異世界のお化粧ってすごい
宿の裏口からセオドアを招き入れ、ハンナさんに事情を話すと、快く救急箱のセットを貸してくれた。
だれも泊まっていない部屋に案内した後、ひとまずセオドアの手足に付いた砂を濡れたタオルで拭き、傷口を絆創膏で貼る。
異世界の絆創膏を貼ると、数日で傷口をふさぐから治りが早い。
本当は傷を癒せる白魔法使いも街にいるけど、セオドアを見たら騒動になりそうだったので簡易的な処置しかできない。
「簡単な処置しかできなくてごめんね、セオドア」
「いいえ、ありがとうございます」
珍しいのか、セオドアはまじまじと自分の体に貼られた絆創膏を眺めていた。
ハンナさんが救急箱を片付けながらセオドアに尋ねた。
「ところで、家には帰れそうかい?このへんに住んでいる人間は他種族に優しい奴ばかりじゃないから、早めに帰った方がいいよ」
ハンナさんの心配も当然だ。
街の子どもたちでさえセオドアに良くない対応をとっていたのだから、悪意のある大人がいたとしたらさらに危険だ。
しかしセオドアは予想に反する事を言った。
「家には自分で帰れます。でも、この街を見学してから帰りたいんです」
私とハンナさんが驚いていると、セオドアは真っ直ぐな目をしながら訴えかけてきた。
「この街はとても美しい。僕が住んでいる街には無い建物や文化、音楽、食べ物が豊富だ。帰る前にどうしても見学したい」
「なるほど、今日やってるお祭りが目当てだってわけか」
部屋に貼ってあるお祭りのポスターをハンナさんが指差すと、セオドアは頷いた。
「これ以上、ご迷惑はおかけしません。少ししたら、帰ります」
「それなら、私が街を案内してあげるよ」
私の言葉に、今度はセオドアが驚いたようだ。
「そんな、悪いですよ」
「この街が大好きなの。悪い印象を持たれたままだと嫌だし、おいしい物とか教えてあげるよ」
私がそう話すと、予想していたのか、ハンナさんはファンデーション等が入った化粧品を出してきた。
「街に遊びに行くなら、セオドアにこのファンデーションを塗ってあげなきゃね」
「ハンナさん、これをつけて鱗を目立たなくするってこと?」
ハンナさんがウインクをし、ファンデーションをセオドアに塗り始めた。
すると、鱗が全く見えなくなったのだ。
元の世界の女性がこの光景を見たら、喉から手が出るほど欲しいに違いない!
「これはすごいですね!僕がもう少し成長していれば、この鱗も無くなるような変身ができていたんです。まさにこんな風に変身したいと思っていました」
「これは高いファンデーションを使っているからね。こんなことするのは特別だよ?」
うれしそうなセオドアを見て、ハンナさんは誇らしげだ。
私もハンナさんにならってセオドアにファンデーションを塗ってあげた。
セオドアにはフード付きの長袖を着させ、なるべく肌を出さないようにした。
ファンデーションを塗り終わった頃には人間にしか見えなくなった。
しかし、ここまでファンデーションで隠れるとなると、ハンナさんはしみやしわがあってもこれで隠しているのかな…と思ったが、そんなことは恐ろしくて聞けなかった。
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