表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/176

魔法使いの館(3)

 魔法使いは庭に出てきた。ゴーレムを三体ほど連れている。庭を探し回った。

「かくれてもムダだ! この庭からは出られん! 出てこい!」

 憤怒の表情であちこちを睨んでいた。

 ウィリアとゲントは庭木の影に隠れていた。

 館を囲む生垣の向こうは異様な光景になっていた。生垣の周りにまた生垣、さらに生垣となっていて、終わりがない。空間を歪めているのだろう。魔法使いの言う通り、このままでは庭から出ることは無理なようだ。

「ゴーレムは倒せますが……あの炎は強力ですね……」

 ウィリアは陰から魔法使いを見た。

 ゲントが提案した。

「……魔力を消耗させてみよう。やつは興奮している。姿を見せれば炎を撃ってくるだろう。だが無限に魔法を使うことはできない。魔力がなくなったところを、斬る」

「はい!」

 ウィリアは陰から姿を現した。

「そこかーっ!」

 魔法使いは強力な火炎魔法をウィリアに発した。

 ウィリアはそれを避ける。

 炎は庭木に当たった。隠れていたゲントもあわてて避けた。

 魔法使いは何発も炎の攻撃を撃ってきた。

 ウィリアの動きは素早い。炎をかわしながら、庭を縦横に走った。

「この……!」

 魔法使いが火炎を放つ。

 ウィリアがよける。

 だが、避けた先にゴーレムがいた。ゴーレムはウィリアにつかみかかってきた。

「きゃっ!」

 ウィリアは剣を振って、ゴーレムを破壊した。

 だがその瞬間、魔法使いの攻撃が襲ってきた。業火がウィリアを遅う。ウィリアの体が焼けただれた。

 すぐさまゲントが蘇生魔法を使った。一瞬の後、ウィリアは生き返った。

「……あ、ありがとうございます」

 魔法使いはゲントを睨みつけた。ゼイゼイと息をしていた。

 ゲントはそれを見て、いける、という表情をした。

 魔法使いはゲントの方に腕を伸ばした。

 ゲントは少し腰を落として、火炎攻撃に備えた。

 しかし、魔法使いは火炎を放たなかった。なにか波動が手から出て、それがゲントの方まで到達した。

「あ……」

 ゲントは青ざめた。

「まずい! ウィリア! 逃げろ!」

「え?」

 魔法使いは前にも増して、火炎攻撃を乱打してきた。ウィリアとゲントは庭の中を逃げた。




「どこへ行ったー!」

 魔法使いは二人をしつこく追う。

 ウィリアとゲントは、庭の片隅にいた。崩れた壁と壁の間。隠れられる数少ない場所だった。

 ゲントの表情は固かった。

「さっきは、どうしたのですか?」

「やられた。魔力吸収の術だ。完全に吸い取られてしまった。もう、残っていない……」

 固い表情には恐怖心が見て取れた。

 ウィリアはその恐怖心の意味がわかった。次に死ぬことがあれば、もはや、生き返らせることはできないのだ。

 魔力を再生しなければ、きわめて不利になる。

 ウィリアはゲントの目を見た。

「ゲントさん」

「ん?」

「わたしを抱いていいですよ」

 ゲントはウィリアを見た。唾を飲み込んだ。しかし首を振った。

「……いや、そんな時間はない」

 それもそうだ。

「……どうしたら……」

 ゲントはウィリアを見つめて言った。

「あの……ウィリア」

「はい?」

「キスして、いい?」

 ウィリアは驚いたが、すぐにはっきりと答えた。

「はい! そんなことでいいなら、どうぞ!」

「じゃ、すまない……」

 ゲントはウィリアの肩をつかんだ。

 正面に相対した。

 ゲントの顔が近づいてくる。

「……あ、ちょっと、待って」

 ウィリアは横を向いて、ゲントを押し返した。

 ゲントは悲しそうな顔をした。

「嫌?」

「い、嫌じゃないですけど、ちょっと、心の準備が……」

 ゲントとキスをしたことは何回もある。だがそれはすべて夜中、性行為に付属するものだった。昼間にはっきり顔を見ながらしたことはなかった。状況が違う。

 ウィリアは深呼吸を何回かした。

「は、はい、もういいです! おねがいします!」

 ゲントは再度ウィリアの肩をつかんだ。

 顔が近づく。




「どこだー!」

 魔法使いの怒声が響く。あちこちを見回している。

「ここだ!」

 ゲントが声を上げた。

 魔法使いが見ると、ゲントとウィリアがいた。

 激高した魔法使いは、二人に火炎魔法を撃った。

 だが、ゲントは次の瞬間、風魔法を放った。使える最大限の風魔法で、竜巻くらいの威力がある。魔法使いの火炎攻撃を押し返した。

「うっ!」

 魔法使いは思わず腕で顔を覆った

 そのとき、風の中から、女剣士ウィリアが飛び出してきた。それは魔法使いを斬り倒した。

「ぎゃーっ!」




 魔法使いは倒された。

 空間を曲げる魔法は解除されたようだ。庭の外側を見ると、生垣の周囲は普通の森であった。これなら出られそうだ。

 ゴーレムもすべて瓦礫に戻っていた。

 ウィリアは剣を持ったまま立っていた。

「やったな、ウィリア!」

 ゲントは背後から声をかけた。

 ウィリアは背を向けたまま、言った。

「……ゲントさん」

「ん?」

「……どのくらい、魔力が回復しましたか?」

「えーと……三分の一ぐらい」

「……というと、三回……すれば完全に戻りますか?」

「いや、そういうわけでもない。同じことをくりかえしても効きが悪いので……。でも、きみのおかげだ。ありがとう」

「そうですか……。ゲントさん」

「ん?」

「いつでも言ってください。必要なら、回復に協力します」

「ありがとう。場合によってはお願いするかもしれない」

 ゲントはウィリアを後ろから見た。耳たぶが真っ赤になっていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ