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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編百合

ドラゴンのハロウィン

作者: 風土帽



「ハロウィンに行きたい?」

「そうです!近所の商店街でハロウィンの催しがあるんですよ!」



 ヴィヴィが嬉々として、これ!と近くの商店街のチラシを見せてきた。

 うちの所は最近の商店街にしては、かなり活気がある方でイベントにも積極的だ。毎年開催はしているが行ったことはない。前の職場ではイベント終わりの仮装した人たちとすれ違う程度で、ああまたやってたんだくらいにしか思っていなかった。



「ふーん、いってらっしゃい」

「ええー!?ソラリさん、その日お休みですよね!?一緒に行ってくれないんですか!?」

「いや、一緒にったってそれの参加条件、仮装しなきゃでしょ?」



 確かにその日は休日だから時間はある。だけどチラシの参加事項の所に、何かしらの仮装をしていることを条件にしていると記載があった。高校や大学の時なら百歩譲ってあり得たかもしれないが、今の年になって仮装して人前に出るなどできる訳がない。



「いやだ、恥ずい」

「ええー!ガッツリしたものじゃなくてもいいみたいなんですよー!商店街の人たちに聞いたら、耳とか角とか一部だけでもいいみたいなんですよー!」

「わざわざ聞いて回ったのか……」



 何という行動力!

 しかしだ、一部だけと言っても抵抗感はある。かく言うあたしは、某ネズミーランドでも班の人たちがつけていたカチューシャやキャップは絶対につけなかった。あれとか中でしかつけないのに、なんでみんな買うんだろうと疑問に思っていたくらいだ。



「ソラリさ~ん、行きましょ~よ~」

「えー………何でそんなに行きたいん?」



 ピタッと動きが止まった。なんかまずい事聞いちゃったかな?



「私、最近外に出たばっかりでまだまだ知らないこと、やったことないことが多いんです。何か人間が楽しそうなことやっていても、私は遠くから見ているだけでした。人間に変化できるようになっても、あの中に混ざることは勇気がなくてできませんでした。普通の買い物くらいなら一人でも行けるんですけど、こうたくさん人が集まるような催しはまた違って足がすくむんです」



 ぽつぽつと話す彼女は、いつもの快活な感じは微塵もなくてただ一歩踏み出せなくて、足踏みしている女の子のように見えた。



「すみません、こんなこと言われても困りますよね。やっぱりいいです、せっかくのお休みですしゆっくり「わかった」………え?」

「いいよ、行こう」

「え?いいん、ですか?」

「なに、いや?」

「いいえ!嬉しいです!でも、本当に?」

「…………あたしあんまりイベント事とか好きじゃなかったんだ。高校の文化祭とかも協力はするけど、皆と同じようには楽しめなかった。今思うとかなり冷めた子だったんだなって」



 どこか皆から一線を引いてた、遠くから眺めていただけだった。その場にいるのに、心だけはどこか遠くにあった。社会に出てからもそのスタンスは変わらなくて、同じクラスや研究室の子達は趣味や仕事を楽しんでいるのをフーンという感じで思っていた。まあ、社会に出てからは自分に余裕がなかったというのもあったんだろう。自分にも他人にも興味がなかった。

 でも、ヴィヴィと再会したあの日からすべてが変わった。仕事は大変だけど自分を殺すほどじゃない。最近はヴィヴィがご飯を作ってくれているとか、「お帰りなさい!」と言ってくれるとか、一緒に散歩をしてくれるとかそんな些細なことが嬉しい。何より、ヴィヴィが喜んでいる顔が好きだ。



「でも、今はヴィヴィが知らないこと、やりたいこと一緒にやってみたい」

「ソラリさん…………」

「あーでも、仮装は一部だけでもいい?さすがに全身は無理」

「じゃあ、ソラリさんのは私が決めてもいいですか!?」

「お手柔らかにお願いします」

「はーい!」



 うん、良い返事だ。不安は残るが、とりあえずヴィヴィに任せよう。











「これは?」

「ドラゴンのハロウィンフードです!」

「見たことない……」

「私の手作りですから!(フンスッ)」

「すごっ」



 ハロウィン当日、ヴィヴィから手作りのハロウィンフードを受け取り鏡の前でかぶってみた。

 頭巾のように被るだけタイプで、天辺にドラゴンの目と角、ドラゴンの額に当たる部分には宝石のようなビーズがついていて、顔周りは口のようになっていた。なんかヴィヴィに説教されたあの口に食べられてるみたいだ。



「これくらいなら大丈夫ですか?」

「うん、まあ、いいかな」

「よかったです!」

「それで、ヴィヴィは着ぐるみ?」

「そうです!あ、尻尾と翼は自前です!」



 ヴィヴィは隣でくるりと回って、尻尾と翼を見せてきた。フード部分はあたしと同じだが、全身はドラゴンの鱗模様のツナギで、尻尾穴と翼穴があってそこから尻尾と翼を出している。

 普段家では尻尾と翼を出しているが、外出時は隠している。本人的曰く、翼はともかく尻尾を隠すのは結構むず痒いらしい。



「そろそろ時間だし、行こっか?」

「はい!」







「堂々と尻尾を出して歩けるの、新鮮ですね~!」

「あんまりブンブンしないの」

「すみません、つい嬉しくて」



 商店街への道中、ヴィヴィが尻尾を大きく振りながら歩いていたので少し注意をした。仮装の尻尾だとしても歩く振動で多少動くことはあるが、今のは明らかに自分で動かさないといけないくらいの角度まで上がっていた。さすがにバレてしまうのではと思い注意をしたが、さっきより尻尾の振りは小さくなったものの犬が尻尾を振っているみたいに右に左にせわしなく動いていた。



「人が多くなってきたらあんまり動かさないようにね」

「はい!」



 バレる云々以前に他人に怪我させちゃうかもしれないしね。











「おばちゃん、トリックオアトリート!」

「はいはい、揚げたてのカボチャコロッケだよ!」

「わーい!」



 商店街に着くと、いたるところで仮装をした子供たちがトリックオアトリートとお菓子をねだっていた。お菓子だけではなく、総菜屋ではカボチャコロッケ、たい焼き屋ではカボチャ餡のたい焼き、団子屋では月見団子など専門店らしいトリートを用意しているみたいだ。



「こんにちは!」

「あら、ヴィヴィちゃん!可愛いカッコしてるわね!」

「藤田さんも豚さんの仮装カッコいいです!」

「アッハッハ!そうかい?揚げねぇ豚はただの豚だ、ってね!」



 飛べねぇ豚は只の豚の仮装ですか。なかなか攻めてますね。

 肉のふじたはここに住んでから、私もよく通っていた店だ。まあ、前の会社の時は空いてる時間にこれなくなっちゃったけどね。それでも営業時間内に来れたときは、何かとサービスしてもらっていた。



「今日は空井ちゃんも一緒なのね」

「はい、ヴィヴィが行きたいって言ったので」

「それにしてはちゃんと仮装もしてくれたのね~」

「う、そっそれもヴィヴィがどうしてもって言うから」

「あら~よかったわね~ヴィヴィちゃん」

「はい!一緒に来れて嬉しいです!」



 そんな満面の笑みで言わないでくれ、めっちゃ恥ずかしい。おばちゃんもあらあらうふふ、みたいな目で見ないでくれ。



「そ、そういえば大人も参加してよかったんですかね?なんか子供が多いから」

「もちろんさ!子供も大人も皆で楽しんで、商店街を盛り上げようってイベントだからね!」



 ほら!とおばちゃんが指さした先には、明らかに成人しているであろう人たちが段ボール〇ンダムやバカ殿、ミニスカ警官やら多種多様な格好をしていた。中にはちょっときわどい悪魔のような恰好をした人たちもいたけど、さすがに主催者側からもう少し露出を減らすように注意を受けていた。



「はしゃぐのはいいけど程ほどさね~」

「あはは……」

「サキュバスは見たことありますけど、あれよりもっとすごいですよ」

「そうなん?」

「はい。ほぼ裸でした」

「わーお……」



 さすがモノホンは違いますね。

 まあ、大人も参加していると分かったので私たちもはしゃぎすぎないよう楽しもうか。



「あ、藤田さん!Trick or Treat!」

「ネイティブだね!はい、カボチャ入りの肉まんだよ!空井ちゃんもね」

「わーい、ありがとうございます!」

「ありがとうございます」

 


 おばちゃんから小籠包サイズの小さめの肉まんを二人分手渡された。まだ湯気が立っていて、ちょっと手で持っていられないくらい熱々だ。



「あっつ」

「ソラリさん、持ちますよ」

「あ、ありがとう」

「じゃあはい、あーんしてください」

「ええ!?」



 持ってくれたのはありがたいけど、そこであーんってする!?ここ外だし、商店街で人いっぱいだよ!?



「冷めないうちに食べないともったいないですよ?」

「いや、でも、ここ外」

「あーんしてください」

「ヴィヴィ……?」

「あーん」

「…………あーん」



 押しに負けたよ。もぐもぐと咀嚼すると、薄い生地の中にカボチャの甘みと肉の旨味が広がる。お肉の旨味もさることながら、カボチャと玉ねぎがそれにうまく調和していて美味しさを加速させている。普通サイズじゃないのを悔やむうまさだ。



「うっま」

「おいひいですね~。後でレシピ聞きたいですね~」

「そだね~」

「最後の一口ですよ、あーん」

「あーん」



 うん、うまい。恥ずかしうまい。

 なんかヴィヴィが満足そうなので、もう気にしないことにしよう。このドキドキなんて知らない、気にしたら今まともにヴィヴィの顔見れなくなるから。












 いろんなお店を回ってトリートを受けながら、普通に買い物をしたりと楽しんでいるとヴィヴィの姿を見た子供たちが駆け寄ってきた。



「わーヴィヴィちゃんの仮装すごいね!」

「尻尾とか羽とか本物みてぇだ!」

「すごいでしょ~。でも触っちゃダメですよ?」



 本物だからね。

 ヴィヴィに寄ってきた子供たちは商店街のお店の子供たちで、買い物をするときにおしゃべりしたり時には一緒に遊んだりする仲らしい。いつだったかヴィヴィが泥だらけで帰って来た時はびっくりしたな~。その日は雨上がりで、水溜まりがたくさんある中で子供たちと鬼ごっこをしていたらしい。



「ヴィヴィちゃん、こっちの人は?」

「この方は私と一緒に住んでるソラリさんです!」

「ねーねーお姉ちゃん達はどーせーしてるの?」

「ぶっ」



 不意打ち過ぎて思わず吹き出してしまった。

 同棲って、最近の子はませてるな~。まだ意味までは知らない、よね?



「同せい?一緒に暮らしてはいますね~」

「しょうこ知ってる!どーせーってカップルが一緒に暮らすことだよね!」

「じゃあヴィヴィちゃんとお姉さん付き合ってるの?」



 しょうこちゃん、そういう事はおっきい声で言っちゃだめでしょ!こんな小さい子に意味教えたのは誰だ!それとも〇ーグル先生か!?親御さんはちゃんとフィルターかけて見守ってください!そのうち不倫とか調べ始めるよ!?



「んーそうですねー私は、ひゃうっ!?」

「うお!ヴィヴィ!?」

「うわー、すげえ!あったかい!」

 


 ヴィヴィの言葉が途切れて悲鳴が聞こえたと思ったら、尻尾に興味を持っていた子がヴィヴィの尻尾を握っていた。

 こんの悪戯ガキンチョ様め!



「ぼく、尻尾つかんじゃダメだよ?」

「これ本物?わっまた動いた!」

「……ッ……っ!」



 私は無言でヴィヴィの尻尾を握っている子の手を掴む。その子は突然のことにびっくりしたのか、握っている手を緩めた。それを見計らってその子の手を尻尾から遠ざける。



「ヴィヴィが嫌がってるからやめてね?」

「う、うん」

「ヴィヴィにごめんなさいは?」

「うん。尻尾、勝手に触ってごめんなさい」

「い、いえいえ!でも、角とか尻尾は今度から無暗に触らないようにしましょうね?」

「わかった!」

「ヴィヴィちゃん、弟がごめんなさい」

「しょうこちゃんも謝らなくていいですよ」

「でも…………」



 しょうこちゃんも弟君と一緒にシュンとしてしまった。

 うーん、この空気を元に戻したいけどどうしたもんか………………そうだ!



「ちょっと待ってて」

「ソラリさん?」



 近くの文房具屋で折り紙の用紙を買って、ベンチを机にして折り紙を折る。できた折り紙に顔を書いて、大容量棒付きキャンデーを取り出しその折り紙をかぶせる。



「はい!おばけのキャンディーだよ」

「わぁ!かわいい!」

「おれもいいの?」

「いいよ。お姉さんからのトリートだよ」

「ありがとう!」

「お姉ちゃん、私も欲しい!」

「ちょっと待ってね~」

「ソラリさん、私も教えてもらっていいですか?」

「オッケー」



 その後、その場にいた子達全員にお化けのキャンディーカバーを付けた棒付きキャンディーを配った。喜んでくれたようで、皆笑顔でまた商店街を歩いて行った。



「よかった~」

「ソラリさんすごいですね」

「え?ああ、ハロウィンの販促で大量に作らされたからね。喜んでもらえてよかったよ」

「それもですが…………」



 もごもごとヴィヴィにしては珍しく歯切れが悪い。

 私はただあの空気が嫌だったから、自分ができることで変えようとしただけだ。成功してよかったよ。



「尻尾、握られるの嫌だって」

「そりゃ気づくよ」

「でも、しょうこちゃん達はソラリさんに言われて気が付いたって感じでした」

「そーかなー?」



 弟君に一回注意した後も、声は出てなかったけど本当に嫌がってるのは分かった。まあ、その後はちょっと強硬手段だったかもしれないけどね。



「また助けられちゃったな」

「ん、なんか言った?」

「何でもないです!」

「そう?」



 ヴィヴィが小さい声で何か言っていたけど、よく聞き取れなかったけど何でもないならいいや。

 あ、そうだ。



「ヴィヴィが嫌じゃなかったら、私の腕に尻尾巻き付けてていいよ?」

「うえ!?な、何でですか!?」

「いや、そうしたら急に触られることもなくなるかな~って。ああ、嫌だったら本当に無理しなくていいよ!」

「…………いえ、失礼します」



 するすると遠慮がちに私の左腕に尻尾を巻き付ける。

 あったかい、確かに握りたくなる気持ちもわからないでもない。握ってしまわないように注意しよう。



「あの…………」

「なーに?」

「少しだけなら握ってもいいですよ」

「え、でも」

「ソラリさんなら、いいです」



 それならばと、手でヴィヴィの尻尾をハムスターを捕まえているくらいの力でふんわりと握る。



「大丈夫?」

「はい」

「今日は楽しかった?」

「はい、とっても」

「それはよかった」

「ソラリさんも楽しめましたか?」



 少しハプニングはあったが、あの頃より全然楽しく感じた。あの頃と違うことといえば、ヴィヴィと一緒だったことくらいか。



「うん、楽しかった」

「よかったです!」



 そう言ったヴィヴィは自分の時より嬉しそうな顔をしていた。
















「ねえ、やっぱりあの二人付き合ってるよね」

「姉ちゃん、さっきからそればっかだな」

「だってあのふいんき見てよ!カップルみたいでしょ!?」

「しょうこちゃん、こういう時は遠くから見守るのがいいんだってお父さんが言ってたよ」

「そうなの?」

「うん、それが漢だって言ってた」

「じゃあおれも立派な”おとこ”になる!」











 空璃とヴィヴィがイチャイチャしているのを書きたくなり、衝動で一気に書き上げました。

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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