表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
71/176

辺境の道

 女剣士ウィリアと治癒師ジェンは、辺境の道を歩いていた。

 修行のため、倒すべき魔物を探している。ウィリアの最終的な目的は、父を殺した剣士「黒水晶」を倒すことである。

 旅の途中でウィリアはジェンと出会った。最初はゲントという薬屋だと名乗っていた。しかしその正体は、伯爵の息子で、治癒師であった。剣術学園の闘技会で親友を死なせてしまい、武人の道を捨てて治癒師になったという過去があった。

 歩きながらウィリアは言った。

「ジェンさん。辛い過去を教えてくれてありがとうございます」

「……」

「ですが、まだわからないことがあります。あなたはわたしと旅の途中で出会いましたが、偶然ではありませんよね? なぜ、わたしを探して、そして見つけられたのですか?」

「冒険者の間の情報で、父の率いる討伐隊が全滅したことを知った。唯一の生き残りの女性が、黒水晶を倒すために旅に出たことも。あまりにも無謀だ、止めなければならないと思った。

 『森の魔女さま』の弟子、僕の姉弟子に当たるが、実力のある占い師がいる。その人にお願いして君の行くところを占ってもらった。宿で待ち伏せして、君を見つけることができた」

「止めなければならないと思った……。それだけですか? お父上のかたきを取るつもりはないのですか?」

「ない。僕はもう戦わない。父の仇であろうと、戦うつもりはない。それに、話を聞いた限りでは、黒水晶というのはとてつもない力を持っているらしい。個人が戦って勝てる相手とは思えない」

「領国を捨てて旅をしているのは、あなたも同じですよね? なぜあなたが同じ立場のわたしを止めたり、領国に戻れと言うのですか?」

「……領国を捨てたことで、多くの人に迷惑をかけたのはわかっている。同じように領国を捨てた君を戻すことができたら、僕の罪もいくらか軽くなるんじゃないかと思って……」

「あなたの都合で戻そうとしないでください。こんな汚れた体で人の上に立つつもりはありません。あなたこそ、領国に戻るべきじゃないですか?」

「戻らない。こんな弱くてなさけない僕が、人の上に立つつもりはない」

「なにもなさけなくありません。剣士を断念しても、治癒師として一人前になったのは立派だと思います」

「……それだけじゃない。領主になれば、戦争のとき軍を指揮しなければならない。敵を殺し、部下を殺されることになる。もう殺すのも殺されるのも関わりたくない。領主として戻るつもりはない」

「あなたがやらなくても、他の誰かがやらされるのですよ?」

「それでもやりたくない。卑怯者、臆病者と言われてもかまわない。戻る気はない」

「もう……。以前わたしのことをかたくなだと言ってましたが、あなたも相当ですね」

「……」

 しばらく無言で歩いた。

 またウィリアが言った。

「そういえば、シシアス伯爵が、あなたに残した言葉があります」

「父が?」

「殺戮の後、シシアス伯爵はまだ生きていました。ご家族に言い残すことはないかと聞くと、息子に会ったなら『信じた道を進め』と伝えてほしいと言って、亡くなりました」

 ジェンは遠い目をした。

「……信じた道を、進め、か……。父は僕をあきらめてくれたらしい……」

「……あきらめての言葉ではないと思いますよ」

「じゃあ、何?」

「わたしは子供を持ったことがないから、想像でしかありませんが……。独自の生き方をした子供に、かけてあげられる精一杯の言葉が『信じた道を進め』ではないでしょうか?」

「……そうかもしれないな……。いずれにせよ、僕は父の期待に応えられなかった。なさけない、親不孝者だ……」

「また……。そんなに自分を卑下しないでください」

「君がそれを言う?」

 ウィリアはむっとした顔をした。

 またしばらく歩く。

「それから、討伐隊の中であなたを知っていた人がいました」

「え、誰?」

「背の高い剣士で……。男爵家の出とのことですが、名前はテオと……」

「あっ、テオ! 一年下のやつだ。そいつ、どうなった!?」

「どうなったって……。討伐隊にいましたので、一緒に、黒水晶に……」

「……ああ……そうか……。テオ……死んだか……」

 ジェンは顔を落とした。心底悲しそうだった。

「……」

 しばらく歩く。

 ウィリアが言った。

「……やさしい人で、いろいろ教えてもらいました。剣筋の使い方とか、握り方の癖を指摘してもらったり……」

「ああ、あいつ、やさしいんだ……。強いし……」

 ジェンは空を見た。雲が流れていた。

「……いいやつ、有能な人物から死んでしまう……。俺みたいなのが生き残って……」

 二人は道を歩き続けた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ