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宿場町

 女剣士ウィリアと治癒師ジェンは、街道を北に向かう。

 ウィリアの目的は、仇である黒水晶の剣士を倒すこと。その力はあまりにも強大だった。倒す方法を見つけるため「森の魔女」から得たアドバイスは、三人の人に教えを請うことだった。

 一人目からは魔法剣を、二人目からは高速化の技を得ることができた。残りの一人は魔道士ランファリ。隠蔽の魔法を使っているらしく居場所はわからないが、彼の旧友の占いでは北部の街で手がかりが見つかるとのことだった。

 ウィリアは物思いに沈んでいた。思うことは、ウィリアを死地から遠ざけ、若い命を散らしたリョウ少年のことだった。

 ふと、話し始めた。

「リョウ君は……」

 ジェンはウィリアを振り返った。

「別れるときに、あなたに会えてよかったと言ってくれました。もしかすると彼は、わたしを女性として意識していたかもしれません」

「……」

「ジェンさん、十四、五の男の子って、年上でも女性として意識するものですか?」

「うん……。人によるけど、意識はするよ」

「そうですか……。悪いことをしました」

「何したの?」

「森の小屋に泊まったのですが、彼が防寒布を持っていなかったので、一緒にかけたのです。あと、魔力が減っていたので、手をつなぎました」

「ああ……」

「彼は遠慮していました。礼儀で遠慮しているだけと思ったのですが、苦しめてしまったかもしれません」

「それは、そうかもしれないな」

 ウィリアはしゅんとなって下を向いた。

 ジェンが言った。

「だけど、会えてよかったというのは本当だと思う。最後に親切にしてもらったことは、救いになったはずだ」

「……」

 ウィリアは空を見た。彼の魂は、すでに天に昇っているかもしれなかった。

 しばらくしてまたウィリアが話し始めた。黒水晶のことだった。

「予想はしていましたが、やはり黒水晶には歯が立ちませんでした。あまりにも強い……。わたしが生き延びたのは、またも奴の気まぐれのためです」

「……」

「両腕を落とされ、死ぬのだと思ったとき、奴はなぜかわたしに『魔にならないか』と誘いました。何を考えているのでしょうか。なるわけもないし、わたしが恨みを抱いているのをわかっていないわけがないし」

 ジェンはちょっと考える顔をした。

「あまりにも寂しい人間は、縁のある人にすがりつく。そういうことではないか」

「縁……」

「君は、世界で唯一、黒水晶に複数回会った人間のようだ。奴にとってはそれが縁に思えるのかもしれない」

「その縁が、仇であっても?」

「縁のある者が世界中に一人だけなら、仇であっても愛おしく思うかもしれない。僕は黒水晶ではないから、わからないが……」

 冬はもう過ぎたらしい。若葉が出る季節になっている。

「ジェンさん、黒水晶の、『穴』を作り出す能力を見ましたよね」

「ああ」

「奴は、あれを瞬時に作り出せるようです。魔法剣の威力はそこに飲まれてしまいました。魔法攻撃も、同様になるでしょう」

「あれに類する技は、聞いたことがない」

「あれは魔界への穴でしょうか」

「いや、魔界へ通じるものではないと思う。魔界への穴と言われる場所はいくつかある。どれも封印されているが、それでも強烈な魔素を感じる。奴が入っていった穴はそういう感じではなかった」

「なるほど。魔界ではない別の空間ですか……。現世の一部に空間を作り出して、太陽や月の影響から逃れているのかもしれませんね」

「戦いの時も同様の技を使うわけか」

「あれを封じない限り、勝てないように思います。ただ、どうやればいいか見当も付きません」

「ランファリ様に、教えを受けることができるかな」

「できるでしょうか」

「独自の研究をしているという噂はあった。ただ、難しい人だそうだから、あまり人には話してないらしいけど」

「とにかく、会ってみないと始まりませんね。ランバ氏に教えてもらった魔法剣、マリガ先生の紹介で習得できた鏡心の術、どちらも貴重な能力でした。森の魔女さまの占いは正しい道を示してくれているようです。ランファリ様も、きっと……」

「あの老人、トースさんと言ったっけ。手がかりが見つかるだけかもって言ってたな。手がかりが見つかって、やっぱり南部にいたなんてことになるかもな。行ったり来たりだ」

「ならば、また旅するだけです」

 二人は街道を進んだ。

 小さな宿場町に着いた。宿屋が三軒ほど並んでいる。

 宿の近くに草むらがあった。草むらの隅に、桜が咲いていた。

「……」

 ウィリアは少しの間立ち尽くした。

 ジェンが言った。

「初めて会った場所だね」

 ウィリアは頷いた。

「あのときも、桜が咲いてましたね」

「君は桜の下で剣を振っていた」

「あそこの丸太の上には、にやにやした薬屋が座っていました」

「にやにやはひどいね。微笑んでたと言ってくれよ」

「愛想のいい旅人には気をつけろと言いますからね。絶対、泥棒かなんかだと思ってました」

「僕は普通にしてると笑ってるように見えるらしいんだよ。父によく注意された」

「でも悪くないと思いますよ。その顔に、だいぶ助けられました」

 花びらが舞っている。

「一年経ったのですね」

「いろいろあったな」

「出会いも、別れもありました」

「次の一年には、何があるんだろうな」

「次の春も、花を見ることができるでしょうか」

「見ようよ」

「ですが、最後の戦いがあるかも」

「目標は高く持とう。勝って、生き残って、見るんだ」

「勝って……。ええ、そうですね」



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