表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
101/177

ノルカ村(2)

 翌朝、ランバ氏の家でウィリアはさわかやな目覚めを迎えた。起きて軽い体操をした。

 妊婦のバネアさんは食事を作っていた。

「おはようございます」

「おはよう。よく眠れたかい?」

「ええ。とても」

 小さな息子のミオ君がやってきて、バネアにまとわりついた。

「ママ、おはよー」

「ああ、おはよう。顔洗ってきな」

「うん!」

 井戸まで走って行った。

 元気な子供を見て、ウィリアの目が細くなった。

「いい子ですね」

「あの子ももうすぐお兄ちゃんになるからね。しっかりしてくれないと……」

 そこまで言って、バネアさんは臨月の腹を押さえた。

「うっ……」

 ウィリアが近寄った。

「だ、大丈夫ですか?」

「だ……だいじょうぶだ……」

 しかし、苦しそうだ。

「産婆さんを呼びますか?」

「まだいい」

「でも……」

「こうなってからが長いんだ。まだ早い」




 朝食後、家の近くで、ランバ氏に魔法剣の練習を見てもらうことになった。バネアさんの様子は心配だったが、本人がまだ大丈夫だと言っているので、家に残している。

 ウィリアは剣を構えた。

 ジェンが魔法を付加する。

 ウィリアは魔法剣を放った。的にした岩に命中した。

 威力は十分だが、ウィリアは不満げな顔をした。

「……だめです。操れそうな気がしません」

 ランバ氏は魔法剣をある程度操ることができる。その技が使えればかなりの武器になる。しかし、ウィリアにはその能力はないようだ。

 ランバ氏が言った。

「ジェン君、君の方では操れないか?」

「やってみます」

 もう一度魔法剣を放つ。ウィリアが構える。ジェンが風魔法を出す。ウィリアはそれに念を加えて、魔法剣として放つ。

 ジェンは魔法剣の動きを制御しようとしてみた。できなかった。

「だめです。放った直後の魔法は操ることができますが、ウィリアの念が入った後では自分の魔法ではなくなるので、コントロールが効きません」

「ふーむ……」

 ランバは残念そうな、申し訳なさそうな顔をした。ウィリアも残念だった。せっかく教えを受けに来たのに、これでは収穫がない。

「まあ、操るのはひとまず置いて、威力の方を練習してみようか。ジェン君、魔法を弱くかけてみてくれ」

 ジェンはウィリアの剣に弱く風魔法をかけた。

「ウィリアさん、それをできるだけ強くするように……」

「わかりました」

 ウィリアは剣に念を込めた。魔法が強力になる。

「できるだけ我慢して……」

 ウィリアは魔法剣を放つのを我慢して、剣にかかっている魔法を強力にしようと努めた。

 魔法が暴れる。負担が強くなる。これ以上持つと、魔法が四散しそうで危険だ。「やっ!」

 魔法剣を放った。

 的にしている岩に当たり、割った。

「なかなかだ。しかし、さらに強くできる。見てなさい」

 ランバは剣を構えた。

 剣に魔法をまとわせる。

 半眼になって、集中した。

 剣にかかっている魔法がどんどん強力になる。

 剣を振った。

 それは岩に当たった。今度は割るだけではなく、激しい衝撃が起こって、爆発したように粉々になった。

「……すごい……」

 ランバ氏は剣を納めた。

「まあ、もうちょっと強くできるが、人家の近くで危険だからな。このぐらいにしておく」

「どうすれば、そんなに強く?」

「念を入れるときに、精神と肉体を平静に保つ。特に呼吸法が大事だ。練習してみよう」

 ウィリアと、ついでにジェンはランバ氏に呼吸法を教わった。

 その後も三人で魔法剣の練習を続けた。

 昼食の休憩を挟んで午後も練習した。夕方になる。ウィリアは岩に向かって魔法剣を放った。

「やーっ!」

 魔法剣の威力は強く、岩をいくつもの破片にした。

 ランバ氏もそれを見て感心した。

「さすが筋がいい。かなり強力になった」

「ありがとうございます。ランバ様のおかげです」

「今日はもう遅い。終わりにしよう」

 三人は家に戻る。

「ただいま」

「おかえり」

 バネアさんが元気よく声をかけてきた。

「バネア、具合はどうだ?」

「まだなんとか……。うっ……!」

 腹を押さえた。陣痛の間隔は短くなってきているようだ。

「大丈夫か? やっぱり、産婆さんを呼ぶか?」

「まだいいって。たぶん、明日あたりになる……。それからでいい」

「無理するなよ……」

 ランバ氏は心配そうな顔をした。いくら強い剣士でも、こういうことに関してはただの父親だった。




 夕食後、ランバ氏と息子のミオ君、そしてジェンは共同浴場に行った。

 家にはバネアとウィリアが残された。

「男たち帰ったら、あんた行ってきな」

「はい。バネアさんは?」

「あたしは、今日はやめとく」

 破水が近いかもしれない。

 ときどき苦しそうな顔をする。不定期に陣痛があるらしい。

 三人が風呂から帰ってきた。

「ママ、ただいまー」

「ああ、おかえり」

 ミオ君がバネアに抱きついた。

「では、いってきます」

 ウィリアが共同浴場に行くために立ち上がった。

 そのとき、外で音がした。

 妙な音だった。不吉な風のようだった。

「……?」

 ウィリア、ジェン、ランバは神経を研ぎ澄まし、様子をうかがった。戦う者の勘が危険を告げていた。

 バネアとミオ君も、ただならぬ様子を察して体を硬くした。

 扉をたたく音がした。

 ランバが開く。村の男がいた。

「あ、ランバさん、大変だ!」

「なにがあった?」

「ドラゴンだ! 襲ってきた! 前に来たやつだ! オルバンさんと戦った……!」

 それを聞いて、バネアが目を大きく開いた。

「なんだって! 父ちゃんを死なせた、あの……」

 椅子から立ち上がって玄関の方に歩き出した。

 しかし、二三歩歩いた所で、うずくまった。

「うっ……!!」

 床に手をついて、苦しそうにしている。

「バネア!」

「こ……こんな時に……」

 ランバがバネアにかけよる。バネアはそれを振り払った。

「あんた! ドラゴンのところに行ってきな!」

「し、しかし……」

「戦士なんだろう! 戦いな! 父ちゃんのかたきをとってくれ!」

「う、うむ……」

 ランバは村の男に言った。

「こんな時にすまんが、産婆さんを呼んできてくれ」

「あ、ああ、わかった。バネアちゃん、ちょっと待ってな」

 立ち上がれず、苦しそうにしている。破水が始まったようだ。

 ミオ君はバネアに抱きついた。

「ママ! ママ!」

「だいじょうぶ……。だいじょうぶだから……」

 ランバは急いで鎧を着込んだ。ウィリアとジェンも戦う用意をした。

「バネア、行ってくるぞ!」

「あんた……」

「ん?」

「勝って帰ってくるんだよ!」

「ああ!」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ