第3章 終わりゆく春
優愛が衝撃的な事を言った。
じゃあ、なんで今僕に見えている?なんで君は今ここに存在している?
分からなくて、嘘だろ?という顔をすると優愛がケラケラと笑った。
「あはは、何その顔」
「...だって、」
尽きない疑問を口にしようとすると、優愛が先に口開いた。
「ん〜、どこから話せばいいんだろうね」
優愛が迷うように公園のベンチを指さした。
「とりあえず〜、あそこ座ろ!」
優愛が指さしたベンチに二人並んで座り、優愛がゆっくりと口を開いた。
「んっとね...じゃあ、私が死んだところから話そっか」
あれは高校1年生の入学式。
ワクワクした気持ちで、通学路を歩いていたら後ろから暴走大型トラックがこっちに向かって突っ込んできてたの。
周りの悲鳴が耳に嫌なほど聞こえてきて、突っ込んでくるトラックが嫌なほどゆっくり見える。
「あぁ、私こんな所で死んじゃうんだ」ってもう半ば諦めてた。
やりたいことが頭に浮かぶ中、トラックはもう私の目の前に来ていた。
ドンッと大きい音がして、私は遠くに吹っ飛んだ。
コンクリートに打ち付けられて、飛ばされた痛みと打ち付けられた痛みが同時に私の体にやってきた。
段々視界が暗くなって、体が冷えていくのを感じて私は目をつぶった。
次に目を覚ました場所は、天国らしき場所でもなく地獄らしき場所でもない、ましてや病院らしき場所でもない。
真っ白でどこまでも続いてそうな場所。
そこで呆然と立ち尽くしていたら、女の子が歩いてきたの。
女の子はパステルの黄色のお団子ヘアでピンクと水色のオッドアイだった。
天使の輪っかと天使の羽があったんだけど、天使の輪っかは真っ黒で溶けて、羽も真っ黒だったの。
で、その子が言ったの。
「おねーさん!おめでとう!」
って。
何がおめでとうなの...って思ってたらその子が先に言ってくれたの。
「おねーさんは神様にゆーぐう?されて産まれてきた子です!」
私は意味がわかんなかった。
神様?優遇?この子は何を言ってるんだ。
そしたら、その女の子が
「えっと〜...おねーさんは神様にゆーぐうされて生まれてきたから、今回生きれる可能性が産まれました!」
って。
本当に意味がわからなかった。
「どうゆうこと...?」
と言ったらその子が慌てた様子で早口に色んなことを言ったの。
「あ!すいません!申し遅れました。
僕は死者の案内人のストレリチアです。
ま、この名前僕には似合わないんですけどね。あ、あと僕は男の子です!」
男の子に見えなかったからビックリしちゃった。
ストレリチアっていう名前が似合わないって言うのはきっと、花言葉が「輝かしい未来 」とか生を意味するからだろうね。
確かに、死者の案内人?には似合わないかも。
でね、私は一気に色んな質問をしたの。
「神様に優遇されたってどういうこと?生きれる可能性ってどういうこと?ここはどこなの?貴方はなんなの?」
って。
一気に言っちゃったから今になったらストレリチア可哀想だなって思っちゃったけど。
ストレリチアはそれに一つ一つ丁寧に答えてくれたの。
「ん〜、まず、神様にゆーぐうされて生まれてきたっていうのは、神様はたまにお気に入りの子を作るんですよ。可愛さ、カッコ良さ2つともバランスよくもった欠点がない完璧な子を。それがおねーさんだったってこと」
「んで、生きれる可能性っていうのは、神様にゆーぐうされて産まれてきた子は寿命以外のことで死んじゃった場合生きれる可能性を与えなくちゃいけないルールがあって、その生きれる可能性の説明をする場所がここ。で、僕はさっきも言った通り死者の案内人。
んで、生きれる可能性っていうのが____。」
着いていけなかったよ。あの時は。
ファンタジーだし、ドッキリって言われた方が腑に落ちるようなお話。
だけど、本当なんだって今なら実感してる。
「おねーさんに好意を持ってる人と運命を交換する、ってこと」
いやー、ビックリしたよ。
本当意味わかんなかったもん。
「運命って...」
「うん、好意を持ってるやつをおねーさんの代わりに死なせるってこと」
正直、嫌だった。
それだったら、私が死んだ方がよかったかなって。
でも、ストレリチアはただ淡々と話していくの。
「じゃ、おねーさん覚悟が決まったら桜の木の下でストレリチアって呼んでね、殺すから。」
「あ、あと、おねーさんのことはおねーさんに恋愛的な好意がある人にしか見えないからね」
で、その後眩しい光で視界が真っ白になって気づいたらこの公園の桜の木の下にいた。
「信じられないでしょ?」
優愛は下を向いて自嘲するかのように笑った。
「...信じ...るよ」
「あはは、信じてない言い方じゃん」
優愛は下を向いたまま話し続ける。
僕はどうやって反応すればいいのだろう。
どんな言葉をかければいいのだろう。
「おねーさん」
その時、甘ったるくてドロドロとしたチョコレートみたいな声が聞こえた。
僕らが顔を上げると目の前に金髪のお団子ヘアで、ピンクと水色のオッドアイ、フワフワした印象の子が立っていた。
「話しちゃダメ、って言わなかったけ?」
優愛はパッといつもの調子に戻ってその子に話しかけた。
「あれ、ストレリチアくんそんなこと言ってたっけ?」
目の前に立っている子供がストレリチアというらしい。確かに、優愛の言っていた通りの見た目だ。
「ん〜、僕説明し忘れたのかもなぁ...それだったら、ごめんなさい!」
「...別に、」
優愛の顔が一瞬仄暗くなったのを僕は見逃さなかった。
「...おにーさん、」
「何」
僕はつい、ぶっきらぼうに返してしまった。
「うわ〜、無愛想」
「元からです」
つい、敬語になってしまった。
笑顔も言葉も甘くてドロドロしてて気持ち悪かったから。
「あ、そうなんだ、ごめ〜ん」
謝る気がない謝り方についイラッとしてしまった。
「んで、本題に入るんだけど」
「はぁ...?」
「おにーさん、同情とかはやめてよ?それは無しでしょ、面白くないじゃん」
ストレリチアは笑顔で笑いながらそんなことを言った。
その後、聞こえない音量で何かを言葉にした。
「まぁ、結局はみんな自分が可愛いからそんな事しないだろうけど」
ストレリチアは優愛の方に顔を向けて、会話を再開した。
「おねーさん、こういうことはもうなしでね?あとさ〜つまんなくなって来ちゃったから、もう終わりにしてもいい?本当はも〜ちょっとだけ待たなくちゃなんだけどおねーさんほどつまんない人ははじめて見たからさ〜、30日でこのごっこ遊びはおしまいね?じゃ!ばいばい!おにーさん、おねーさん!」
ストレリチアは風が吹いたあといつの間にか居なくなっていた。
優愛は下を向いたまま何を話さなかった。
「...優愛」
「...ない...」
優愛が小さい声で何かを呟いたが聞こえなかった。
「...なんて...?」
「...」
優愛は下を向いたまま口を開かなった。
僕がもう一度口を開こうとしたら優愛が口を開いた。
「死にたくないッ、!」
それは静かな公園に響いて僕の耳にはしっかり届いた。
「...死にたく、ないよ...でも、宵くんみたいな...いい子にも...死んで、欲しくないよ...」
優愛の目から涙がこぼれているのに気がついた。
僕は何も言葉をかけれずそのまま、黙って聞いていた。
「ね、宵くん。私、死ぬのが怖いよ、まだ、いっぱい生きたいよ。だけど、誰かを私の代わりに殺すのも怖いよ、」
優愛は静かに涙を零しながら震える声で語った。
「優愛、」
こんなこと言うべきでは無いのだろうけど僕の口は勝手に言っていた。
「僕は優愛の為なら死ねるよ」
優愛は顔を上げて心底驚いた顔をした。
僕は本当に優愛の為に死ねるだろう。
だって、心の底から本当に優愛が好きなんだから。
「やめてよ、冗談は」
優愛はもう一度下を向いて笑った。
「冗談、じゃないよ。だって、僕は優愛の事が好きなんだから。」
「...宵くん、一旦落ち着いてよ」
僕も正気ではなかったかもしれない。
だけど、優愛に信じて欲しかった。
「また、明日話そう」
優愛はいつもの笑顔でそう言った。
まるで、全部無かったことにするように。
「...うん、分かった」
4月28日。
また、明日話そう。と言っていたのに、4月27日、優愛は来なかった。
だから、その次の日4月28日に公園に来た。
「あれ、おにーさんなんでこんな所にいるの?」
僕の目の前には優愛では無く、ストレリチアがいた。
「優愛と約束があって...」
「もうすぐ死ぬ人と?」
ストレリチアはわざと被せるようにそう言ってきた。
「そんなんわかんなくね?」
「は?」
ストレリチアに反論してみたら、ストレリチアの甘ったるい笑顔は急に真顔になってこっちを睨んできた。
「ああいうゆーぐうされてるやつが死んたときが1番面白いんだよ!!」
ストレリチアは小さい子供が悪巧みをするような笑顔でそんなことを大声で叫んだ。
「それはストレリチアだけじゃない?」
「はぁ?」
「僕は優愛の為なら本当に死ねる。」
「僕の寿命全部を優愛に捧げるよ」
「こっわ...恋は盲目だねぇ...おにーさん!ばーいばーい!」
ストレリチアは言いたいことを全部言ったあと昨日と同じように帰っていった。
「宵くん、待った?」
「うぅん、別に」
「ごめんね...昨日は行けなくて...」
「大丈夫だよ」
「ね、私さ明日で死んじゃうね〜」
優愛はなんでもないことを言うようにいつもの笑顔で言った。
「だからさ、この町内で私のやりたいこと付き合ってくれる?」
「いいよ、なんでも付き合うよ」
「よし!じゃあ着いてきて!」
そういった後、優愛は順番に色んなところを回った。
まず、中学校の頃仲が良かった親友の家。
前飼っていた犬の小屋が無くなっていたらしい。
「亡くなっちゃったのかなぁ...」と寂しげに瞳を揺らしていた。
次に、元カレの家に行っていた。
女の人の甲高い笑い声が外まで聞こえていた。
この人は女の趣味と女遊びが悪いらしくて、別れた理由も浮気だったらしい。
「やっぱり、人の性格って中々変わらないね」と乾いた笑みを零した。
次は、幼なじみの家に行った。
小学生の頃は一緒に登校したり、一緒に帰ったり“友達として”仲がいい2人だったのに、恋仲を噂されて中学生から話さなくなってしまったらしい。
「最期に話したかったなぁ...お葬式だけでも来てくれるかな...」表情を見せずに下を向いて呟いた。
最後に来たのは自分の家だった。
自分が死んだ日から家には帰っていなかったらしく、花壇の手入れもされていなくて、親が相当悲しんだんだなということを感じていた。
「ごめんねぇ...死んじゃってぇ'...」
優愛は声を震わせ泣きながら呟いた。
「ごめんね、宵くん付き合わせちゃって」
「うぅん、大丈夫だよ」
「...優愛、」
僕は決意を決めてもう一度優愛の顔をまっすぐ見る。
「優愛は未練...がまだあるでしょ?
僕は...ほとんど無いから、さ。優愛が生きた方が絶対いい。僕は優愛の為なら死ねる...」
「それは、1回死んだことがないから言えるんだよッ、!」
優愛は僕の言葉に被せるように叫んだ。
僕の耳にしか、届かない言葉だった。
「私は、私は...中学3年生の頃は死んでもいいと思ってたよ!?死んでも...、死んでも心残りなんて無いって...思ってたよ...!だけど、だけどね...死んだ今なら、あぁ、もっとやりたかったなぁとか思うことが出てくるの、!だから、だからさ、30日もう1回会おう...?そこで、考え直した結果をもう1回教えて...!ね、?」
優愛は懇願してくるような目で軽く涙を流しながら、話した。
「...わかった、ごめん」
4月29日。
僕は家でゆっくりじっくり考えた。
未練...もっと、やりたかったこと...
優愛の代わりに死んでも良いのか。
...僕は、________。
4月30日。
「あ、宵くん今日は私が先だったね」
優愛は語尾に音符が着く勢いでルンルンで話しかけてきた。
「ん、遅くなってごめん」
「あれ?おにーさんも一緒?」
ストレリチアは可愛い子ぶってる子のようにこてんと首を傾げた。
「まぁね」
「まぁいいや。んで、おねーさん答えは決まった?」
「決まったよ。私は________。」
「僕が優愛の代わりに死ぬ」
結局は変わらなかった。
その意志を僕は優愛の言葉にかぶせて言った。
「あは、おもしろ〜い」
「おねーさんはそれでいい?」
「...宵くん、私言ったよね?」
優愛は睨んでくるような泣きそうな顔をしてこちらを向いた。
「うん、昨日ずーっと考えたよ?考えたけどね_______。」
僕は、僕にとっての未練は、きっと_____。
「優愛が僕のいない世界で生き続けちゃうことかな。」
なんて、本当に未練がましい我儘なことを残して。
「んじゃ、おにーさんをおねーさんの代わりに殺すでいいかな?おねーさんもそれでいい?」
「私は_________。」
「いいって」
優愛が否定しようとしたのかこっちの顔を泣きそうな顔で睨んでくる。
「分かった!じゃあ、おねーさんよかったね!じゃあ、おにーさんはばいばい!」
きっと、きっと、これでよかったんだ。
優愛が生きれるならそれで...
「宵くんッ...!なんでよ...!ねぇ!...ねぇッ!」
「...!」
あぁ、やっぱり。
「ちょっとやだなぁ...優愛にもう、会えなくなるの...死んじゃうの...」
優愛は僕に泣きそうな顔で叫んできた。
だけど、僕の体はもう光に包まれて半透明になってきていた。
「優愛、ありがとう。」
______僕に生きる楽しみをくれてありがとう。
______僕に想い出をくれてありがとう。
______僕と出逢ってくれてありがとう。
______僕に想いやりをくれてありがとう。
______僕に恋をさせてくれてありがとう。
______僕に志をくれてありがとう。
______君と出逢えてよかった。
______いつまでも、大好きで、愛してる。
5月1日。水崎優愛。
宵くんが死んだ。
正確に言えば、私のせいで死んだ。
次の日、宵くんは暴走トラックに轢かれたという理由で死んだことになっていた。
私は自室の部屋のベッドで起き上がった。
生きていた。
親からも、親友からも認知されて、みんなと話せる。
高校にもまるで通っていたかのようになっていて。毎日が当然かのように過ぎ去っていく。
でも、その日常に宵くんはいない。
高校が違うから、とかそういうのじゃない。
私のせいで死んだから。
私は宵くんのお葬式に出席した。
中学校の頃同じクラスだった池田さんもいた。そういえば、宵くんと高校が一緒なんだっけ?宵くんのことが好きだったのかな。
私はお葬式が終わってもずっとその場で止まっていた。
そしたら、宵くんのお母さんが私に話しかけてくれた。
「すいません...お葬式、終わりました...」
「あ、はい」
私は話しかけられてすっと立ち上がった。
トボトボと帰っていたら、宵くんのお母さんがもう一度話しかけてくれた。
「...ねぇ、貴方宵の友達?」
私は振り返って、答えた。
「...彼女です」
嘘だけど、どっちかって言うと裏切り者?だって、宵くんを死なせちゃったんだから。
でも、この位の嘘はつかせてよ。
私、好きになっちゃったんだから。
「...宵と付き合ってくれてありがとう...
宵がね、最期毎日が楽しそうだったの。
宵と出逢ってくれてありがとう」
お母さんはそれだけ言うとどこかへ行ってしまった。
私は家に帰って、自室に入ると泣き出した。
家に誰もいないことをいい事に大声で泣き叫んだ。
「宵、くん...っ、」
何度泣いても涙は止まらなくて泣き続けた。
宵くんが最期にくれた言葉は「ありがとう」だった。
だから、私も逢いたいは無しかなぁ...
でも、逢いたいんだよ。君に。
だから、私はこれを言ってもいいかな。
君を死なせた分際でこれは苛立たしいかなぁ...腹立たしいかなぁ...それでも、我儘だけど言わせて欲しい。
そう思ったら、私は自室を飛び出していた。
丁度母が仕事から帰ってきていて、玄関でぶつかりそうになってしまった。
「優愛!?どこに行くの?お友達の...お葬式...じゃないの、?」
お母さんは色んな疑問をぶつけてくるが、わたしはその疑問に1つの文章で返す。
「ちょっと、想い出の場所へ!」
私は公園に走った。
勢い余って転んでしまったが、それでもすぐ立ち上がりとにかく走った。
着いた時、私は桜の木の下に立った。
私は君に向けて叫んだ。
「宵くんっ、!私にありがとうって言ってくれてありがとう!宵くんから貰った命だもん...!頑張って使い果たしてみせるから!!だから、だから_________。」
「また君に逢いたいと想える日まで、私は君の命を...心臓を!大切に、大切に生きていくから!!」
もう葉桜になった桜が風で舞い上がり、宵くんの返答を聞かせてくれているようだった。




