絶体絶命すぎる
表通りではあれだけ賑やかだったのに、路地裏は対照的に静かだった。
セオドアを囲む人だかりが多すぎて、かなり流されてしまった。
早くセオドアを探さないと大変だと慌てて戻ろうとした時、目の前にいかにも柄が悪そうな男性の人魚たちが現れた。
「なぁお嬢さん。ここには観光で来たのかい?」
これはまずい。
さっきまでだれもいなかったのに、目の前の道も、後ろの道もならず者の人魚たちに完全に囲まれてしまった。
「そ、そうなの!連れとちょっとはぐれてしまって」
なんとか丸く収まってくれないかと、笑顔で無害であることをアピールしたつもりだったが、ならず者たちは何か企んでいそうな顔付きのままで、そう簡単に逃がしてくれないようだった。
「へぇ、観光でこの国に来たの。しかも泳ぎも下手だとはね」
「痛いっ、離して!」
ならず者の一人に腕や肩を強く掴まれる。
私が抵抗していると、さらに両腕を縛ろうと拘束が強くなってきた。
「観光でこの国に来る奴はよっぽどの金持ちじゃないと来れないんだよ。この近辺にはこの国以外の人魚はいないしな。つまり、お前のように泳ぎが下手な奴は、正体が人間だってばればれなんだよ!」
「いい加減大人しくしやがれ!」
このまま誘拐されたらどうなってしまうのか。
まさか殺される?
私はまだ、こんな所で死ぬわけにはいかないのに…
羽交い締めにされてもうどうしようもない時に、最後の力を振り絞って助けを求めた。
「助けて、セオドア!」
思わずセオドアの名前を叫んでしまったが、ならず者たちはたじろいだものの、「こんな小娘を王太子が助けるわけがない」と気にも留めなかった。
あっという間に口元をふさがれた上に両腕を縛られ、ならず者に担がれてしまった。
もうダメだ、異世界に来てから何とか生きていこうと思ってたけどもう終わりだ。
こんな形でセオドアとお別れになるなら、異世界人で何もできない私にも優しくしてくれてありがとうってちゃんと伝えれば良かった。
私が後悔していると、ドス、と床を刺すような音が聞こえた。
私を担いでいるならず者の足がピタリと止まり、急に辺りが静かになった。
「なんでこんな所に王太子が!?」
ならず者たちが焦っているのがわかる。
私を担いでいるならず者も恐る恐る後ろを確認したため、同じ方向を向いている私もその様子を確認できた。
三叉槍を床に突き刺し、仁王立ちのセオドアがいた。
セオドアは怒りが抑えらず凄味のある表情をしている。
「お前たち程度、本来は魔法を使うまでもないが、覚悟しろ」
ならず者たちが声をかける隙も無く、セオドアが三叉槍を振ると、水でできた長い縄が出現し、ならず者たちを一網打尽にした。
圧倒的な力に私はあ然とした。
もしかすると、セオドアは水中であれば何でもできるのかもしれない。
アンセルさんがセオドアを「英雄レベルの強さ」と言っていたけど、これは本当なのかも…
セオドアは手早く私の拘束を解いた。
「怖かっただろう。目を離してしまってごめん」
そう言いながらセオドアは、羽織っているフード付きの上着を私にかぶせた。
「もうダメかと思った…」
「王宮に戻ろう。アンセルたちも合流させてから行くから、もう心配しないで」
どうやらアンセルさんたちも、私がはぐれた後に探してくれていたらしい。
帰り道は、極めて安全だった。
セオドアは私を周囲に見られないように上着で隠しながら、アンセルさんたち近衛兵を使って野次馬から守ってくれたので、スムーズに帰ることができた。
何より安心できたのは、細身ながらもたくましいセオドアに支えられたことだ。
これ以上安全な場所は無いだろうと思った。
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