表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/179

メアム遺跡(2)

 三人は階段を降りる。フレイが照明魔法を使うので暗くはない。

 階段の壁に文字が書かれていた。

「あの文字は何でしょう。数字のように見えます」

 字体はすこし変だが、普通に使っている数字と似ている。

「たしかに数字だと思います。超古代語と現代語で、数字だけは同じ起源らしいです」

「とすると、10と9となっているから……階数でしょうか?」

「そうですね。屋上が10階ということでしょうか」

 下の階についた。

 なんとなく軍の基地に似ている。廊下が中央を通っていて、両側に部屋がある。

「そういえば、さっき『軍研究所』と読みましたよね」

「ええ」

「当時の軍関係の、兵器などを開発するところでしょうか?」

「おそらくそうだと思います。……結果として悲惨な戦争を起こしましたが、高度な科学や魔法学が使われていたに違いありません。その知識のわずかでも手に入れられれば……」

 フレイは思い詰めたような表情になった。魔法使いにありがちな性質ではあるが、彼女も知識に対するマニアのようだ。

 両側の部屋にはドアがある。

 ジェンはドアの取っ手を回してみた。閉まっているようだ。次々と取っ手を回すが、大体閉まっている。

 中に、開くドアがあった。

「お」

 開けて入った。フレイとウィリアが続く。

 普通の部屋のようだった。金属製の机があった。机のそばにあるものはおそらく椅子だろうが、あちこちが朽ちて残骸になっている。部屋の壁面は金属製の棚で囲まれていた。

 机の上に何かある。

「あれ、本じゃないですか?」

 材質は紙のようだ。表紙になにか文字がある。

「超古代の本……!」

 フレイは本を手に取って開いた。

 すると、その瞬間、本は粉々の紙片に分解して、フレイの手から崩れ落ちてしまった。

 ウィリアが思わず言った。

「呪い……!?」

 フレイが悲しそうな顔で答えた。

「いえ……呪いや魔法ではなく、単に数千年経って、紙が分解したようです……」

「ああ……」

「超古代の知恵が書いてあったかもしれないのに……もったいない……」

 ウィリアは周囲を見た。金属で作られた戸棚にも多くの本が並んでいる。一部はすでに分解しているようだ。

「こんなに本があるのに、読めないのですね……」

「注意して輸送し、一枚ずつめくればあるいは……。だけどすぐには難しそうです。本などには手をつけないでおきましょう」




 その階にはカギが開いていた部屋がいくつかあった。どれも似た作りで、机と椅子、本や書類があった。あまり収穫はない。

 三人はもう一階下に行った。

「ここを調査したら、出ましょう」

 ウィリアとジェンは頷いた。貴重な遺跡だが、きりがない。

 下の階、おそらく8階についた。

 上の階とは構造が違った。階段の前に、大きな扉がある。

 フレイは扉の前に立った。取っ手はない。動かそうとしても開かない。魔法を使った。

「〈解錠〉」

 扉は左右に開いた。

「……」

 三人は中に入った。

 周囲は機械が並んでいた。

 見たこともない構造で、ウィリアにはまったくどういうものかわからなかった。ジェンも同様のようだった。

 しかしフレイは周囲を見回し、興奮した眼になっていた。

「フレイさん、この機械が何かわかりますか?」

「わかりません」

 はっきり言った。

「ですが、わかることもあります。さっき見たエレベーター、あれは基本的に電気で動作する構造で、魔力駆動はたぶん緊急用です。ここにある機械は違います。電気も使われていますが、魔力によって駆動される機械……。魔法機械です。実用化された魔法機械は現代にもありますが、これほど複雑なものはどこにもありません」

 機械の通路を進むと、やや広いところに出た。円形の台があって、その周囲を機械がとりまいている。

 三人は円形の台に乗ってみた。

「なにをするところなのでしょうね?」

 ウィリアはふとフレイの方を見た。

 フレイの目の前には、ボタンのついた操作盤らしきものがあった。その横に銀色の板がある。

 そういえば似た物をエレベーターの脇でも見た。魔力を注入することでエレベーターが動き出したのだ。

 フレイは銀色の板を注視していた。

 ウィリアはいやな予感がした。

 フレイは銀色の板に手をつけた。その手が魔力で光った。魔力は板に吸い込まれていった。

 周囲の機械が光り出した。

「な、何?」

〈alaelmbu@tehr]m……〉

 意味のわからない言葉が流れた。三人がいる円形の台が光り出した。

「……!!」




 光は収まった。

 三人は円形の台の上にいる。

 しかし、周囲の様子がまったく違っていた。

 頭上には空が広がっていた。奇妙な空だった。太陽が見えない。しかし空全体が明るい。

 円形の台は、非常に高い高楼の上に存在していた。

 周囲には似たような高楼が多数ある。その間は、階段や橋のような通路によってつながっている。

「ここは……!」

 ウィリアとジェンは周囲を見回した。

 フレイは頭を下げていた。

「す……すみません! 好奇心を抑えられなくて、機械に魔力を注入してしまいました……」

「それはいいですが……よくないけど……ここはどこなのでしょう」

 フレイは周囲を見回して考えた。

「わかりませんが、どうやらこの台は転送装置……。はるかに遠い場所か、人工的に作られた空間かもしれません」

「人工的に作られた空間? そんなものがあるのですか」

「あり得ます。超古代語の文献に、『別の空間』という概念が出てくるので」

 ジェンが言った。

「戻れるかな?」

「もう一回魔力を注入すれば、おそらく……」

 操作盤と銀色の板は円形の台に付属していた。フレイはそれを見た。そして周囲を見た。

「……すみませんが、ちょっと周囲を見回っていいでしょうか?」

 やはり好奇心を抑えられないようだ。

 ウィリアとジェンも、ここまで来たなら、少しは見ておきたい気持ちもある。フレイの希望を受け入れた。

 高楼の周囲に階段が巻き付いている。三人は階段を下った。




 高楼は階層構造になっているらしい。階段の途中に入口がある。最初の入口は閉まっていたが、二番目の入口は開いていた。

 中に入ってみる。

 いくつかの機械があった。中に、人型のものがある。二つの手と足。しかし体は金属などから構成されている。大きさの違うものがいくつかあった。

「これは?」

「おそらく、人の代わりに働く機械。超古代語で『ロボット』と言われるものだと思います」

「動きませんね」

「燃料が切れているのでしょう。魔力を注入すればもしかしたら……」

 壁に、銀色の板があった。

 フレイはふらふらと、そちらの方に進み出した。

 ジェンが叫んだ。

「フレイ、待って!」

 フレイははっとして動きを止めた。

「す、すみません……。わたくし、今の状況に興奮して、判断力を失っております。ジェンさん、あなたの指示に従います。どこまで行くか決めてください」

 ジェンは外の高楼群を見た。

「……じゃあ、橋を渡って四つの高楼を巡り、あまり時間をかけずに見よう。それが済んだら帰ろう」




 数階ごとに周囲の高楼とつながる橋がついている。

 橋は広い。高い手すりがついている。

 ウィリアは手すりの隙間から下を見た。

 地面ははるか下のようだ。高楼と橋の隙間からわずかに見える。一部は霧がかかってぼやけている。

 先ほど見た「ロボット」は動かなかったが、この街の一部は動作しているらしい。下の方から機械的な音が聞こえる。

「高いですね……」

 ちょっとした恐怖を感じた。

 ジェンが聞いた。

「高いところ、ダメ?」

「特に苦手ではないのですが、これだけ高いとさすがに」

 世界のどこに行っても、ここまで高い建造物はないだろう。

 隣の高楼についた。

 開いている入口を探す。大きな空間の場所があった。

 機械があった。そして「ロボット」もあった。ロボットは人より一回り大きかった。十数台同じ形のものがあって、一部は作りかけのように見えた。

「ここは……?」

「もしかすると、ロボットを作る工場かもしれません」

「何をするロボットなんでしょうね?」

 フレイは近寄って、構造を見た。

「武器がついています。矢かなにかを発射する装置。刃物もついています。おそらくこれは戦闘用。機械でできた兵士です」

 ウィリアはあらためて、十数体のロボットを見た。恐怖心が湧いた。

「こんな機械の兵士が攻めてきたら……恐るべき戦力でしょうね」

 ジェンは外を眺めた。

「さっきから気になっているんだが、ここは人間の気配がない。人間がいれば、食事や排泄や、いろいろな設備が必要になるはずだが、それらしきものがまったくなかった。おそらくこの一帯は、機械のための都市だ」

 フレイも頷いた。

 ウィリアは質問した。

「なぜ、そんな都市が作られたのでしょうか?」

 フレイは再度、機械兵を見た。

「もしかすると、これら機械兵を大量に生産し、兵器とするため……」

「……」

 ジェンが言った。

「次に行こう」




 その隣の高楼も似たような構造だった。橋を渡り、三番目の高楼に向かう。

 なにか音がした。

 シュルシュルシュル……。

「何でしょう?」

「……?」

 橋の向こうから何かが近づいてくる。

 それほど大きくはない。平たい機械のようだ。

 三人は近づいてみた。

 やはり機械だった。下に円形のブラシがついていて、それが回転している。

「これは……掃除用の機械ですかね?」

 それは橋にブラシをかけながら通り過ぎていった。

「ああいうのあれば便利ですね」




 三番目の高楼で、開いている入口があった。

 機械はあまりない。

 しかし、床になにか円形の模様が描いてある。

「何するものでしょうか……?」

 ウィリアが近づいた。

 フレイとジェンもそれを見た。そして、ハッとした顔になった。

 ジェンがあわててウィリアの肩をつかみ、引き留めた。

「近づくな!」

 ウィリアは振り返った。

「いや、中に入るつもりはありませんが、よく見ようと思って……。これは何なのでしょう?」

「見覚えがないか?」

「え?」

「魔法使いの館で……!」

 ウィリアは思い出してみた。魔法使いの館の中に、魔法陣を描いた部屋があった。その中に入れられた動物は、生命力を完全に吸い取られていた。

「これは、生命力吸収の魔法陣!?」

「おそらく、そうだ」

 背筋が冷たくなった。

 中をよく見る。

 魔法陣の中に、何かがあった。

 人間のようだった。干からびた人間だ。

「あれは!?」

「おそらく、人間の生命力を奪って、街のエネルギーにしたのでしょう……」

 遺体はそれほど古くないようだった。迷い込んだ旅人か、もしかすると行方不明になった調査隊の一人かもしれない。

「……」

 フレイが言った。

「もう充分です。ここは人間の来るべき場所ではないようです。帰りましょう」

 三人は橋を渡り、転送装置へ急いだ。

 この機械の街は危険だ。三人の足が速まる。

 ガチャン、という音がした。

 橋の向こうからなにかが現れた。

 機械兵。

 三人は足を止めた。

 それは近づいてくる。

 ウィリアが言った。

「ど、どうしたら……」

 フレイが制した。

「戦えば応援が現れるかもしれません。できるだけ、やりすごしましょう……」

 三人は橋の横に寄って、機械兵が通り過ぎるのを待った。

 機械兵は橋の中央を進んでくる。

 三人の近くに来た。

 機械兵は頭部を回し、ガラスの眼で三人を見た。

〈……〉

 じっと見つめていた。どうすればいいか、悩んでいるようだ。

 機械兵はジェンを見た。

 ジェンは作り笑いをしていた。

 フレイを見た。

 つとめて冷静な表情をしていた。

 ウィリアを見た。

 ガラスの眼で見つめられて、ウィリアの緊張は限界に達した。

 つい、剣に意識が向かった。

 機械兵の眼の色が変わった。

〈ギギギ……〉

 それはウィリアに突進し、刃物を振り下ろしてきた。

 ウィリアはよけた。

 再度振り下ろす。

 それほど敏捷な動作ではないようで、ウィリアがよけることは容易だった。しかし当たれば命は無いだろう。

 ジェンは風魔法を放った。

 だが金属の体には効かなかった。機械兵はジェンも見た。

 体から、火矢のようなものを放った。ジェンはぎりぎり体をかわす。火矢は橋の手すりに当たって爆発し、一部を破壊した。

 機械兵はますます激高して、火矢をいくつも放ってきた。

 フレイが炎魔法を放った。

 機械兵の胸に命中し、爆発した。機械の体が橋の上に倒れた。

 だが、直前に放った火矢は数カ所で爆発を起こした。

 ウィリアとフレイはよけることができた。

 ジェンも火矢自体はよけたが、その爆風を受けて体が吹き飛ばされた。そして、手すりに開いた穴から落下していった。

「わーっ!!」

「ジェンさん!!」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ