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1章 春の風に誘われて

 4月の頭。

 ついに大学受験が本番になる学年になった。大学受験など僕には縁が無い話だが、不登校になる訳にもいかないので、学校には(なか)ば強制で行っていた。

 大学は行きたくなかった。

 もし、行くならあの子と同じ大学がいい。そんなことを考えてしまっていた。そんなくだらないことを考えていた時、僕の目の前にクラスメイトがやってきた。

「ねぇ、成瀬(なるせ)くん。」

 学級委員の池田(いけだ) 百合(ゆり)さんだ。

 The・学級委員長という見た目で、黒縁メガネにお下げとは…もう、学級委員長キャラを狙っているようにしか見えない。

 彼女はよく僕に構ってくる。クラスの関係でなにか話をしてる時、聞いていなかったらよく話しかけてくる。ま、学級委員長だから、しょうがないとは思う。

「何、池田さん」

「さっきの話聞いてましたか?文化祭準備の役割!成瀬くんが手を挙げないから最終的な役割が決まりません!せめて、なにかに手を挙げてください」

 うちの学校では入学早々から文化祭の準備をする。本当に変な学校だよな。すぐに春休みに入る癖に。

 …面倒くさい。だいたい、手を挙げないやつなんて人数足りないとこか、余ったところに入れておけばいいだろ。正義感強い、真面目な奴だなと思った。その時は、

「どれでもいい、余ったやつか、人数足りないとこに適当に入れといて」

「な…!クラス皆で作り上げるのが、文化祭でしょう!?誰かひとりが適当だと、クラスの輪が乱れてしまいます!」

 池田さんが声を荒らげたので、僕も反論してやろうか迷っただけど、いつもこういう時はクラスメイトが仲介に来てくれて、終わりだ。

「池田、もういいよ。ここは、成瀬の意見も聞いてあげよう。成瀬の意見もあったからこそ、クラスの輪が乱れなかったって可能性もあるかもだろ?」

「そ…そうですね…」

 こうやって、毎回仲介に来てくれるのが、今井(いまい) (なぎ)だ。池田と僕の言い合いが喧嘩にヒートアップしそうになった時は、必ず今井がやってきて池田をなだめて帰ってゆく。…今井はなぜいちいち僕を助けてくれるのか、全く分からなかった。

「はぁ…」

 窓際の席で、春のそよ風が肌に当たるのを感じる。もうすぐ、爽やかな春も、出会いを知らせてくれる春も終わってしまう。春の始まりを知らせる文化祭準備も僕は嫌いだった。

 だって、君がいないから。






 僕は余ったものに入った結果、「イラスト係」になった。…正直、イラストは得意じゃない。というか、苦手だ。人に笑われてもいいほど、イラストは上手じゃない。…池田さんの言う通り、手を挙げた方が良かったのかもと後悔してもしょうがない。「公開後先立たず」って言うからな、吹っ切って頑張るしかないか。

「起立、帰りの挨拶をします。さようなら。」

『さようなら』

 いつの間にか、帰りの挨拶が終わって、学校から開放された。


 イラスト係の事を考えながら、帰っていると、僕の下校道にある公園に君が立っていた。幻覚かと思った。公園の花壇の前で、寂しそうな笑顔を桜に向けていた。風が吹くと、桜と君が会話しているかのように綺麗だった。

 …話しかけても、いいのだろうか?

 1回も話したことないのに、急に話しかけて、変なやつだと思われないだろうか?

 …いや、これは僕の秘密な片想いで終わらせてしまった方が潔いい気がしてきた。彼女に気づかなかった振りをして、通り過ぎようとした瞬間、君と目が合ってしまった。

「ッ!あ!待って!成瀬くん!」

「久しぶり、!私のこと覚えてる、?」

「…うん、」

 勿論、覚えてるよ。中学の時からずっと。忘れるわけが無い。君の事は僕が中一の頃からずっと、ずっとずっとずっとずっとずっと恋してるんだから。

「覚えてるよ。水崎(みずさき)さん。」


「久しぶり、水崎さん。会うのは...中学校ぶりだよね?」

「そう...だね!違う学校になっちゃったもんね...」

「...うん」

 なんで、声をかけられたのかは分からなかったけど...話せて幸せだ。粘着質とかキモイとか思われるかもだけど、僕にとって水崎さんは神様と言ってもいいほど大好きなんだ。

「...そういえば、どうしたの?呼び止めて」

「...えっと...」



 ...結構、間が空き、降ってはいけない話題だっただろうかと考えた。そしたら、すぐに

「そ、そう!大学!大学どこに行くの!?」

 と水崎さんが答えた。

「大学...僕は行かないつもり...水崎さんは?」

「私も...行かないつもり...」

「行かない、もやっぱありだよね」

 他愛ない会話をした後、水崎さんがまるで本題みたいに口を開いた。

「あの…さ、成瀬くんの学校って入学式終わって数日後に春休み...?」

 ...なんでそんなことを聞くのか全く分からなかったが、僕の学校は特殊みたいで入学式後に春休みになるらしい。

「うん、そうだよ。水崎さんも?」

「うん...そうなんだ、だから...さ」



「春休み、一緒に遊ばない?」


「...は?」

 僕の口からはついそんな言葉が出てしまった。

「あ...ごめん、嫌なら...大丈夫なんだけど...」

「...いや、嫌ではないけど...」

 なんで僕?そんな疑問が口をつこうとした時に、水崎さんからその理由を話してくれた。

「す、好きなのっ、!」

「...え?」

「な、成瀬くんが...好きなの、!」

 信じられなかった。好きな人から好きと言われることがあるか?話したことすらなければ...目もあったことすらないような関係なのに。

「そ、それでもダメなら...残念だけど...」

 と、水崎さんが1人で話を進めてしまっている時に、僕の口からは

「大丈夫!一緒に行こう」

 と口をついて出ていた。

 水崎さんは心底ほっとしたように顔をして、早口で次の言葉を発した。

「やった...!じゃあ、これ私のメッセージアプリの連絡先!時間と送るから登録しといて!じゃあね!」

「じゃ、じゃあね!」

 好きな人の連絡先をもらった...?夢心地になりなりながら、僕は自分の家への帰路を歩み始めた。

 ...水崎さん、中学の頃に比べたら...少し、性格が変わっているような気がしたが、それでも、僕が水崎さんを好きという気持ちは変わらない。そして、春の風のように綺麗な彼女が走っていった方を見ても、もう彼女はそこにはいなかったのだった。



 僕は家に帰ったら、制服を脱ぐとかよりも先に水崎さんの連絡先をメッセージアプリに登録した。

 アイコンはスノードロップを花瓶に生けている写真で、名前は水崎さんの名前の方をローマ字で登録してあった。

「Yua...」

 流石、水崎さんというつもりではないが、水崎さんらしくとってもオシャレだった。

 ...それに比べて、僕のは好きなアニメのキャラクターがアイコンで、名前は「成瀬 (よい)」と登録されている。

 ...僕と水崎さんを比べたら、本当に天と地の差だ。

 登録して、少しその画面にして待っていたら、水崎さんから連絡が来た。

『登録ありがと~!

 日時は4月12日の9:00 ~ 16:00位を開けといて欲しい!』

 僕はその文面を見て、OKと言っている猫のスタンプを送った。

 そしたら、水崎さんから可愛い!という趣旨のスタンプが送られてきた。

 そのスタンプを見ていたら、僕は、はっ!と大切なことを思い出した。入力欄を開いて、急いで文章を打ち込む。

『予定は水崎さんが立ててくれるの?それ、結構負担じゃない?負担だったら、僕が立てるよ』

 ...さっきのスタンプは素早く既読が付いたのだが、今回のメッセージは10分経っても、既読がつかなかった。

 僕は一旦、会話を諦めて、制服を脱ぎ、リビングへ向かったのだった。

 しかし、その日は何時間待ってても水崎さんからの既読も返信も来なかったのだった。



 僕は今日も登校時間ギリギリに学校へ行くと、友達が僕の席で僕のことを待っていた。

「おはよ、春」

「ん!宵、おはよぉ!」

 この子は春。僕の高校の友達で、入学式で一番最初に話しかけてくれた友達だ。春は、スポーツ系に見える見た目で、中身は全く違くて、文化系。美術の絵画コンクールで、金賞を取ったことがある程、絵が得意だ。部活も美術部に入っていて、美術部がやっている個人制作では、春の絵だけがダントツで目を引くレベルで上手い。

「もう!また、こんなギリギリに来て〜!」

「別にいいだろ」

 ゆるゆるとした喋り方。そして、世話焼きな性格。そこが人気の秘訣かもしれないな。

「も〜、宵はいつもそうなんだからぁ〜!」

「で?なんか用事あったんじゃないの?」

「あ、そうだったぁ〜」

 全然、本題に入ろうとしないので、僕が本題を言えと持ちかけると、春は思い出したかのように、本題を話し始めた。

「んっとね〜今日、放課後遊べない?みんなで、ボーリング行くんだけど」

「ん〜...」

 特に用事は無いけど...と思っていたら、ピロンッとメッセージの着信を知らせる音がスマホから鳴った。

『返信遅くなっちゃってごめんね~っ!

 予定は私が立てるから大丈夫だよ!

 そういうの好きだし、全然負担じゃないから大丈夫!

 あと、今日の放課後も昨日の公園に来れるかな?』

 ギリギリのところで今日の放課後の用事が出来た。春には申し訳ないが、水崎さんとの用事を優先させてもらおう。

 その後、もう一度水崎さんからメッセージが来た。

『それと、お互いさん付けやめない?

 私も宵くんって呼ぶから、宵くんも優愛って呼んで!』

 ...好きな人から名前呼びされる?その情報しか頭に入ってこなくて、また、昨日のように夢心地になっていた。

 そんな気分になっていたら春が、僕を呼びかけていた。

「お〜い、よぃ〜?宵ー!」

「あ、わりぃ、なに?」

「すっごいニヤニヤしてるんだけど、何があったの?」

「...そんな?」

「そんな」

 僕は今、春っていう鈍感からもわかるレベルでニヤニヤしてしまっていたらしい。そこまで、水...優愛から名前で呼ばれるのが嬉しかったのだろう。



 学校を終え、春には申し訳ないけど、ボーリングを断って、優愛の元へ向かう。

 春風に誘われながら、公園の道までを無意識に急いでしまう。公園の中に入ったら、優愛が桜の木の下で体操座りをしていて、膝に顔を(うず)めていた。

「...優愛?」

「ん、あ、来てくれたんだ?ありがとう」

 ふわふわと実態がないような言葉で、一瞬感謝されたことにも気づけないような弱々しくて、可愛い声だった。

 大丈夫?なんか元気ない、と声をかけたかったが、あえて、何も気づかなかったかのように振る舞って、会話を始めた。

「予定、どうだった?立てれた?」

「ん!ばっちり〜!」

 優愛はいつもの調子に戻って、スマホのメモ機能を開いて、スマホの画面を僕に見せてきた。

【優愛と宵のショッピング計画~!!】

 9:00 ~ 9:15 黒沢駅 集合

 9:20 黒沢駅 発

 9:20 ~ 9:45 電車移動

 9:45 水城駅 着

 9:45 ~ 9:55 徒歩移動

 9:55 ~ 12:00 ショッピング!!

 12:00 ~ 12:30 お昼?

 12:45 ~ 15:00 ショッピング!!

 15:00 ~ 15:10 徒歩移動

 15:16 水城駅 発

 15:16 ~ 15:41 電車移動

 15:41 黒沢駅 着

 15:50 頃 解散 ?

 

 すごい細かく計画されていて、すごいと思った。優愛に任せてよかった。と心の底から思えた。きっと、僕だったらもっと雑に計画していただろう。

「すごい!優愛に任せてよかった!!」

「そんな?でも、喜んでもらえてよかった!」

 他愛もない会話をしていたら優愛が公園の時計をちらっと見て少し悲しそうな顔をしたあと、早口では話しはじめた。

「えっと〜...宵くんの学校、明後日からもう春休みだよね?私の学校もそうなんだ!明後日が12日だから、この予定送っとくからこの予定で動いてみて!ごめん、明日は会えないんだ、どうしても」

「困ったこととか分からないことがあったらメールくれるかな?」

「じゃあ!また明後日!」

 優愛は早口で色んなことを伝えて、走って家に帰っていった。

「...予定は送るって言ってたし、まぁ、大丈夫か」

 僕は何も気にせず、家への帰路を歩み始めた。...色んな疑問がある。なんで明日は会えないんだろう、なんで僕の学校の春休みの始まりを知っているのだろう、なんで決まった時間にいつも帰るのだろう...、僕のことを好きだから一緒に遊びに行くというのは本当なのだろうか。

 でも、気にせず遊ぼう。

 そんなことを考えながら、僕は家に帰った。



 次の日は春と一緒に遊び、遂に優愛との遊びの日が間近に迫ってきた。


「な〜んか、最近宵が明るくなったんだよな〜」

「なんかいい事あった?」

 いい事...と言ったら、優愛と遊べることだよな。

「秘密」

「うぇぇ!?何それ!?気になる!!」

 相変わらず、感情表現が激しいな。

 そんなところも愛嬌だが、

「んはは、春休みまた遊ぼうな。」

「うん!!また春休み〜!」

 そうして、僕は家に帰った。

 その途中、優愛を見かけた。あるびょういんにはいっていった。

 なにか、定期検診でもあるのだろうか?だから、今日は会えなかったのか。

 ...明日会えるし、今日は話しかけないでおくか。

 そうして、僕は家への帰路を急いだ。


 明日、優愛と会えることを楽しみに。

 春の爽やかな風と共に道を久しぶりに走ったのだった。

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