巫女ライラさんとの対立
セオドアが城下町に出ていた件は極秘だったはずだけど、色々な事件でバレてしまったため、早々に帰ってくることになった。
結局、ネレウス王からもらった贅沢過ぎる軍資金を使うこともなく、セオドアに返そうとしたら「また遊びに行く時に使えばいい」と断られてしまった。
イヤリングもセオドアがくれた物だし、この国に来てから一切お金を使ってないな。
そんなことを考えていると、正面から背筋まで赤毛を伸ばした美しい人魚と、取り巻く侍女たちが現れた。
「殿下、私は人間が訪れているなんて話は聞いていませんが」
「ライラか。先ほど来てもらったんだ。客人として丁重に扱ってほしい」
「私としては、お越しになる前にお話ししてほしかったですわ。城の外で殿下のことが噂になってから知ったのですから」
「話したら止める気だっただろう?」
すると侍女たちのひそひそ話で「まあ、本来后候補第一位である巫女のライラ様を差し置いて?」などと話しているのが聞こえてきた。
どうやらこの美しく巫女でもあるライラさんがセオドアの后として有望視されていたみたいだ。
気品があり凛とした佇まいをしていて、まさに上流階級にいそうな人魚だ。
私とは全然違う、そう思うと心の奥がちくっと痛んだ。
自分でもこの痛みがなぜなのかよくわからない。
そしてライラさんは、厳しい口調でセオドアを責めた。
「前から申しているではありませんか!来訪者の娘によって大いなる変化や危機が生じると占いで出たと。ましてやその方との結婚なんて、この国にどんな影響を及ぼすか…」
占いでそんなことが前から予知されていたのかという驚きと、ライラさんの言葉から私自身を強く否定していることを感じてショックだった。
私は人間で、セオドアのような人魚じゃないし、この国からどう思われているんだろうと思っていたけど、やはり良い印象を持つ人魚ばかりではないのだ。
私がうつむくと、セオドアは守るようにして私の前に立った。
「どんな危機が訪れても、僕はアカネを選ぶし、そのことに後悔しない」
「では、この方は何か特別な魔法が使えるの?そうでなければ、后にはふさわしくありませんわ」
「ライラ、それはお前が決めることではない」
セオドアに否定されて、ライラさんは悔しそうで、それ以上に悲しそうだった。
そうか、ライラさんはセオドアのことが好きなのか。
何とかして、自分に振り向かせたいんだ。
本当は私が身を引けばいいだけの話なのに、それができない自分がいる。
そう、私も少しずつセオドアに惹かれているからだ。
私が口を出すことではないのかもしれないけど、ライラさんに伝えておきたい、という一心で重い口を開いた。
「私は、魔法は使えません。もともと私なりにがんばってたけど、まだ上手くいかなくて。でも、付呪付きの道具を使ったり、少しでも役立てるようにしていきたいと思ってます。私とセオドア…いえ、殿下と会ってからまだ日は浅いです。私の短所や未熟な部分を、殿下はまだ知らないから、こんな温かな言葉をかけてくれるのかもしれません。私がまだ殿下のことを少ししかわかっていないように、殿下にも、私のことをもっと知ってほしいと思っています。その上で、まだ私を選んでくれるというなら、選んでほしいと願っています」
本来、セオドアに直接言おうと思っていたことを、第三者に長々と伝えてしまった。
心情を色々と話しすぎたかもしれないと我に返っていると、「アカネ、うれしいよ」とセオドアは私の肩を抱いた。
ライラさんは肩を震わせながら言った。
「私は…どう言われようと、あなたのことを許しませんわ」
ライラさんは侍女を連れて立ち去った。
こうするしか無かったのかな。
ライラさんを傷つけることになってしまって悲しい気持ちの私は、ライラさんの後ろ姿を見つめることしかできなかった。
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