いつの間にか変身できるようになっていました。
私が悩んでいると、ハンナさんは興奮気味で私に話しかけた。
「アカネ、行ってきなさいよ!!人魚の国のレムリアは美しい景観で有名で、大富豪や権力者じゃないとなかなか行けない所なのよ」
滞在しているマリーナミューズも綺麗な街だけど、 人魚の国なんてまさにおとぎ話のようだ。
人魚姫の絵本やアニメは子どもの時大好きだったし、本当はすごく行きたい。
でも、安全と言えるかは懸念が残る。
「セオドアは人魚だから海でも自由に泳げるけど、私は水中だと動きづらいんじゃ…」
実際に泳ぐとなると、異世界にくるまえに学校でクロールを習ったぐらいで極めて凡人並だ。
しかし、セオドアは私からそういった質問があることを想定していたようだった。
「それなら問題ない。両手を出して」
恐る恐る両手を出すと、セオドアも両手を出し、対面でお互いの手をぴたりとくっつけた。
突然の至近距離になったため、私は赤面しそうなのを必死にこらえた。
「レムリアの王子、セオドアが認める。この者に海の祝福あれ」
セオドアの手が光り、その光が私の手に移っていく。
何が起きたかわからなかった。
様子を見守っていたアンセルさんが、セオドアの行為に驚いていた。
「これは国賓級の対応ですな。これでアカネ様も人魚に変身できる」
「えっ!?セオドア、何したの!?」
ふと足元を見ると、一瞬、足が人魚のヒレになったのが見えた。
見間違えだと思い、目をこすってからもう一度見ると、人間の足のままで、変化は無かった。
「王子である僕が、アカネと友好の証を結んだことで、アカネは海に入ったら自由に人魚に変身できるようになったんだ。手を動かすような、手軽な感覚でね。水中でも苦しくないよ」
「それって、私の身体は大丈夫なの?もう人間じゃないってこと…?」
「アカネの体質を変えているわけじゃないから安心して。いつもは時間制限も付与しているんだけど、アカネは特別だから、ずっと使えるよ」
それを聞いて私は心底安心した。
ハンナさんは「これでアカネも人魚姫だねぇ」とうっとりしていたが、聞かなかったことにしよう。
あれっ、これって自分で自然と人魚の国に行くような流れにしちゃった…?
人魚の国って憧れだけど、海の世界ってどんな感じなのかまだ不安だし、少し時間をもらった方がいいかもしれないと思って、セオドアに話しかけようとしたけど遅かった。
「準備は整いましたよ、王子」
どこかこの状況を楽しんでいるアンセルさんが、セオドアに声をかけていた。
まさかと思い、急いで窓から周囲を確認すると、この建物の近くの海には、シャチが運搬する豪華なそりが配置されていた。
机に出したままにしていた雫の形のネックレスは、私がいつでも着けられるように、近衛兵の方が、恭しく私に差し出している。
私が人魚に変身できるようになって困惑している間に、優秀なセオドアの近衛兵達は次々と仕事をしていたようだ。
「アカネ、君が来ることは父王のネレウスも歓迎している。さあ、エスコートさせてほしい」
セオドアはやはり人魚の王子で立ち居振る舞いも美しく、エスコートする様子も絵になる。
セオドアを見て、パブにいた女性陣から黄色い声が上がる。
自然と人魚の国、レムリアに行く流れになってしまっていた。
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