゃんの事好きな奴いるんですか?!」
「知りませーん。どうだろうね?」
「ちょ、ちょっと教えてくださいよ!!」
茶目っ気たっぷりに笑って見せるビッグボス。そのまま僕を置いて仕事へと戻って行ってしまった。
◆◆◆
——あかねちゃんに告白……
「さぁ、いよいよツリー点灯の時間です」
——あかねちゃんに告白……
「今年もパークに来る皆様があたたかい光に包まれますように」
——あかねちゃんに告白……
「それでは、点灯……!」
ぱぁぁあ
目の前の巨大ツリーが鮮やかな光を放つ。そして僕の横にさらに鮮やかな光を放つあかねちゃんが現れた。まぁ、ツリーがどんなに着飾ったって、あかねちゃんの輝きには勝てないんだけどね。
「良かった! 飾りが落ちて来たりはしなさそうだね」
「本当にね。落ちそうなら、今にも駆け出してやろうと思ってたんだけど!」
「ふふ、本当に? タテノくんのことだからぼーっとしてたんじゃないの?」
「酷い! あかねちゃんまで俺をそんなふうにイジってきて!」
「あはは、ごめんごめん」
あかねちゃんが笑顔オブザイヤーを受賞せんばかりの笑顔で笑う。あぁ好きだ。可愛い。どうしてそんなに可愛いのか。ツリーの光に照らされて、いつもより増して輝いて見える。これがクリスマスの魔法ってやつですか?
「来週のジェットコースター楽しみだね」
「うん、本当に楽しみにしてる」
いつもならジェットコースターという言葉を聞くだけで恐怖心を感じるが、不思議と今は何も感じなかった。それどころか、本当に心の底から楽しみだという気持ちが言葉になった感覚がした。
——告白……できるのか?!
来週のデートで告白。冷静に考えると早い気もする。まだもう少し関係を築いてからじゃないと……。
ガサッ
ふとポケットに手を入れると紙が手に当たる。それは先ほどビッグボスにもらったメモ書きだった。『考える前に動け!』、その文字を見て、僕は拳にグッと力を入れるのだった。




