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一般人には刺激が強すぎる旅

 近衛兵達の仕事は手早く、あれよあれよと言う間に「王子がプレゼントしたものですから」と雫のネックレスを着けられ、「乗り心地とスピードはこのソリが随一です」とソリに案内された。

 今は海に浮いているけど、これで海を潜っていくと思うとガクガクと足が震える。

 そりを掴む手も震えてしまっている。

 不安な様子の私に、セオドアは優しく微笑んだ。


「アカネ以外にも、何十人もこれでレムリア国に来ているから安心して。隣にいるし、もし何かあったら、すぐに僕が君を助けるから」


 普通なら、こんな男前な発言をするセオドアにうっとりしているだろう。

 しかし、遊園地の絶叫系の乗り物でさえ怖がる私にとっては、セオドアに無言で頷くことしかできないぐらい余裕が無かった。


「気を付けて行くんだよ。無事に帰ってきな」


 ハンナさんやパブのお客さん達は浜辺に並んで見送ってくれていて、その中でもハンナさんは声を張り上げてくれていた。

 私もそれに応えるように手を振った。


「では、出発!」


 アンセルさんが近衛兵に号令を出すと、徐々にスピードを上げながら次々とソリが海を走る。

 そして、私が乗ったソリもスピードが出た頃に海へと潜っていった。

 息ができなかったらセオドアに言ってすぐに帰してもらおうと思い、ゆっくり息を吸った。

 水中なのに、全然苦しくない。

 驚くことはそれだけではなかった。

 足元を見ると、なんと人魚の尾ヒレになっているではないか!

 驚いている私を見て、セオドアは安心したようだった。


「上手く変身できていたようで良かった」


 その言葉で私は我に返って、ようやく、水中に入ってからセオドアの顔を見れた。

 幼かった頃は顔や腕に鱗が所々あったのに、今は上半身には鱗が無くなっていて、下半身が魚の尾ヒレになっているだけだ。

 他のソリを見渡してみても、近衛兵達も同様に人魚に戻っている。


「ねえセオドア。陸に上がると、人魚って変身して人間の足ができるの?」


「そうだよ。僕はすぐに変身できるけど、個人差があって、尾ヒレを乾かさないとなかなか足ができない者もいる」


「へぇ、そうなんだね」


 私が興味津々になってセオドアの話を聞いていると、セオドアは少し頬を染めていた。


「アカネ。少しでも、人魚のことや僕のことを知ってくれると、僕はうれしいんだ」


 私はすぐに頷いた。

 そして、気付いたことがある。

 まだセオドアと近衛兵達しか見てないけど、人魚族は総じて綺麗な顔立ちをしている。

 でも、セオドアはその中でも抜きん出ている。

 甘いマスクだけどたくましい体をしているから、おとぎ話の王子のようでもあるけど、神話の英雄のように魔物にも立ち向かっていきそうな雄々しさがある。

 私がセオドアに見惚れてしまっていると、アンセルさんが私達のそりに近づき、からかってきた。


「恋人として、王子はこれ以上ないほど優良物件だと思いますよ。どうです?お嬢さん」


「アンセル、これ以上余計なことを言うな」


 アンセルさんの言葉に困っているセオドアを見て、私は微笑んだ。

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