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お笑ひ蟻地獄

〈黴生えたチーズで()れば梅雨の味 涙次〉



【ⅰ】


 * 杵塚と楳ノ谷、ちよつとした擦れ違ひはあつたが、今では仲直りしてゐる。テオの機轉に依るもので、その點彼らはテオに感謝してゐた。

 ** 杵塚が枝垂から買つたホンダE.VOの後ろに、楳ノ谷は跨り、今日は仲良くタンデムである。

 すると、そのテオの*** ボンド・スクーターが彼らの脇を通り拔けて行く。**** 人事異動後、彼は却つて空き時間が増えた。兩者、乘り物を停めて、暫し歓談。「テオどん今日はツーリングかい?」‐「さうなんだよ。ちよつと野暮用も兼ねてね。安保さんが時速60㎞出せるところ迄、ボアアップしてくれたんだ。E.VOは何㎞出るの?」‐「120だから丁度倍だねえ」‐「うひやあ、電動だからつて莫迦に出來ないね。僕のも電動だけど」



* 前シリーズ第168話參照。

** 前シリーズ第196話參照。

*** 前シリーズ第32・153話參照。

**** 前シリーズ第194話參照。



【ⅱ】


「そんぢやま* ミイちやんによろしく」‐「バレたか・苦笑」、と云ふ譯で、杵塚、テオと別れた。

 杵塚と楳ノ谷、仲直りに際して、お互ひ秘密は嚴禁、と約束を交はした。それは倦怠期後のカップルには良くある事だつたが、要するに先日の仲違ひは、楳ノ谷が自分の氣持ちを「溜め込んで」ゐたせゐで起こつたのだ。お互ひ正直にしてゐれば、回避できた筈である。



* 前シリーズ第200話參照。



【ⅲ】


 コンビニのイートインのコーナーで、二人は珈琲ブレイク。楳ノ谷「さうさう、秘密つて云へば、こんな事あつたのよ」‐「?」‐「あれは確か、さう杵くんがカンテラ一味に加はる前よねえ。カンさん・じろさん・テオくん・悦美ちやんの四人で切り盛りしてた頃だつたわ」


「わたしがその頃組んでた* お笑ひコンビの事は知つてるでしよ」‐「あゝ、『東洋イチ』ね」‐「相方誰だか分かる?」‐「当たり前だろ、知つてるともさ。俺だつてテレビ観るもの。イつちやんだろ? ボケの」‐「さう、その市上馨里(いちうへ・かをり)」‐「で? だうした?」‐「それがね、彼女、【魔】にやられて」‐こゝで杵塚、少々ずつこけた。「いきなり【魔】かよ!」‐「ツッコミだうも有難う。彼女、本当に真摯に、熱心に、お笑ひを追求してたの。眞面目過ぎたのね」‐「まあ、眞面目な人ほど、【魔】は憑き易いらしいからねえ」



* 前シリーズ第200話參照。



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈禁じ手の言葉を探り探りつも嗚呼許されし言葉よ淋し 平手みき〉



【ⅳ】


「でね、カンさんにわたし、依頼したのよ。ヤマとしてね。イつちやん、冗談拔きに『イつちやつて』たのね」‐「それつてカンさん、今でも覺えてるのかな? そんな話、つひぞ聞いた事ないぜ」‐「分からない。でもイつちやんに憑いてた【魔】、斬つてくれた事は確か。『しええええええいつ!!』つてね... わたしはその後、勉強して勉強して今のキャスターつて云ふ稼業を手にいれた... でも彼女は」‐「姿を晦ませた、とか?」‐「さう、テレビ業界怖いつて」‐「彼女の、どうも~つて後に、即、オフコースのサヨナラ、サヨナラつて歌ふネタ、面白かつたのにね」



【ⅴ】


 ‐「ふうん。そんな事あつたのか。それつて何で俺に黙つてたの?」‐「何でかしらねえ。取り付くシマもない雰囲氣のせゐかしら(嫌み)。取り敢へず、わたしは秘密一つ話したわ。次、杵くんの番よ」‐「あちやあ、俺も?」‐「当然よ」


 杵塚がどんな「秘密」を彼女に打ち明けたのかは知らないが、そんな事があつた譯だ(あこれ作者)。



【ⅵ】


 で、二人は(お定まりのベッドインのあと)後朝(きぬぎぬ)したのだが、事務所に帰つて杵塚、思ひ切つてじろさんに尋ねてみた。「...とまあ、彼女は云ふんですが、じろさん覺えてる?」‐「忘れる譯ないだらうが、たはけ。たゞカンさん氣を使つてるんだろ、楳ちやんに。大得意様だからなあ」‐「あゝさう云ふ事かあ。カンさんも案外氣が回る人だなあ」‐「案外・笑」



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈しやつくりを止める妙案梅雨驟雨 涙次〉



 と云ふ譯で、今回は楳ノ谷、カンテラの過去形篇でした。お笑ひ好きな日本人(それには一つ二つ理由があるのだが)、当事者も眞剣そのものですよね~。つー事で、それに関しての話題を一つお送りしてみやうかな、と思つた譯です。そんぢやまた。アデュー!!




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