イペラの街(2)
「キャーッ!!」
夜の静寂が、悲鳴で途切れた。
ウィリアとジェンはとっさに目を覚ました。
悲鳴は一階から聞こえた。
ウィリアは剣を持ち、部屋を出た。ジェンも出てきた。
声は、宿屋の夫婦の寝室からのようだ。
「どうしました!」
戸を蹴り破る。
夫婦が、寝巻姿のまま、腰を抜かしていた。
そこにいたのは、数匹の大蛇。
夫婦の前に特に大きいのがいて、威嚇している。
ウィリアは割って入った。
大蛇は襲いかかってきた。
斬る。首が落ちる。
斬った瞬間、大蛇は縮んだ。普通の大きさの蛇になった。
「?」
残りの蛇たちが窓から出て行った。
ウィリアは夫妻に向き直った。
「お怪我はありませんか?」
「あ、ありがとね。大丈夫だよ」
「何が起こったか、お聞かせください」
「いやね。寝てたら、窓を破っていきなりあいつらが入り込んだんだよ。もう驚いて。そしたら部屋の中を探し回って、招き猫を持っていってね……」
「招き猫?」
「猫の置物で、商売繁盛のお守りみたいなものなんだけど」
「それは高価なものですか?」
「いや、たいしたことない。何ギーンかぐらい。あんなのは盗られても別にかまわないんだけど、なにが目的だったのか……」
そうしていると、客室の方からも悲鳴が聞こえた。
「きゃーっ!!」
「わーっ!!」
ウィリアとジェンはそちらの方にも向かった。
「アニキ、なんかわからないけど騒ぎが起きてますね」
「チャンスだ。女剣士の剣を盗みに行くぞ!」
盗賊の二人はウィリアが泊まっていた部屋に向かった。
扉が開いていた。
「なんだ。カギも開けたまま出て行ったのか?」
入ると、部屋の隅に大剣が立てかけてあった。
「これだ!」
「普通の方の剣がありませんね」
「持って行ったんだろう。まあ、これだけでもいいや。数年は遊んで暮らせるぞ……」
「でも、そんな大きいの、どうします?」
「昼間のうちに目星はつけている。隣に祠がある。あそこに隠しておこう」
部屋を出ようと、扉へ向かった。
そのとき、窓を壊してなにかが入ってきた。
「な、なんだ!?」
大蛇だった。
大蛇は部屋の中を見回す。そして盗賊が持っている大剣に狙いをつけた。
二人を追いかける。
「なんだ! これは!」
「ひええ。俺、ヘビ嫌いなんすよ!」
「とにかく逃げろ。隣の祠に行くぞ!」
いくつかの部屋に、大蛇の侵入者があったらしい。
ウィリアとジェンが向かったが、すでに大蛇は、なにかを持ち去っていった後だった。
「なにか盗られましたか?」
「あ、あの、道中安全のお守りを……」
別の部屋にも行った。
若夫婦の旅人がいて、妻が泣いていた。
「どうしました?」
「宝石を盗られちゃったのよ。家に伝わる幸運の宝石なのに……」
宿以外でも、大蛇が出没しているようだ。外から悲鳴が聞こえる。
ウィリアとジェンは困惑した。
「ジェンさん、これ、なんでしょうか?」
「わからないな。黒水晶とは関係なさそうだが……」
「盗られたものは、招き猫、お守り、幸運の宝石……。価値があるのもないのもバラバラですね」
「うむ……」
ジェンはちょっと考えた。
「……霊力のある物?」
「そうかもしれません。だけど誰が、なんのために?」
「うむ……。霊力……。あ! ウィリア! 大剣!」
「あっ!!」
二人はあわてて二階へ上がった。ウィリアの部屋に入る。
窓が壊されている。大剣はなかった。
「しまった!」
「ジェンさん、ごめんなさい。わたしのミスです」
「いや、仕方ない。しかし、どこに持って行った……?」
ウィリアが思いついた。
「そうだ! 隣のほこらが、蛇神を祀っていると言いませんでしたか!?」
「そうか!」
二人は階段を降りた。
「ところでジェンさん、霊力で大剣を思い出したのはなぜ?」
「眠りかけのときに、声を聞いたんだ。『狙われているぞ』と。あれはもしかしたら、大剣に宿っているなにかの声かもしれない」
「それはわたしも聞きました」
「そうか。確認しなければならないが……。とにかく取り戻さないと」
盗賊の二人は、宿の隣の荒れたほこらに向かった。
解錠術で扉を開ける。
蛇を象った石像が鎮座していた。
「あの像のうしろ、棚の隙間に隠しておこう」
見つかりにくいところに隠した。
若い方が、石像を見て言った。
「ヘビの神様なんですかね……。ヘビ……なんか、いやな予感しませんか?」
「いやな予感?」
盗賊は後を振り向いた。
そこには、大蛇がやってきていた。数十匹の大蛇が、ほこらの中に向かってくる。
「うわあああ! こりゃ何だ!」
それぞれが、お守りとか招き猫とか、よくわからない物を持ってきていた。
若い方の盗賊が、手持ちのこん棒を振り回した。
「わああ! 来るな! 来るな!」
「落ち着け! 興奮させるな!」
巨大な大蛇が若い盗賊に巻き付いた。首を締め上げる。骨の折れる音がした。
若い盗賊は死んだ。
「あ、あわわわ」
年長の盗賊も恐怖に駆られた。短剣を振り回した。
大蛇が足に噛みついた。
「あ……」
毒が回り、彼も意識を失った。