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はにかみラジカリズム。

七か月またぎの更新です。大概の御想像通り、『気が向いたから』です。連載作品としてそれは許されるのだろうかと考えないでも無いですが、本編を定期更新(とはいえ大分ペース落ちましたが)しているので許容ということにしていただければと。

『気が向いた』分、内容的には本編より濃いかもしれません。どちらが面白いかなんて問われれば、それはもう言葉を濁すしかありませんけども。面白くない、なんて言いたくないですしねっ←

僕が悪いのではない。軽いピッキングにすら対応出来ない、第一理科実験室が悪いのだ。だから、僕はこの状況――――豆腐の如くぐちゃぐちゃに潰れた流し台の始末について、一切の責めを負うつもりが無いことを、ここに明記しておこう。

徹頭徹尾、始終全部、詭弁である。戯言(たわごと)とも言えた。


では、現状を整理しよう。

学年が上がってから丁度二週間が経ったこの日、我らが千秋中学は全校的に部活動仮入部の日だった。

この学校の部活動は極めて迷惑千万億兆京垓以下略なことに原則として全員強制参加で、なので現在僕は、基本的に冬場しか活動の無い天文部に所属している。まあ、この二年間、冬場だって一度として活動場所に行ったことはないけれど。幽霊部員に罰則は無いのだから、中途半端な校則もあったものである。拘束ともかかってる。我ながら寒い奴だった。

関係も意味も、ついでに理由も無い無駄話に興じるのは史上空前永劫不落のうそつき(この語り文句だって無駄以外の何でもない)であるところの僕が唯一標準装備している技なのだが、うん、少しばかり空気を読んで、話を先に進めよう。

果たして、第一理科実験室には一つの近未来的デザインをとった銃が存在していた。厳密に言えば、それは理科実験室の、壊れた顕微鏡の墓とまで呼ばれている普段まるで使われることの無い棚の奥にしまわれていた、なにかやたらと重量のある段ボール箱の中から出てきたものだった。青色を基調としたシンプルなデザインで、側面には『K.H』と、彫刻刀か何かで掘りこまれている。製作者の名前だろうか、と、まだ冷静さを保っていられる僕の思考の一部が判断した。逆側の側面には『S-01』と、こちらは『K.H』とは打って変わって綺麗な活字で掘られてあって、おそらくこの機械……否、兵器と断じてしまおう、この兵器の型番だと考えられる。Sがなんの略なのかは知らないけれど、この結果を見る限り、スレイヤーとか、破壊的な意味合いであろうことは容易に想像出来た。

なぜなら。戯れに、理科室の窓側に並ぶ実験器具を洗浄するための流し台に向けてその『S-01』のトリガーを引いた瞬間、驚くほど抵抗も無く淡い光が飛び出て、現在僕の目の前に展開する状況そのままに、まるで豆腐を潰しましたと言わんばかりに、流し台を溶解させてしまっているからである。

以上、整理終わり。

もう一度言おう、僕は悪くない。悪くは無いのだけれど、些かこの状況は僕にとって不利なのではないだろうか。

犯行現場の崩れた流し台、容疑者は一名、凶器を持った学生一人。誰が見ても僕が犯人だと邪推するに違いない。ここで問題なのは、それが邪推で無く事実だと言うことか。

考える。犯人がここで取るべき行動は如何に。簡単な話だった、証拠隠滅と逃走だ。

僕は早々に銃を鞄に忍び込ませ、誰かが嗅ぎつける前に理科室を後にしようとした。しようとした、と表現した時点で、それが失敗だったことは容易に想像できよう。

「……」

「……」

バッティング。と言っても、勿論バットを手に飛んでくる球を打ち返す行為ではない。この場合は、紛れも無く、『遭遇』という意味合いでこの単語は使われる。

僕の目の前に立ちつくすのは、一人の女生徒だった。十数歩分くらいある彼我の距離からでも目視で分かる、可愛らしい顔立ち。思わず手を伸ばしたくなるようなセミロングの髪は栗色で、背が低い事も相俟ってか、若しくは彼女自体から発せられる雰囲気からか、小動物のようなイメージを彷彿させる。

見たことの無い女の子だった。上履きの色から同学年の生徒であることは把握できるが、同じクラスにはまずいなかったと断言できるし、それに今まで二年間この学校で生活してきて、この子の顔に対する見覚えが、僕には無かった。これだけ可愛らしい子ならば一度見ればそうそう忘れられないだろうから、おそらく転校生か何かだろうと推測する。であれば、同じクラスで無いのが残念だ。

じゃ無くて。話があらぬ方向に逸れるのは自覚している僕の悪い癖の一つだ。無くて七癖、僕ほどの人間にだって短所は存在する。この虚言癖とか特に。

「ええと、……ううむ」

口を開いてみたは良いものの続ける言葉が見当らなかった。何を言うべきだろうか。「三組の井岡です。よろしく?」疑問符込みで自己紹介してみた。初対面には自己紹介、これ社会の常識。

唐突な僕の言葉に、少女はビクリと肩を震わせると、恐る恐ると言った体で僕の顔に視線を寄越し、また小さく震えて直ぐに逸らすと、か細い声で言を紡いだ。

「……赤坂です。あの、今日、転校してきました」

赤坂さんって言うのか。僕はうなずいて、しかし直ぐに巨大な違和感に気付く。何て言った?『今日』、転校してきた?

先も言った通り、本日は全校的に部活動仮入部の日で、本来ならどの部活動も新入部員獲得の為に活動をしているはずで、まぁ僕は絶賛サボっていて、新学期開始二週間後で。始業式から二週間後なのだ、だから今日は。春の季節に転校生が居るのには何の不思議も無いけれど、始業式と同時ならともかく、二週間も経ってからの時期に転校してくると言うのは、かなり普通じゃない事態に思えた。僕が疑問に満ちた表情をしているのに気がついたのか、赤坂さんは少しばつの悪そうな顔をして、申し訳なさそうに一歩退いた。家の都合とかだろうか。それならば僕から何かしら聞くことも何もないのだけれど、そうあからさまに退かれると、一男子中学生としてはショックを受けるのを禁じ得ない。

「す、すいません、えっと、……」

黙ってしまわれた。前髪で目元を覆うように俯いてるのを見る限り、ううん、もしかしたら照れ屋なのかもしれない。行き過ぎな気もするけれど、ますます可愛いじゃないか、この子。

「そう言えば、赤坂さんはどうしてこんなところに?」

「へっ、あ、その、部活動見学に……」

「ここは何もやってないはずなんだけど」

「え? でも、学校のホームページには研究部って……」

研究部? 聞きなれない単語に、僕は一応脳内に検索をかけてみた。とんと見当もつかない。ホームページの更新が、数年前で滞っている可能性を考えてみた。うん、妥当だろう。あ、と思う。なるほど、『S-01』はその研究部の遺産なのかも知れない。……中学生が作成するものにしては、ちょっと能力がぶっ飛んでないかな?

「無いんですか、研究部」

「無いね、研究部」

「そうですか……」

すごく残念そうに呟くと、赤坂さんはそのまま踵を返して理科室から出て行こうとした。溶けた流し台に何も突っ込まないあたり、寛容なのか、鈍感なのか、若しくはこのくらいの現象は当然の、とんでもない環境で育ってきたのか。色々と憶測を飛ばしてみるが、教師に報告の線も無しでは無いため、僕としてはこの子をこのまま帰すわけにはいかない。

「ちょっとちょっと、赤坂さん」

「っ」

ちょっと呼びとめただけなのに、赤坂さんの肩が思いっきり跳ねた。かなり傷ついた。しかしなんだろう、本当に彼女の反応はどこか違和感を覚えるものが多い気がする。

「なん、でしょう」

「うん。……ええと」

今度は僕がどもる番だった。止まってくれたはいいが次ぐ言葉が見当らない。しばらく考えて、しかし僕が『そう』言ってしまったのは、きっと色々な意味で、仕方がない事だったのかもしれない。


「じゃあさ、研究部、作らない?」


ラジカリズム。そんな単語が、脳裏をよぎった。急進主義とか、そんな意味合いだった風に記憶している。結果として、僕のこの判断はこの先の残り少ない中学校生活を圧倒的に変革させる、ある意味ではとても成功したものだったのだけれど、この時の僕の思考には、普段絶対使わないような、そんな単語しか浮かんではいなかった。

とってつけたような理由を考えてみる。段ボールの中身、旧研究部の遺産を、もう少しいじってみたいって言うのが一つ。適当に手に取った『S-01』ですらあの脅威だ。他の物にも興味を移すのは、僕が僕である上で重要な要素だった。興味本位、上等じゃないか。後は、この可愛らしい少女と、赤坂さんともう少し話してみたいというのが一つ。彼女から感じる違和を、俗っぽいけれど、僕は暴いてみたかった。……興味本位、上等じゃないか。なんて、彼女の返事も聞かずに夢想に浸っていたわけだが。

「本当ですか!? 是非、よろしくお願いしますっ」

言いだしたこちらの度肝を抜かれるような勢いに、僕は文字通り言葉を失った。同時に募る、不信感。

なんなんだ、この子。


井岡 三九郎、正式に受験生と呼ばれる立場になって二週間。僕の人生は、ここで完璧に狂った。こればっかりは、誇張でもなんでもないと宣言しておく。 

そんなわけで、次回は七カ月もは開かないよう留意しますです。ありがとうございました。

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