いくらなんでも成長が早すぎる
セオドアと別れてから既に1ヶ月経った。
いつもの日常が戻り、宿屋のパブは今日も大盛況だ。
赤ちゃんを連れたお客さんもいて、機嫌が悪いのかぐずってしまっていて、あやすのが大変そうだった。
赤ちゃんの機嫌を直してもらうため、お祭りの時に買った猫のマスクを取りに自室に戻った。
机の引き出しを開けると、猫のマスクの隣に並んだ雫のネックレスも目に入った。
セオドアから受け取った後、高価そうなネックレスだし、見える所に置いておくと危ない気がしたので、隠すように引き出しにしまっていたのだ。
ネックレスは日の光によって様々な色に変わり、ずっと眺めていられる。
「セオドア、元気かな…」
ハンナさんから聞いた話によると、人魚は長命な種族で、全てが謎に包まれていて神秘的な存在なのだとのこと。
また、人間とは全く交流が無いため、陸地に出ることは非常に珍しいのだとか。
私が物思いにふけっていると、バタバタと急いで階段を駆け上がっていく音が聞こえた。
「ちょっとアカネ!大変なのよ!すぐに降りてきてちょうだい!」
「どうかしたんですかハンナさん」
ハンナさんは深呼吸してから、私にこう話した。
「今、セオドアが…いや、人魚族の王子様が来ているんだよ…」
パブは、物々しい雰囲気になっていた。
見慣れない白銀の甲冑に包まれた兵士が数人いたが、どう見てもこの辺りで見かけない装束だ。
私が戻ると、パブにいたお客さんや兵士、すべての人が私を見つめてきた。
長身で彫刻のように引き締まった体、そしてどんな女性でもうっとりと見つめてしまうような甘いマスクの男性が、私を見るや否や笑顔になって、こう話しかけてきた。
「アカネ、迎えにきたよ」
私が驚いてハンナさんを見ると、あれがセオドアなんだと伝えるかのようにハンナさんは深く頷いた。
確かに付き人の人魚たちと違って、装飾が施された甲冑を身に着けているし、王子だということはわかる。
だけど、セオドアに会ったのは1ヶ月前だし、その時は幼い子どもだった。
いくらなんでも成長が早すぎる。
それに、あの頃は地上に出るための変身だって鱗が見えて、人間ではないことは明らかだったのに、今は肌がすべすべで、人魚だって言われないとわからないほどの変わりぶりだ。
そう、まるで人魚姫の人魚が、人間になったかのような姿だ。
でも、付き人たちも鱗が見えないため、もしかすると成人すると完璧に化けるのかもしれない。
あまりに驚きすぎて声が出ないでいると、セオドアは少し頬を赤くしながらこう言った。
「アカネ。僕は君に恋をした。僕たち人魚は、恋をしないと成人しないんだ。君のおかげで成人し、君を迎えられるように修行して、強くなった。ずっと君に会いたかったんだ」
凛としたセオドアの声が響き渡ると、パブにいた女性陣はうっとりとしており、男性陣は祝福の声を上げた。
雰囲気はすっかり祝福ムードになっていて水を差すようだけど、私はまだ混乱してまだ状況を理解できないんだけど!?
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。もしよろしければ、励みになりますので感想やブックマークをお願いします。