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ニコモの街(3)★

 地下十三階。外では夜になる時刻。二人は安全な区域で睡眠を取った。

 横になれるようなスペースはなく、床は泥で汚れている。二人は壁に背中を預け、座って眠った。手をつなぎながら。

 眠ったとは言え、ダンジョンの中である。落ち着かない。あまり熟睡できないうちに二人とも目を覚ましてしまった。

「おはようございます。魔力はどうですか?」

「うん……。あまり回復がよくない。熟睡できなかったし……」

 再度、下を目指して進む。

 魔物が強くなってくる。キマイラなども出るようになっていた。

 今のウィリアならキマイラは敵ではない。どんどん倒して進む。

 ジェンも風魔法で魔物を倒す。魔力を消費する。

「すまない。また頼む……」

「はい……」

 キスをする。

 食料は三日分程度しか持ってきていない。二日目でなんとか最下層までの目処をつけなければならない。進む。しかし下層になるにつれて魔物は強くなる。

 ウィリアも多数の魔物を倒すが、剣が効きにくい魔物や群体にはジェンの風魔法が必要になる。

 数度のキスの後、回復量が少なくなってきた。

 十九階。最下層はもうすぐだ。

 悪魔系の魔物が二人の前に現れた。体は人間より二回りほど大きい。

 火炎弾を放ってくる。二人は体をかわした。

 爪で襲ってくる。ウィリアは剣で爪を防いだ。

 ジェンが風魔法を飛ばす。風の刃は悪魔の体を切り裂いた。

「ウィリア!」

「はい!」

 ジェンがウィリアの剣に魔法を飛ばす。ウィリアはそれに力を込めて、魔法剣を放った。鋭い突風の威力が悪魔を貫き、それは倒された。

 最下層に向かう階段を見つけた。

「ジェンさん、魔力はどうですか?」

「正直、少ない」

「最下層には強い魔物がいるでしょうね……」

「たぶん……」

 ジェンはウィリアの目を見た。

「……すまない。頼む」

 ウィリアは頷いた。




 最下層に降りた。

 両開きの扉がある。

 開いて、部屋の中に入った。

 財宝が散らばっていた。硬貨、宝石、装備品など。

 二人とも息を呑んだが、目的は財宝ではない。聖水である。

 財宝の中を歩いた。

 よく見ると、財宝は財宝であるが、それほど高価なものではない。硬貨も、金貨はわずかで、銀貨や銅貨が大半だ。

「貴重なものは無いようですね」

「すでに誰か持ち帰ってるんだろうね。死んだ冒険者の財産は使い魔によってここに集められるんだろうが……。まあ、ここで十分な財宝が得られれば、聖水を持ち帰って売ろうという話にはならないだろう」

「でも、全部かき集めれば一生遊んで暮らせそうですね。冒険者の気持ちがわかるような気がします」

 しかし今回の目的は財宝ではなく聖水である。重量になるものを持ち帰るわけにはいかない。

 部屋の中を進んだ。

 何かの気配がする。

「!」

 犬である。

 象よりも大きな黒い犬。頭は二つあった。

 双頭の黒い魔犬が、財宝を見張っていた。

「これが最後の敵ですね!」

「ケルベロスの出来そこないか!」

 魔犬は炎を吐いた。

 二人は防御する。

 ウィリアが炎の魔法剣を放った。魔犬の胴体に当たる。

 しかし体は硬く、深い傷は付かなかった。

「……」

 ジェンが風魔法を放つ。

 しかしそれも表面を傷つけたに留まった。

 魔犬が興奮して暴れる。二人は巧みに逃れる。

 ウィリアはもう一度剣に力を入れて、魔法剣の用意をした。

「ジェンさん、風魔法もおねがいします!」

「重ねがけか! わかった!」

 ウィリアが炎の魔法剣の力を溜めている剣に、ジェンが風魔法をその上からまとわせる。

 炎と風の力が混じり合って、剣の周囲でうずまいた。

「やーっ!!」

 渾身の力を込めて振り下ろす。

 灼熱の風が魔犬を切り裂いた。

 魔犬を倒した。

 進む。

 奥の方に、石で縁取られた泉があった。清らかな水をたたえている。近づくだけで体が洗われるような清々しさがあった。聖水の泉である。

 用意してきた保存瓶にできるだけ汲む。瓶を二人の体にくくりつけた。

「行きましょう!」

 一刻も早く戻った方がいい。

 階段を上って、地上を目指す。魔物もそれなりに出てくるが、地図があるので降りるときよりもかなり速い。

 途中二回ほどキスをして魔力を補充した。

 地上への階段を上る。

 祠を出た。

 地上は明るかったが昼ではない。東の地平線に太陽が出ている。明け方のようだ。

「二日かかったか」

「街に戻れば、病院が開く時間に間に合います。行きましょう」




 病院の医師が出迎えてくれた。

「おお! 聖水を持ってきてくれたのですね! ありがとうございます! これさえあれば!」

 医師たちが手分けして、毒で苦しんでいる患者たちに聖水をくばった。

 ウィリアとジェンは医局で待っていた。処置を終えた医師が戻ってきた。

「魔法水二十四本、お礼をお支払いしますが、すみませんが用意に時間がかかります。明日まで待ってもらえませんか?」

「ええ、いいですよ。この街には少し逗留するつもりです。ところで、マリガッチヨ先生のお孫さんもよくなりましたか?」

「完全に毒は抜けていませんが魔素は分解できました。数日あれば良くなります」




 二人はとりあえず宿に戻った。

 疲れているし、前日は徹夜したことになる。眠ることにした。

「ジェンさん、魔力を使っていますよね」

「うん。一緒に寝てくれる?」

「あ……」

 ウィリアはなぜか、急に顔を赤くした。

「すみません、ジェンさん。いまは疲れているので、別々に寝させてください。明日は一緒に寝ますから」

「あ、そう。わかった」

 なにかを思い出したのだろう。ウィリアは耳を赤くしながら、自分の部屋に戻った。

「……」

 後ろ姿を見ていたジェンは、部屋のトイレに入った。ややしばらくしてから出てきてた。賢者のような目をしていた。



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