悪役令嬢になります
私が初めてプレイした「君と私は踊りたい」は典型的な乙女ゲームだった。
主人公が、イケメン騎士様、イケメン伯爵、イケメンetc....をどんどん魅了していく。
更には、主人公を虐めていた悪役令嬢の婚約者までもを奪って、公の場で悪役令嬢の婚約を破棄し、どん底に陥れるという。ごくありきたりな脚本だった。
しかしなぜだろうか。
いや、昔から自分自身、少しマゾ気質なのは理解していた。
だからなのか、私はそんな悪役令嬢の状態に密かに憧れを覚えていた。
理由は何であれ、美男美女に軽蔑の目でみられ、虐げられる。
そんなご褒美があってよいものなのか。
はたまた、公の場でその醜態をさらした彼女の心境を味わってみたいのだ。
そして、そんなありもしない妄想に駆られながら、私は深い眠りについた。
ーーーーー
目を覚ますとそこには、見覚えのない景色が広がっていた。
子鳥のさえずりが耳を通り抜け、シャンデリアのぶら下がった天井をじっと見つめていた。
更には心なしか体が軽いような気がした。
ベッドも格段に高性能のもののようだ。
とにかく、今私のいる場所は、私が昨夜眠りについた寝室ではないということがすぐに理解が及んだ。
コンコン
扉のノック音と伴に図々しくも人が入って来るではないか。しかもかなりの美人だ。
その女性は時代にそぐわない、白と黒を基調としたメイド服に身を包んでいた。
一体なぜだろうか。どうもその服のデザインには見覚えがある。いや、メイド服なんてどれも同じか。
というかよく見ると部屋の中までもがどれも中世ヨーロッパらしい様相をしていた。趣味の悪い家に私は来てしまったものだ。
そののち、メイドはこう呟いた。
「おはようございます。レイナ様」
彼女の口から発せられた名前に私は耳を疑った。
なぜなら口にしたその言葉には随分と聞き覚えがあったからだ。
これまでの既視感や、妙に慣れていることに対する違和感の正体はこれだった野かもしれない。
なるほど……願ってもないことが起きてしまったというわけか。
レイナ。という名前はおそらく「君と私は踊りたい」の悪役令嬢、レイナ・ド・ヴァルフリーデンのものに違いない。
つまり私は悪役令嬢に転生してしまったのだ。
「レイナ様? レイナ様? どうされましたか?」
「えっ? ああ…どうしたの?」
考えるのに夢中になってこっちの会話の呼応を忘れていた。
「どこか体調でも優れないのですか?」
「いや、大丈夫よ。少し考え事をしていてね……」
「それなら良いのですが……」
どんな口調で話せばよいのだろうか。
メイドをどう扱ったらいいのか、いまいちぱっとしない。
「それで……お食事の準備ができていますので、どうぞ食堂にいらしてください」
「ああ、うん。わかった……すぐに行くわ」
「それでは、失礼致しました」
そうしてメイドは私の部屋を後にした。
とにかく今の状況がわからないので、ひとまず自分の部屋を散策することにした。
すぐに食堂に行くとは言えども、少し見るだけなのだからそこまで大きな差は生まれまい。
広々とした部屋だすべて見回るのにも苦労するだろう。なので今はチラ見程度で満足することにしよう。
そうしてベッドから降りたのち、部屋全体を一回り目を向けると、すぐに目に入ったのは姿見だった。
縁には現代では考えられない程の豪華な宝石が装飾されキラキラと、まるで宝箱のように輝いて見えた。
更に特筆すべきはその中央に映った少女。なんとも美しい少女がいたものだ。
悪役令嬢とは言えども、宝石以上に輝かしい大きな瞳を持ち、容姿の至るところすべてが整っていた。
しかし困ったことに、その少女は8つか9つほどの体つきだったのだ。ゲーム内での設定は17歳ほどだったはずなので。私の知る世界とこの世界とでは、約10年ほどのずれが生じているのだ。
ある程度予想の付く展開だが、
どうしたものか、この10年間の展開が予想できない以上簡単には行動できない。
おそらくここに転生させた神もしくは神的なにかが求めているのは、というかこのままありきたりな展開を進むのであれば、この10年間でなんとか破滅フラグを回避するか、辺境の地でスローライフを送るかの二択なのだが……
それだとどうも、刺激が足りない……じゃなくて…危険すぎるのだ。
バタフライ効果という言葉を知っている。
簡単に言えば、過去の小さな変化で大きな変化をもたらしてしまうというものだ。
つまり私が伝えたいのは私の下手な行動が、主人公+イケメン男たちに大きな危険を及ぼすかもしれないのだ。いや、それだけではない国民、ひいては王国の存続に関わる大事件につながるかもしれないのだ。
それだと良くないので、私は悪役令嬢のままでいることにしよう。
いや、悪役令嬢の気持ちが味わいたい、とかそんなやましい理由があるわけでは決してないぞ。
うむ、後ろめたさなんてない率直なる周りを気遣う気持ちだ。
別に、美男美女に軽蔑されたいなんて思っていやしないさ……
…………出来る事なら本当は破滅したい。
と、そんな誰に届くこともない自分語りに浸っていると、かれこれ数十分が経過していたのだろう。
今度はノック音の一つもなく、先ほど顔を出したメイドが心配げに、またこの部屋に訪ねてきた。
「お嬢様、やはりどこか調子が優れないのですか」
たった数十分食堂に現れなかっただけでこの扱いとは、たいそう主人に忠実な従者がいたものだ。いや、この時代、この世界の公爵令嬢クラスともなると、大事があったとすればすぐに彼女の首が飛ぶのかもしれない。
「いえ……そういうわけでは…」
姿見から目を離し少し低めに視線をむけて私は呟いた。
「食堂にはすぐに行きますので、どうか少しだけ考える時間を下さらないかしら」
メイドは何を考えるのかということを敢えて聞くこともなかった。私の何かを理解しているのかはわからない。
もっとも、そのメイドの理解というものは決して転生のことについてではなく。的外れなことなのだが。
「でも、まあ、そうなってしまうのも無理はありません。さぞ緊張されていることでしょう」
緊張?? いったい何に私が緊張するというのだ。
私はただ、転生の衝撃でまだ脳の理解が追い付いていないというだけで……
「なにせ今日は王国、第三王子、フェリクス・ローデンベルク様との結納式が行われるのですから」
このメイドの口からどうして次から次へと衝撃的なワードが飛び出すのだろうか。
まあいい。とりあえず気持ちのままに叫ぶことにした。
「な、なんですってぇーー!!!!」
初投稿です。いろいろな人のを読んで見様見真似で書いてみました。
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