表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
82/176

メアム遺跡(3)★

「ジェンさーん!」

 橋に開いた穴から、ジェンは下に落ちてしまった。

 ウィリアは穴の縁にかけよった。

「ジェンさん! ジェンさーん!!」

 フレイがかけよって体を押さえる。

「ウィリアさん、落ち着いてください」

「でも、でも!」

「風魔法があるから、着地はおそらく大丈夫です」

「ああ……。だけど、どうしたら……」

「……」

 フレイは橋の下を見た。

 地面ははるか下にある。しかもジェンが落ちたあたりは霧がかかっている。

「目視できれば、魔法で持ち上げることができるのですが、霧が……」

 ウィリアは声を張り上げた。

「ジェンさーん!!」

 だが、街全体が雑音を発していて、声が届きそうにない。

「階段は地面から続いています。ある程度登ってくるのを待ちましょう」

「でも、こんな何十階も……」

「ジェンさんの体力なら大丈夫です。それよりも……」

 三人を襲ってきた機械兵は橋の上で動かなくなっていた。

「……破壊できたようですね」

 しかし、何か音がしてきた。

 向こうの高楼から、機械兵よりは小さいロボットが、三体ほどやってきた。

 ウィリアとフレイは構えた。

 だが三体のロボットは二人には興味を示さなかった。倒れた機械兵にとりついて、外装を開き、内部の機械を見ている。

「な、何をしているんでしょう」

「おそらくは修理……」

「機械が機械を修理?」

 三体のロボットはてきぱきと作業を進めている。どういうことをやっているかフレイも理解できないようだが、いずれ機械兵は動作を再開するだろう。

「修理させないように、攻撃しましょうか?」

 フレイは少しの間考えた。

「いま必要なのは、ジェンさんが登ってくるまでの時間を稼ぐことです。修理が終わるまでの時間がわからないですが、長くかかるなら手を出さない方が得だと思います。これらを破壊すると、騒ぎが大きくなって、別のものが出てくるリスクがあります」

「わかりました。ですがこれが動作するようになったら、すぐ攻撃してきますよね。近くにいるのは危険では」

「物陰に隠れて、隠蔽魔法を使っておきましょう」

 二人は最初の高楼に着いた。隠れることができそうな場所を探す。わずかに開いた入口があった。

 暗い。

「しばらく中に……」

 フレイが足を踏み入れた。

 その瞬間、床が光った。

「!」

 魔法陣であった。ウィリアは青ざめた。

 光は収まった。しかしフレイはそのまま立っている。幸い、生命力吸収の魔法陣ではなかったようだ。

「フレイさん!」

「……」

 フレイは振り返った。恐怖の表情を浮かべていた。

「何があったのですか!?」

「……やられました。これは、魔力吸収の魔法陣です……」

「魔力吸収?」

「入るとき警戒すべきだったのに……うかつでした。すべて吸収されてしまいました……」

 魔力を吸収した部屋は、あちこちが光って明るくなった。何があるのかわからないが、周囲の機械が動作を始めたようだ。

 二人は危険を感じて、その部屋を出た。

 外では三体のロボットが修理をしていた。

 三体のロボットは機械兵から離れた。そして機械兵は音を立てながら起き上がってきた。

「こんなに早く修理が!?」

 二人は高楼の周囲を逃げた。機械兵は追ってきた。

 火矢ミサイルを放ってくる。

 ウィリアは振り向いて剣を抜き、それを斬ろうとした。

「いけません! それは爆発します!」

 そう言われて動作をとどまった。ウィリアは直前で体をかわした。爆発が起こる。

 もう一発放ってきた。再度爆発が起こる。

 二人で逃げる。

〈……〉

 機械兵は火矢を打つのをやめて、走って追ってきた。

「火矢は?」

「手持ちが切れたのかもしれません」

 機械兵は二本足で歩くので、馬車のようには速くない。しかし、人間が全力で走るくらいの速度は出ている。

 二人は高楼の階段を駆け上がった。

「高楼の中に!」

 開いている入口がある。中を確認して入る。

 内部にも階段がある。それを登った。

 上の階に着くと、下から音がした。機械兵が中に入ってきたようだ。

 この階は物や機械が多く積まれていて、登る階段や外へ出る扉は見つけられなかった。

 フレイが顔を伏せた。

「わたくしのせいです。好奇心に負けて、こんなことに……」

「フレイさん、あきらめちゃダメです。なにか方法があるはず!」

「魔力がない魔法使いなど、ただの足手まといです。ウィリアさん、あなただけでも逃げて……」

「そんなことはできませんし、第一、転送装置に魔力を注入しないと元の場所に戻れません」

「あ、そうですね。でも、魔力が……」

 ウィリアはフレイの手を握った。

「手を握ることで、魔力補給にはなりませんか?」

「なりますが、まにあいません。ウィリアさん、ジェンさんとの間で、魔力を補給する何か他の方法はなかったですか?」

「魔力補給の方法って……その、セックスをすれば回復したのですが、それは無理だし。キスをしてもいくらか回復したのですが、それも……」

 フレイはウィリアの目を見た。

「……おねがいできないでしょうか?」

「え!? いや、でも、わたしたち女同士ですよ!?」

「そうですが、試してみる価値はあります。それに……」

 フレイは斜め下を向いて、言った。

「あなた、かわいいし……」

 再度真顔になって、ウィリアの顔を覗き込んだ。

「時間がありません。試させてください」

「は、はい」

 フレイはウィリアの肩をつかんだ。

 ウィリアの心臓が高鳴った。ジェンとキスをしたときも緊張したが、女性同士で行うなどは想像していなかったし、背徳的なことのように思えた。

 フレイの顔が迫ってくる。ウィリアは至近距離でそれを見た。

 彼女の目は澄んでいて、睫毛は長くて、肌は滑らかでみずみずしくて、鼻筋がまっすぐ通っていて、唇は桜色で、つやつやしていて、柔らかそうで。




 機械兵が上がってきた。周囲を見回す。

 物陰からフレイが姿を現した。

 機械兵は突進してきた。

 フレイは杖を振り上げた。

 杖から波動が放たれる。それはまっすぐ進んで、機械兵に命中した。

 烈火が機械兵を包み、爆発が起こった。

 機械兵は倒れた。動かない。

 フレイは近づいてそれを見た。

 大破していて、全体が焼け焦げている。どんな技術を使ってもこれを修理することはできないだろう。

 背後からウィリアが声をかけた。

「やりましたね!」

 フレイは振り向かずに言った。

「……ウィリアさん」

「はい?」

「……さっきのことですが、緊急時でしたし、なかったことにしてください」

 ウィリアはフレイの後ろ姿を見た。耳が真っ赤になっていた。ウィリアも思い出して赤くなった。

「は、はい。わかりました」

「わたくしも、将来的には、男性と結婚したいのです」




 二人は外に出た。

 下を見る。地上から続く階段が霧の上に伸びている。

 階段を上る人がいた。ジェンだ。

「ジェンさーん!!」

 ウィリアとフレイは手を振った。ジェンも気付いて、手を振り返した。




 元の世界に帰ったときには、すでに夕暮れになっていた。

 三人は遺跡を後にした。

 ウィリアが尋ねた。

「もう調査はいいのですか?」

 フレイは頷いた。

「もう充分です。それに、こんど予想外のことが起きたら、本当に危険だと思います。記録もできましたし」

 フレイは懐から紙の束を出してみせた。それぞれに絵が描かれている。研究所の中や、異空間の機械などが描かれていた。

「えっ? 絵? それにこんなに正確に、いつのまに?」

「絵ではなく、念写です。ところどころで保存しておきました」

 ジェンも見せてもらった。

「へえ……。すごいな。これを王都に送ったら、遺跡の研究をぜひ推進しようということになるだろうね」

「そうなると思います。ただ、本格的な研究を行うためには、国が平和でなくてはなりません。それが、いつになるか……」

 フレイは夕日に染まる遺跡を振り返った。

「必ず、戻って来ようと思います。その日が来れば……」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ