人魚族の男の子
「そのネックレスを返せ!大切な物なんだ」
「嫌だね。お前のような魔物が人間の世界に来たらこうなるって思い知れ!」
羽交い絞めにされている男の子は必死にもがいているが、その手はいじめっ子の持つネックレスには届かない。
男の子は一見人間に見えたが、顔や腕には所々に魚の鱗が生えていた。
足があるけど、まさか人魚?
異世界にはいろんな種族がいるとハンナさんから聞いているから、人魚がいてもおかしくはない。
ネックレスは雫の形をしていて、光の角度によって七色に光って見えた。
人魚が持っているネックレス、と聞くだけでとても価値がある宝物に見えるのはわかるけど、勝手に物を横取りするのは良くない。
パブによく来る剣士の息子ならなおさらだ。
「こら、アンソニー!人から物を取り上げたらダメって、お父さんから教わらなかったの?」
「うわ、アカネかよ…」
アンソニーの父親やパブの常連客であり、アンソニー自身もよくパブに食事に来ていた。
私自身もアンソニーの父親とは面識もあり、今やっていることを父親に知られるとまずいということは、さすがにアンソニーも感じたようだ。
「でもさアカネ、こいつ魔物なのにこの街に来たんだ。悪さするかもしれないよ?」
「今だって、この子はあなた達に全く危害を加えてないじゃない。それに人の物を取り上げるだなんて、それこそ騎士道の精神に反しててかっこ悪いわ。あなたのお父さんだって、悪さをしていない魔物には手を出していないでしょ」
「わかった、わかったよ。今日はこの辺で見逃してやるよ!」
アンソニーは気まずそうな顔をした後、私にネックレスを押し付けた。
友達を連れて、逃げるように去っていった。
私は膝をつき、傷だらけの男の子と目線を合わせてから話しかけた。
「うちのお客さんがこんなことしちゃってごめんね。はい、ネックレスを返すね」
「助けてくださって、ありがとうございます。あの、僕の名前はセオドアと言います。あなたのお名前を教えてくれませんか?」
セオドアと名乗った少年は碧眼であり、整った顔立ちをしていた。
品があり、元の世界であればアイドルとしても活躍できそうだなと思ってしまう。
しかし、腕や足にすりむいたようなケガを負っている。
さっき絡まれた時にケガをしてしまったのかもしれない。
「私の名前は茜。ひとまず、私が住んでいる宿で治療しましょ」
セオドアは少し頬を赤らめると小さく頷き、私と共に宿へ向かった。
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