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森林地帯(4)

「死にに行く……。それは、どういうことですか」

 ウィリアはリョウ少年の肩をつかんでいた。

 少年は観念したように言った。

「込み入った話になります。座りましょう」

 リョウ少年とウィリアは、枯れ草の残る野原に座った。




 昨日言ったと思いますが、僕のところは魔法使いの家で、父も兄も魔法使いです。

 父は王城付きの魔法使いでした。親自慢になりますが、かなりの術者でした。元々持っている属性が多い上に、努力によってほとんどの種類の魔法を使えるようになったんです。

 三年近く前、黒水晶の剣士が現れました。

 最初の襲撃は元ファグ族の領主のところで、ほとんどが殺されました。黒水晶の剣士はファグ族で、裏切り者を襲ったのだと推測されました。

 ファグ族の中でこちらに協力したのは二箇所です。もうひとつの領主が危険を感じて、王国に保護を求めてきました。王国はそれに応え、十分な武力と、治癒師、魔法使いたちの部隊を送りました。

 その中に、僕の父がいました。父はほとんどの魔法を使えたので、どんな場合でも対応できるだろうと期待されたんです。

 最初の襲撃から一ヶ月後、やはり黒水晶の襲撃がありました。

 それは想像以上に強く、武人たちは敗れました。治癒師も殺され、僕の父が最後に残ったそうです。

 生き残りの女性が一人だけいて、その様子を見ていました。父は何度も魔法を使ったが、黒水晶に対してはどれも効かなかったということです。

 そして、父は死にました。





 ウィリアは少年の顔を覗き込みながら、話を聞いていた。

「黒水晶……。多種の魔法が使える魔法使いが戦っても、効かなかったということは聞きましたが……。あなたのお父さまが……」

 少年は頷いて、話を続けた。




 ご存じだとは思いますが、黒水晶の襲撃は続きました。最初は月に一回。さらに、本人がいない襲撃も、月に何回も起きるようになって……。それに関する話題は表向き禁じられてましたが、噂は聞こえます。僕の兄は魔法学園を卒業したばかりでしたが、師匠のウルラ先生に「奴を倒すためなら命を捨てます!」と言って、討伐隊への参加を希望しました。しかし、それは叶いませんでした。

 去年あたりから、黒水晶の襲撃する先が変わってきました。

 それまでは王国の軍事施設や、有力な領国を襲ってたんですが、教会とか、宗教関係の施設を襲うようになりました。それらの教会は、王城の魔法防御に協力してました。

 王城は、最高の魔法防御設備を備えています。魔物は絶対に入れません。黒水晶が王城を襲っていないのも、これがあるからだそうです。

 しかし、設備を維持するには、法力とか、聖なる魔力を注入する必要があります。それらを担っていた教会が次々と攻撃され、滅びました。

 魔法大臣のアリストル様などは、近いうちに魔法防御が維持できなくなると、大変な危機感を持っていたそうです。

 そんな中、マリガッチヨ先生から、黒水晶の高速移動に関する報告がもたらされました。

 アリストル様は魔法使いを集め、会議を開きました。この術式を使って黒水晶と戦う者を募りました。

 しかし、誰も名乗り出ませんでした。

 土魔法と雷魔法を同様に使えるという難しい条件があるので、できる人数が少なく、少ない該当者も自信ないって引き受けなかったそうです。

 それに、黒水晶に魔法は効かないと言われてます。しかしなぜ効かないかはわかってません。動きが高速なので魔法が当たらないだけなら倒せる可能性はあります。でもそれだけでなく、当たっても効かないのかもしれないのです。父の最期を見た女性は魔法の知識はなく、詳細を聞くことはできなかったんです。

 アリストル様がしびれを切らして言いました。

「誰もやらんなら、わしが行く!」

 みんな驚きました。たしかにアリストル様はほぼすべての魔法を使いこなす達人で、高速化の術も可能でした。しかし、大臣というだけではなく、実力的にも王国最高の魔法使いです。

 アリストル様にもしもの事があったら、王国の魔法戦力は大打撃を受けます。誰もが止めました。しかしアリストル様はかたくなに、自分が行くと言いました。

 その会議に、僕と兄の師匠のウルラ先生もいました。先生はアリストル様を止めて「心当たりがあります」と言いました。

 僕が魔法学園で、ウルラ先生に教えを受けた後、先生は「お兄さんはいつ頃お戻りかね?」と聞いてきました。兄は王城魔法使いとして採用されましたが、その時は研究休暇を取って修行の旅に出てました。

 僕は、いつごろまでに帰るようだと答えましたが、ウルラ先生の態度に不審なものを感じました。そこで、悪いとは思いましたが、読心の術を使いました。

 それですべてわかりました。僕が会議の内容を知っているのも、そのとき先生の記憶を覗いたからです。

 僕は先生に詰め寄りました。

「先生、兄を、黒水晶に向かわせる気ですね!」

「う、リョウ、心を読んだか……?」

「勝手に読んだことは謝ります。だけど、兄を失うわけにはいきません。やめてください」

「リョウ、わかってくれ。人材がいないのだ」

「ならば、僕が行きます!」

「お前が!?」

「僕だって、奴を倒すためなら命はいりません。兄は僕の家の希望です。捨て石のように死なせるわけに行きません。土と雷の魔法は僕も使えます。僕が行きます!」

「いや……。おまえはまだ幼い……」

「そうしてくれないなら、いま知ったことを言いふらします!」

「やめろ。リョウ。そんな……」

「やめさせたいなら、口封じに殺してください。でなければ言いふらします。それがいやなら、僕を使ってください!」

 先生を脅したようになったけど、使ってくれることになりました。術式も教えてもらい、自分や仲間の高速化もできるようになりました。

 そして僕は、兵士二人をつけられて出発しました。残念ながらその二人は亡くなってしまいましたが……。

 黒水晶が現れるのは、おそらく三日後、ランゲカール手前のミネラ教会と思われます。襲撃地点の軌跡と、ミネラ教会が王城の魔法防御の一端を担っているので、有力と考えられるのです。




「黒水晶が……! 予想できるなら、逃げるべきです」

「教会の下位の者は、すでに離れたそうです。だけど、ミネラ教会は巨岩が御神体なので、動かせません。上層部の十人ほどは避難を拒否し、殉教する覚悟で留まっているということです」

「そんな……。それならば、近くに蘇生が可能な治癒師を配置すれば……」

「それはやってみたそうです。ですが黒水晶の軍団は、まず近くにいる治癒師を殺して、それから襲撃したようです。王城から情報が漏れているようなんです。三度ほどそのようなことがあったらしく、もう諦めてるそうです」

「なんてこと……」

「ウィリアさん、すべてお話ししました。わかってください。必要なことなんです。行かなきゃなりません」

「……」

「そんなに暗い顔をしないでください。残った教会の人たちはいずれも、強力な聖魔法の使い手だそうです。黒水晶に魔法が効かない原因が速度だけなら、倒せます。わが家と王国の悲願が成し遂げられるのです」

「……」

「もう、あまり時間がありません。進みましょう」

 リョウ少年は立ち上がった。

 ウィリアも彼に並んで、道を進んだ。

 しばらく無言の時間が続いた。

 ウィリアが口を開いた。

「もし……。倒せなければ……。どうなるのですか……」

「はは。その場合でも大丈夫です。教会のあちこちに監視点を準備してて、その映像が王城に転送されます。もし魔法が効かないなら、なぜ効かないかを解明する資料になるんです」

「……」

 二人は次の村に着き、宿を取った。それぞれの部屋で眠った。

 翌日また歩き出した。

 ミネラ教会までは、一日あれば付く距離である。

 ウィリアは少年に言った。

「リョウ君」

「はい」

「行きます」

「どちらへ?」

「わたしも、行きます。あなたの行くところへ」

「え!? ミネラ教会へ? いや、ダメです。危険です」

「承知しております。あなたと一緒に、死のうと思います」



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