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魔女の森(2)

 クラインは扉を開いた。

 ジェンとウィリアは中に招き入れられた。

 中には女性が一人、椅子に座っていた。

 ウィリアは、その姿を見て驚いた。

 若い。

 ちょっと見には、ウィリアと同じくらい。いやもっと若いかもしれない。十四か十五と言っても通りそうだ。

 明るい赤毛を、涼しげにショートカットにしている。眼はぱっちりとしていて、いたずらそうな顔をしている。

 青のキャミソールとミニスカートという服。スタイルは良い。椅子に座って足を組み、こちらを見ていた。

 この人が「森の魔女」なのだろうか……? 森の魔女といえば絵本などでは、少し太めで初老の女性が描かれていた。あまりにも違和感があった。

 しかし、ジェンが進み出て、彼女にお辞儀をした。

「ホーミー様、お久しぶりでございます」

 彼女は微笑んだ。

「ああ、ジェンか。元気そうだね。修行は進んでるかい?」

「はい。おかげさまで。あ、これは、つまらない物ですが」

 ジェンはお菓子の包みを差し出した。ホーミーと呼ばれた彼女は、それを開いた。

「なんだい? これは」

「チョコレートというお菓子らしくて、最近輸入が始まったそうです」

 彼女はひとつ食べてみた。

「ふむ……。苦みが効いていて、甘さが引き立つ。これいいわ。クライン、紅茶入れて」

「ははっ」

 ドワーフのクラインは、お茶の用意に隣の部屋に行った。

 ジェンがウィリアを紹介した。

「彼女は、一緒に旅をしているウィリアと言います」

「ウィリアです。よろしくおねがいします」

 たしかにこの人が「森の魔女」らしい。ウィリアもお辞儀をした。

 森の魔女はにこにこしながら言った。

「あんたも隅に置けないね。こんなかわいい彼女をつかまえて」

 ジェンはその言葉を打ち消した。

「いえ。僕とウィリアはそういう関係じゃないんです。旅の仲間なんです」

「へー、そう?」

 魔女は椅子から立ち上がった。そして、くんくんと匂いを嗅ぎながら、ウィリアの腰の近くに顔を近づけた。

「…………?」

 ウィリアは思わず、体が引けた。

 魔女が顔を上げた。

「何だい。そういう関係じゃないとか言って。結局、やることやってるじゃないの」

 ウィリアの顔が真っ赤になった。

 ジェンはあわてて説明した。

「い、いえ、そうじゃないんです。あの、魔力が足りなくなったとき、彼女が体を提供してくれまして、あくまでも、緊急時に……」

「緊急時にしては、けっこう回数してるようだけど?」

「あの、いえ、それも、いろいろとありまして、必要が……」

 ジェンは言葉に詰まった。だから会わせたくなかったんだという顔になった。

「まあ、いいわ。お茶にしましょう」




 クラインがお茶を入れてくれた。茶葉は高級そうで、いい香りがした。

 お茶を頂きながら、ウィリアが言った。

「あの、失礼ですが、森の魔女さまがこんなに若いとは思いませんでした。絵本で見る森の魔女さまは、年配で、少し太めで……」

「ああ、そりゃ、先代のイメージかな。ちょっと太ってた。二百年前に亡くなったけどね」

「え……? 森の魔女さまって、一人ではなかったのですか!?」

「そうだ。代々、後継者を選んで『森の魔女』を継いでいる。あたしらは精霊や神じゃない。人間なんでいずれ死ぬんだ。魔力で寿命を長くしてるだけだよ」

「そうなのですか。え? では魔女さまはいま、二百歳以上!?」

「二百のババアがこんな若いナリしてて、意外かい?」

「い、いえ」

「アハハ。無理しなくてもいい。まあ、魔力で数百年生きるんだ。見かけがいくつぐらいなんて誤差みたいなもんだ」

「そ、そうですね」

「ところで、あんたたち、あたしに用事があったんじゃないの?」

「は、はい……! えーと……」

 急に話を振られてウィリアはとまどった。

 ジェンが話し出した。

「ホーミー様、『黒水晶』をご存じですか?」

「黒水晶……。ああ、知ってるよ。最近、暴れ回ってるそうだね」

「そうです。彼女は……ウィリアは、黒水晶を倒すために旅をしています。しかし奴はあまりに強大です。倒す方法を、ご教示頂けませんでしょうか」

「あー、無理。やめとき」

 即座に否定された。

 ウィリアが必死に訴えた。

「あの、諦めることはできないんです。黒水晶は王国の全土で破壊活動を行っています。このままでは人々の犠牲が増えるばかりです。どうしても止めなければなりません。わたしも、父を殺され、そして……犯されました」

 ホーミーはウィリアを見た。

「父を殺されて犯された、か。それは気の毒だったね。だけどね、人にはできることとできないことがあるんだよ。あいつはね、魔力だけ取っても、とんでもないよ。あたしを上回ってるくらいだからね」

「ホーミー様をも、魔力で上回ってる……!?」

「そう。あたしだって戦ったら、きっとやられちゃうね」

「そこまで……」

 ジェンとウィリアは肩を落とした。

 ホーミーが言った。

「あいつね、ここにも来たよ」

「え!?」

「この館に入り込んで、『やらせろ!』と言ってきた」

「そ、それで、どうしたんですか!?」

「あたしにとっちゃカモがネギをしょってきたみたいなもんだからね。二つ返事でやらせたよ。いやー、熱かった。二日間ずっとやりっぱなしだった。硬くて大きくて何度もいけて、モノは最高だったね。でもテクニックがダメダメでね。腰を振るだけでね」

「そ、そして……?」

「なんか子供にこだわってるみたいで、あたしが子供を産めないとわかると『つまらん』と言って帰っていったよ。ムカついたけどね。戦っても勝てないのわかってるから、そのまま帰したよ」

「そうですか……」

「まあまあ男前だったけど……。ま、あんな態度じゃ、いくらモノが良くてもモテないね」

 ウィリアははっとなってホーミーを見た。

「男前!? では、ホーミー様は、奴の顔を見たのですね!?」

「あ、まあね」

「どのような顔でしたか!?」

「うーん……。年の頃は二十歳くらい……。でもたぶん実際の年ではないね。黒髪で……。えーと……」

「絵に描いていただけませんか!?」

「絵ねえ。何十年と描いてないが……」

「おねがいします」

「魔女使いの荒い子だね……。ちょっと待ってて」

 ホーミーは、紙を取り出して、黒水晶の絵を描いてみた。

 描かれた絵には、男の顔があって、眼が二つ、鼻が一つ、口が一つあった。そこからわかるのは、偉大な魔法使いであっても、絵画の才能はまた別だという事実のみだった。

 ジェンが言った。

「あのう、ホーミー様、念写とかはできませんか?」

「会った時なら念写もできるけどね、そんな何ヶ月前のことは無理だよ」

「そうですか……」

 ウィリアがまたハッとなった。

「二日間ここにいたのですね!? 黒水晶は、新月の前後しか動けないはずです。なぜ?」

「あたしもあいつの事情を知ってるわけじゃないが……。月の波動ってのは、魔力を活性化する方に働くんだよ。だから大抵の魔物は、月の出てる方が動きやすい。だけどね、膨大な魔力を持っていると、体の中で暴れて辛い、ということがあるみたいだね」

「ここに二日間いられたのは?」

「ここでは魔法の研究をしている。月の波動や太陽の波動とかが入ってくると実験の結果が変わっちゃうんでね。それらは入らないように作ってある。そのためじゃないかな?」

「なるほど……」

 しかし、黒水晶を倒すヒントにはなりそうにない。ウィリアはうなだれた。

「ま、気を落とすんじゃない。物事はね、なるようになるんだ」

「はあ……」

 ほぼなぐさめにならなかった。

「お嬢ちゃん、立派な鎧だが、貴族かい?」

「ええ……。隠しても意味がないですので言いますが、ゼナガルドのフォルティス家の者です」

「じゃあ、お城のみんな、探してるんじゃないの? 帰ってやったら?」

「帰りません。黒水晶を倒すまで、絶対に帰りません!」

かたくなな子だねえ。……ふむ。その様子を見ると、だいぶ修行を重ねたんだね。ただ、黒水晶ととなると、ちょっとねえ」

「わかっております。わたしの実力が、黒水晶と戦うには不足していることは……。ですが、この命を落としても、奴を倒さなければいけないのです」

「やだねえ。だから武人は嫌いだよ。生きるの死ぬの、命を捨てるだのなんて。治癒師としてはね、命を大事にしないやつは、うざったいったらありゃしない」

「すみません」

「ま、人の人生だから、どうこう言うつもりもないけどね……。ふむ。修行で耐性も身につけたんだね。マヒと眠りの耐性を肉体化して……」

「わかるのですか?」

「あたしぐらいになるとね、見ればわかるよ。……お、あんた、指輪もいいやつしてるじゃないの」

 ウィリアの左手を見て、ホーミーは興味を示した。

「ああ、これですか。母にもらった物なのです。母はその母、わたしの祖母からもらったと言っていました。祖母が作った物だそうです」

「どれどれ、見せて」

 ホーミーはウィリアの左手を取って、中指と小指の指輪をじっくり見た。

「そんなに高価な指輪ではないと思いますが……」

「いや、値段はともかく、これ貴重だよ。中指のこれね、混乱よけの効力があるよ」

「あ……」

 ウィリアは、サトリの魔物と会ったとき、自分だけ混乱攻撃が効かなかったことを思い出した。

「小指の方も、いいもの持ってるね」

「これですか。これは名前があるのです。母にもらったとき、これは『純潔の指輪』だと言われました」

「純潔?」

 ホーミーは笑い出した。

「あっはははははは。あははは! 純潔の指輪ね。あはははは。あーおかしい。たしかに純潔の指輪かもしれないけどね! うぷぷ!」

 ウィリアはむっとした。

「何がおかしいのですか? たしかに、わたしは純潔を失いました。ですが、母からもらった指輪をつけていてはいけないのですか!?」

「あはは。いや、ごめんごめん。あんた、これの効力を知ってるのかい?」

「効力? これにも効力があるのですか?」

「そう。あのね、これ、『望まない妊娠を防ぐ』ための指輪だよ!」

「あっ……」

 黒水晶に犯された女性はほぼ妊娠する。ウィリアだけが例外だった。

「そうか……これのおかげで……」

 ウィリアはじっくりと小指の指輪を見た。

「黒水晶の子を身籠もったら、腹を突いて死のうと思っていました。この指輪が、わたしを守ってくれたのですね……」

 ホーミーはにやにやしながら言った。

「これ作ったってことは、あんたのおばあちゃん、相当遊んだね」

「そうかもしれません。会ったことはないですが、奔放な人だと聞きました」

 ウィリアはちょっと恥ずかしげな顔をした。

 ホーミーはジェンの方を見て言った。

「よかったねえ。ジェン。中○しし放題だよ」

「だから、そういう関係ではないんですって!」

「だけどねお嬢ちゃん、気をつけなよ。これはあくまで『望まない妊娠を防ぐ』ためのものだからね。『この人の、子供が、欲しい~』とか思いながらやると、普通に妊娠しちゃうからね?」

「そんなことは思いません!!」



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