表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/176

剣術学園(5)

 剣術学園。

 正式には、王立軍事剣術武術学園という。

 エンティス王国の軍人を育てる学校である。貴族から平民まで、武の道をめざす少年たちが切磋琢磨している。過去にも数々の名高い武人を輩出してきた。

 ときに在学中から才能を発揮するものもいる。その年にも、そういう生徒がいた。それも二人。

 ディネア領国を治めるヴェラ伯爵家のライドゥス。ソルティア領国を治めるシシアス伯爵家のジェン。

 二人は親友であり、ともに切磋琢磨してきた。才能と環境に恵まれ、王城親衛隊の剣士と戦っても引けを取らないほどに腕を上げた。

 剣術学園には毎年二回、闘技会という催しがある。

 選手が本物の剣を持って戦う。時に死者が出るが、その場合は蘇生魔法で生き返らせることになっている。

 エンティス王国軍の勇猛さは、この闘技会があるためとも言われるほど重要な行事である。

 ライドゥスとジェンは、一学年後期の闘技会から、それぞれ二回優勝している。三学年後期の闘技会が最後になる。

 過去、闘技会で二回優勝したものはいるが、三回優勝したものはいない。どちらかが優勝すれば、学園の歴史に残る快挙となる。

 二人とも親友でありながら負けたくない、いや親友であるからこそ負けたくないと、闘志を燃やしていた。




 剣術学園の職員室。

 放課後、数人の教官が雑談をしていた。

 話題は自然と闘技会のことになる。

「近くなってきましたな。闘技会……」

「優勝はやはり、ライドゥスとジェンのどちらかでしょうね」

「どっちになりますかね?」

「ライド、ジェン、ライド、ジェンと来てるので、順番から言えばライドですが……」

 横で聞いていたゴウキ教官が顔を上げ、雑談に加わってきた。

「いやいや、もう順番がどうとかではない。わしは二人を指導しておりますが、どちらも尋常でないくらい闘志が漲っております。虚心に見守りましょう」

 ゴウキ教官は歴戦の勇士。老いて軍を退役し、教官をしている。剣が専門だが、大剣や斧なども使いこなす豪傑である。

「たしかにゴウキ先生の言うとおりです。どちらが勝つにしても、学園として胸を張って送り出せる二人です」

「そういえば、彼らの卒業後はどうなってますか?」

「二人とも、王城親衛隊に内定しております」

「ジェンはともかく、ライドゥスはお父上が亡くなっているので、領国を治めなければならない立場では?」

「まあ、一年でも二年でも親衛隊の飯を食って、人脈を作っておくのは悪くありません」

「いやしかし、虚心に見守るべきというのはそうなんですが、気にはなりますね。負けた方は、建国祭の大会などで捲土重来を期すことになるでしょうか。ゴウキ先生、どう思います?」

「そうなるでしょうな。建国祭と言えば、恥ずかしながらわしも何度か出させてもらいましたが、今の二人は当時のわしよりよほど強い。来年にも出るかもしれませんし、どちらか優勝してもおかしくありません」

「それもまた楽しみですね……」




 剣術学園の庭。

 ライドゥス・ヴェラとシシアス・ジェンが剣の練習をしている。

 ライドゥスは一般的な片手剣を使う。その軌跡は鋭く華麗である。

 ジェンは大剣を使う。全長が人の背丈ぐらいあり、幅も広い。とてつもなく重くて破壊力のある武器。しかし彼はそれを使いこなし、いまでは軽々と扱っているように周囲からは見えた。

 どちらも今は練習用の斬れない剣を使っている。とはいえ当たれば骨折する場合もあるし、ジェンが使っている大剣がまともに当たれば大けがしかねない。

 だが、二人は今まで千回以上の練習を重ねてきた。剣筋は熟知している。攻撃が直接当たることはほぼない。どちらも本気で戦うことができる。特にジェンが本気で大剣を振るうのは、ライド相手だけである。

 ライドが踏み込む。ジェンの大剣の動きをかわし、下方から攻撃する。

 ジェンは大剣の腹を使って、攻撃を受け止める。

 ジェンが大剣を振るう。それはライドの胴体に向かう。しかしライドは飛び上がってそれをよけた。

 練習場になっている校庭には他にも学生がいる。多くの目が、二人の立ち会いを見ていた。

 ガキッ!

 何度目かの剣の交差があった。

 お互い力をこめて押し合う。

 動かない。

 やがて、二人の表情が穏やかになった。お互い後ろに引いた。

「ハア、ハア……」

「ハア…………」

 心地よい疲労感を感じている。

 ライドの方が横を向いた。校舎についている時計を見た。

「あ、もうこんな時間か……。ジェン、またあとでな」

 ジェンは興醒めした顔になった。

「また彼女のところか?」

「変な風に言うな。魔法剣の練習だ」

「彼女のところじゃないか」

「まあ、そうだけど……」

 ライドは少し恥ずかしげな顔になった。

「魔法剣の練習は立派だけどさ、闘技会で使うのは魔法なしの剣だ。そっちにばかり気を取られてると、俺が優勝をもらうぞ?」

「……わかってる。今日が最後だ。明日から闘技会向けの練習だ」

 ライドは用具をまとめて去った。後にはジェンが残された。

「まあ、わかってるならいいんだけどさ……。さて、どうしようかな」

 ライドがいないと練習相手に悩む。

 そうしていると、背の高い生徒がやってきた。

「先輩、暇なら、教えてくださいよ」

 ジェンより頭ひとつ分高い生徒だ。

「ああ。テオか。ちょうどいい。やるか」

 一年下の後輩テオである。背が高い割に太っていないので細い印象を与えるが、二年生の中ではかなり腕が立つ。ライドには及ばないものの、ジェンの練習相手を務められる実力を持っている。

 ジェンとテオが立ち会いの練習をはじめた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ