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ドラスの街(2)

 ウィリアは折れた剣をほこらに奉納した。

 そして、また武器屋に行き、剣を買った。一日に二回剣を買いに来た客を主人は怪訝な目で見ていた。今度は、並んでいる中でいちばん実用的で丈夫そうなのを選んだ。二千ギーンほどした。

 ウィリアの目は真剣なものになっていた。

 ジェンが声をかけた。

「倒しに行くの?」

 ウィリアは頷いた。洞窟に留められているドラゴンを倒しに行くと決意したのだ。

 まっすぐ前を見ながら言った。

「あの思念体は、通常の兵力では倒せません。わたしとジェンさんがいなければ、多数の犠牲者を出していたでしょう。わたしたちもいつまでもここにいるわけにはいきません。去る前に、本体を倒さなければなりません」

「わかった。じゃあ、明日だな。僕も準備をしておこう」

「すみません」

 危険な戦いである。ジェンを巻き込むのは申し訳なかったが、いないと勝てそうな気がしない。

「さっき少々魔力を使った。手を握って寝てくれる?」

「ええ、もちろん」

 もう夜になり、星が出ていた。




 洞窟は岩山の奥にあった。

 二人は入口に着いた。魔素の匂いがする。

「行きますよ」

「ああ」

 広い洞窟。

 鍾乳石の並ぶ通路を歩く。

 中はさらに広くなっていた。

 特に広くなっている場所。上の方が開いていて、光が入ってきていた。

 そこにドラゴンはいた。

 きわめて大きい。ちょっとした城ほどありそうだ。

 体のあちこちに傷が付いていた。百年前の戦士や勇者がつけた傷だろう。

 体に張りはなく、弱っているようだ。百年間動けないのでは当然だろう。

 しかし、目の輝きは強かった。

 ドラゴンは首を上げ、二人を睨んだ。

〈……昨日の人間か。何をしに来た?〉

「倒しに来ました」

〈人間ごときが……〉

 ドラゴンは炎を吐いた。

 二人は跳んでよける。

 さらに火を吐く。

 防御で遮った。

「やっ!!」

 胴体に近づいて、剣を振る。

 斬れない。

 ドラゴンの腕がウィリアを払おうとする。しかし、移動できないドラゴンである。よけるのは容易だった。

〈ええい。腹立たしい。剣の呪いさえなければ……〉

 ウィリアが魔法剣を発動させ、念を込める。

 近寄って胴体を斬ろうとした。

 するとドラゴンは、腹を中心に体を回転させ、尻尾でウィリアを打った。

「きゃっ!!」

 とっさに直撃はよけたが、巨大なドラゴンの尻尾である。体が跳ね飛ばされて全身の骨が折れた。

「ウィリア!」

 ジェンが治癒魔法をかける。

「はあ……。ありがとうございます。回転はできるのですね……」

 ドラゴンは苦しそうな顔をしていた。剣が腹に突き刺さっている状態で回転するのはドラゴンにとっても痛いようだ。

 また魔法剣に念を込める。

 遠くから放った。

 魔法剣の威力はドラゴンに傷をつけた。

〈ぐおお……!〉

「いける……!」

 また魔法剣を放とうとした。

 すると、なにか、見えない腕のようなものがウィリアを叩いた。

「!」

 再度、体が叩きつけられた。

 ジェンもまた、見えない何者かに体を打たれた。

「うっ!!」

 ドラゴンが鋭い瞳で見ている。

 ジェンがとっさに治癒魔法を使ったが、ダメージは大きい。

「念動力だ!」

「念動力!?」

「うかつだった。思念体を使えるほどの相手だ……」

 ドラゴンは二人を鋭い瞳で見つめていた。

 見えない腕が、また二人を襲う。

 ジェンが防壁魔法を発した。なんとか直撃を受け止められた。

「兵士や勇者が敗れたのも、これがあったからか……」

 ドラゴンはまた火を吐いた。

 ウィリアとジェンの防壁で防ぐ。炎の直撃は防ぐことができたが周囲は熱に包まれる。長く耐えることはできないだろう。

「あ……」

 ウィリアの持っている剣が、微妙に振動してきた。

 もう何回も魔法剣を使えそうにない。

「ジェンさん、あまり持ちません。風をおねがいします!」

 ジェンは頷いた。

 ウィリアが魔法剣を発動する。

 ジェンが風魔法をまとわせる。

 魔法剣をさらに増幅する。可能な限界を見極めて、できるかぎり大きくする。

「やーっ!!」

 炎と風の魔法剣を放った。

 それはドラゴンの体を貫いた。

〈う……〉

「!?」

 ドラゴンは少しの間、動かなかった。

「効かなかった……!?」

 ウィリアは焦ったが、そうではなかった。やがてドラゴンは語り出した。

〈くちおしや……。まさか、人間界の者に敗れるとは……〉

 必死で意識を保っているような、弱った声だった。

「人間界? ということは、あなたは、魔界から来たのですか?」

〈その通りだ。わしは、高貴なる魔界から来た……。覚えておけ……。魔界にはわしよりはるかに強い者がいるぞ……〉

 ドラゴンの体が崩壊してきた。ウィリアの剣筋から、体が二つに裂けた。それは紫色の液体に分解して、泡を吹き出しながら溶けていった。

 そのとき、ウィリアの剣が震えて、折れた。

「ああ……」

 折れた剣に頭を下げた。

 ジェンが声をかけてきた。

「ウィリア、やったな」

「……ハイ……」

 力ない声で言った。

 巨大な体が消えていく。胴体が溶解した。

 すると、中から光のようなものが見えた。

「あれは……?」

 光は人間の姿になった。二人現れた。鍛冶屋風の男と、鎧を着た若者。

 二人の人の姿は、ウィリアとジェンに微笑みながら、空に向かって消えていった。

「あれは……名人と勇者の魂」

「ドラゴンを留め置いてくれたんだ……」

 ウィリアもジェンも、天に昇る魂に黙祷を捧げた。

 ドラゴンの体がすっかり無くなった。洞窟の地面が現れた。

「あれ?」

 何か突き刺さっている。

 近寄ってみた。剣だった。

「これは……? ドラゴンをとめ置いた剣……?」

 ドラゴンの腹の中から地面に突き刺し、動きを封じた剣らしい。腹の中にあったにも関わらず、新品のように光っていた。

「絶対に抜けないように、呪いをかけた剣……」

 しかし、ウィリアは気になって、柄を握ってみた。

「あっ……」

 抜けた。

 地中にあった部分も輝きを放っていた。赤い色の輝きだ。

 ジェンが感心したように言った。

「これは、オリハルコンも使われている。すごいな」

「オリハルコン……。非常に硬く、炎に強い伝説の金属……」

「めったにないやつだ。炎を吐くドラゴンの体に百年刺さってたくらいだから、炎魔法剣だっていくらでも耐えられるだろう」

「……」

 ウィリアは手に持った剣をじっくり見た。

 適度な長さ、太さ、重さ。それはウィリアの手にしっくり合った。

「この子とは仲良くなれそうに思います。でも……」

「でも?」

「……これ、もらっていいですかね?」

「そりゃいいだろう。君が倒したのだから」

「だけど、法律的にはどうなのでしょう?」

「法律……? うむ……。遺失物になるのかな……。所有者は勇者ディーンだけど、もう死んでるし、一人息子で兄弟もいないから大丈夫。……まてよ。勝手に持って行ったというから、所有権は名人の方か? すると名人の兄弟がいれば相続権が発生するかも。いや、兄弟の相続権は領国ごとに違ってたな。ここはどうなんだっけ……」

 ウィリアもジェンも律儀な性格である。洞窟の中で悩んだ。

 頭上から、光が差してきた。

 先ほど昇天した名人と勇者が、また降りてきた。

 ウィリアに向けて優しい顔を見せ、どうぞどうぞという手振りをした。

「もらって、いいのですか?」

 二人は肯いて、また昇天していった。

 ウィリアは上空に叫んだ。

「ありがとうございます!」



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