表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
114/177

フィクル山のほこら

 ウィリアとジェンは翌朝、あらためてシンディさんに挨拶をして、ホートの街を後にした。

 山へ向かう道を行く。寒い季節になっていた。

 坂道を登っている途中、白いものが落ちてきた。

「あ、雪……」

「急ごう。積もると面倒だ」




 向かうのは、フィクル山の祠である。魔法剣の達人ランバ氏に、祠で力を与えられたと聞いた。その鍵になるメダルも入手した。

 力を得れば、魔法剣の力をもっと自由に操れるようになる。黒水晶との決戦に役に立つはずだ。

 山に登ると、雪が強くなった。

 すでに何回か降っていたようで、あちこちに雪が残っていた。本格的に積もれば踏破も困難になるだろう。急がなくてはならない。

 進行方向を横切る谷があった。すでに雪が積もって雪渓となっている。

 ウィリアは周囲を見渡した。

「……なにか、感じませんか?」

「……ああ」

 二人とも魔素を感じていた。魔物がいる。

 谷を抜けたところに魔物がいるのだろうか? 気をつけながら、渡り終わろうとした。

 そのとき、雪渓の下から何者かが現れた。大きな体が雪で覆われている。二人に向かってきた。魔物だ。

 ジェンが風魔法を放った。

 それは魔物の体に付着した雪を飛ばしたが、ほとんどダメージを与えられなかった。

「これは、アイスゴーレム!」

 雪と氷の塊が生命を持った魔物だ。

「風魔法はあまり効かない!」

「わたしにまかせてください!」

 ウィリアは懐から魔法札を取り出した。

 炎魔法を使う。

 炎を剣にまとわせて、増幅する。

「やっ!!」

 魔法剣を放った。そのエネルギーはまっすぐアイスゴーレムに向かった。

 ところが、意外な動きをした。アイスゴーレムは雪と氷の塊。体が上下に分離して、上半分が飛び上がった。炎魔法剣の力はその間を通って外れた。

「え!?」

 二人に近づいてくる。

「いけない! 逃げよう!」

 二人は走った。

 さいわい、アイスゴーレムはそれほど速くはない。しばらく離れると、その足が止まった。

「……」

 諦めたように雪渓の中に戻っていった。

「雪がない場所には出たがらないようですね」

「助かった。だが、雪に覆われれば逃げるのは難しくなる。積もらないうちに急ごう」




 祠は洞穴の中にあった。

 寒々しい洞穴の奥、簡単な祭壇が設けられていた。夏の間は地元の人もお参りに来るのだろう。供物の残骸がいくつかあった。

 祭壇の背後にはさらに洞窟が続いていて、縄で結界が張られていた。くぐって入る。

 奥に向かう。

 無機質な声が聞こえてきた。

〈何者ダ……〉

 頭に語りかけるような声だ。

〈用ガナケレバ、スグ立チ去レ。望ミガアレバ、供物ヲ捧ゲヨ……〉

「供物……」

 ここでメダルを渡すのだろう。

 ジェンはメダルを取りだし、ウィリアに渡した。

 ウィリアは手の中のメダルを見つめた。

「頂いていいのですか?」

「もちろんだ。そのために取ってきたのだから」

「でも、思い出の品なんでしょう?」

「……」

 ジェンもメダルを見つめた。

 子供の頃、馬の世話をして手に入れたメダル。

「ちょっと待って」

 ジェンはメダルを取り返し、持っていた紙と鉛筆を使って拓本を取った。ランバ氏からもらったような拓本ができた。

「……はい。もういい。使ってくれ」

「すみません」

 ウィリアはメダルを手のひらに乗せて、見えない相手に差し出した。

 メダルは宙に浮き、光って、見えなくなった。

〈照合……。確認……〉

 すると、周囲に光のようなものが満ちた。

 暗い洞窟の中だったはずが、岩肌も地面も見えなくなった。

 ウィリアとジェンは、浮遊するような感覚を受けた。

「!」

 周囲は光っている。まぶしくてよくわからないが様々なものがあった。赤・青・黄、様々な色に光るランプや、超古代語らしき文字を表示する盤面や、たくさんの時計のような装置。

 メアム遺跡の魔法機械を思い出した。

 周囲の光るものは、人間的ではない言葉を発した。

〈潜在能力、確認〉

〈エネルギー充填完了〉

〈神経系解析完了〉

 奇妙で複雑な槍のようなものが、二人に向けられた。一瞬緊張したが、もはや身を任せるしかない。

〈潜在能力、解放〉

 槍の先から、電撃のようなものが二人に向かって放たれた。

 それはウィリアに流れ込んで、体の奥に達した。

「……!!」

 光は収まった。

〈作業、完了……。ナオ、ミダリニコノ経験ヲ、語ルベカラズ……〉

 ふと見ると、さっきと同じ暗い洞窟の中にいた。

 声も収まった。もう何も聞こえないようだ。

「ウィリア、どうだ?」

「……力を感じました。何かが変わったような……」

「そうか。僕も力を感じた。なにかが流れ込んできたようだ」

「ジェンさんも?」

「周囲にも効くのかもしれない。金を取って、何人か一緒に来ればよかったなあ」

「もうしかたありません。出ましょう」

「魔法剣は使えるようになったのだろうか?」

「すぐ試せると思います」

 祠からの道を引き返す。

 先ほどの雪渓に付いた。雪の中、歩き出す。

 また雪の下から巨体が現れた。アイスゴーレムだ。

「……!」

 ウィリアは剣を抜いた。

「魔法……」

 イメージの中で、炎の力を思い浮かべる。

 剣を持っている手が熱くなる。

 炎の魔法が顕現して、剣にまとった。

「やっ!!」

 炎の魔法剣をアイスゴーレムに飛ばした。

 しかし、アイスゴーレムはまた、体を分離させてそれをかわした。

「……」

 向かってくる。

 ウィリアはもう一度魔法剣を使った。

 炎が剣にまとわりつく。それが増幅される。

「やーっ!!」

 振った。

 アイスゴーレムはやはり、体を分離させてやりすごした。

「はっ!」

 ウィリアは魔法剣のエネルギーに念を送った。その力は進行方向を変え、上空に向かった。

 さらに上空から急降下して、アイスゴーレムの脳天に直撃した。炎の力が命中し、体を砕いた。

 残骸は氷のかけらになっている。もう動きはしないようだ。

「やったな!」

「はい……」

 ウィリアはジェンの喜ぶ顔を見て、ほっとした表情を見せた。

 しかしその表情は、すぐに厳しいものになった。

「ですが……これだけでは、黒水晶に勝てません」

「え」

「奴の動きは、人間のものではありません。この技があったとしても、大きなダメージを与えることはできないでしょう。もっと……もっと力が必要です。なにか、前提を覆すような……」

「僕は出会っていないけれど、そうか……。黒水晶の力はそれほどのものなのか」

「森の魔女さまに教えていただいた人物は、あと二人。一刻も早く、会いに行きましょう」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ