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黒魔女とエセ紳士  作者: 鶴機 亀輔
第1章
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突然の来訪者2

「うん、食べてなーい」


「奇遇ね、あたしもよ。何、食べる? 好きなものリクエストして。あたしが作れるものなら、なんでも作るわよ」と言えば、壱架が飛び起きり。小さな子どもみたいに目をキラキラさせて、満面の笑みを浮かべる。


「じゃあ、じゃあフレンチトーストがいい! 作って!」


「あら、そんな簡単なものでいいの?」


 壱架はヘドバンでもするみたいに高速で首を上下に振った。


「うん。だって、絹香の作ってくれる料理、美味しいし、あたしの大好物だから! ねえねえ、お昼はパンケーキとベーコンエッグにしてよ!」


 さっきまで落ち込んでいたのが嘘みたいに、あたしの手料理でテンションが上がる彼女のかわいさに、自然と笑みがほころんでしまう。


「オッケー、わかったわ。ただしシーザーサラダとにんじんのポタージュも食べること。いいわね?」


「うん、めちゃくちゃうれしい……絹香、ありがとう!」


 そうして壱架が飛びついてきた。


 オメガ特有の甘くていい香りが、ふわっとする。それも――好きな子の匂いで、あたしの心臓がドキッと音を立てる。


「ちょっと危ないでしょ⁉ キッチンにいるときは抱きつかないでよ!」


「だって……」


 あっと声を出して壱架は、玄関のほうにある靴箱の上に目線をやった。


 なんだろうと思っていれば、首に回されていた細く(きゃ)(しゃ)な腕が離れる。そうして彼女は靴箱の前に立った。靴箱の上に並べてある写真立てのうちのひとつを手に取る。


「――これ、まだ置いてるんだね」


「べつにいいでしょ?」


「よくないよ! ……だって、こいつら、絹香をひどい目に遭わせた人たちじゃん! 私、こんなの見たくないって言ったよ? なんで、そんなやつらの写真をいつまでも片付けないで、大切そうに飾っとくの!?」


 眉を八の字にさせ、情けない顔をして壱架は顔を(うつむ)かせた。


 壱架の手の中にある写真には中三のあたしが映っている。四月に京都へ修学旅行に行き、グループ行動をしていたとき、観光旅行をしていたご夫婦に撮ってもらった。


 幼稚園の頃からの親友である(よう)()とクラス委員長の(ひかる)。当時、洋子に片思いをしてた(まもる)くん。そして――お姫様みたいな容姿をしているのに王子様みたいなオメガであるひなちゃんと、その()()である――さあちゃんだ。


 あたしは彼女の手から写真立てを取り、靴箱の上に伏せた状態で置いた。


 我を忘れて激情に身を任せようとしている壱架の両肩に手を置く。


「馬鹿ねえ。十年も昔の写真に怒って、どうするの? ()()も十年前に遭った事故よ。気にしてないでって何回も言ってるでしょ」


「だったら、なんで十年も昔の写真なんかを、今も飾っておくの!? 絹香、おかしいよ……どうかしてる!」


「そうね。あたし、どうかしてるわ」と彼女の肯定をする。


 それで彼女の怒りが収まるわけもなく、「なんで私の言葉を肯定するの!」とますます激昂する。


 あたしの手を乱暴に振りほどくと今にも泣きそうな顔をして詰め寄ってくる。


「だって絹香が被害者なんだよ!?」


「被害者って……何言ってるのよ。あたし、アルファよ。オメガのほうが被害者になることはあっても、アルファが被害者だなんて……」


「だから、それ事態が変なんだよ! 私たちオメガがアルファに襲われることは圧倒的に多い。だけど、絹香のは違うじゃん! 自分の発情期(ヒート)の周期も理解していなければ、抑制剤も常備携帯してない。そんなオメガはいないよ? そうやって自分がオメガである意識がないやつが悪いんじゃん! 魂の(つがい)であるアルファと付き合っていたのに、さっさと番わないで友だちである絹香を誘惑したんだよ?」


「あれは仕方のないことだったのよ。ひなちゃんは病気持ちのオメガで、発情期も安定してなかった。抑制剤も普通のものが体質的に合わなくて、よけいに発情期の症状を悪化させるだけ。自分に合った薬が、どれかまだわかっていなかったから使えなかったって何度も言ってるでしょ。あの場所に居合わせたあたしが悪かったのよ」


「だから、なんで絹香はそうなの!? そうやって、自分のことばっかり責めて……! あたしの意見なんか、ぜんぜん聞いてくれない!」


「ごめん……あんたが片付けてって言った写真を、置いたままにしてたあたしが悪かった。だから、もうやめましょうよ。ねっ? これじゃ、いつまでも朝ご飯が作れないわ」


 だけど壱架はあたしの言葉なんて耳に入っていないみたいで、黒髪を乱して大声でさけび続ける。


「大体、自分のオメガが奪われると勘違いした()()()が、いけないんじゃん! 絹香のことをボコボコにして、言うことを聞かない恋人(オメガ)をレイプして……! それなのに『やってない』なんて嘘つくなんて、頭イカれてる。そんなの許せるわけがないよ!」


「壱架、お願い。ねっ、落ち着いて」


「落ち着けないよ! 絹香は私のことなんか好きじゃない……かわいそうなオメガだから同情してるだけなんでしょ!? だから『さあちゃん』のことが忘れられなくて、あの写真を飾ってる。違う!?」


 細く、薄い肩を上下させながら、壱架は写真立てのあるほうを指差した。ポロポロと涙を両目からこぼしたかと思うと、その場でしゃがみ込み、()(えつ)を漏らし始めた。

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