こんな所ではぐれちゃった
こんなことになるんじゃないかなと不安に思うことが的中してしまった。
周囲の女性の人魚達がひそひそと話している様子で、その内の一人がもじもじしながらもセオドアに近づいてきた。
「もしかして…セオドア王太子ですか?」
「いや、僕は…。ちょっと、何するんだ!?」
セオドアが否定していると、後ろから別の人魚がセオドアのフードをめくってしまったので、セオドアの顔が露わになってしまった。
その瞬間、女性陣は目の色を変え、黄色い悲鳴を上げた。
こうなるともう遅い。
「きゃーっ、セオドア王太子ではありませんか!?私、ずっと前からお慕いしてましたの」
「ちょっとどきなさいよ!私こそが后にふさわしいわ!」
通りを埋め尽くすほどの女性が口々にセオドアを口説いてくる。
でも、何でこんなすぐにばれてしまったんだろう?
顔は隠していたし、声だけでここまですぐに気づくだろうか?
女性陣の集団から少し離れた所を見ると、アンセルさんと近衛兵たちが申し訳なさそうにこちらを見ていた。
セオドアは怒りを抑えながらアンセルさんに尋ねる。
「僕に黙って後をつけていたな?」
「俺はやめとけって言ったんですが、こいつらが心配で言うことを聞かなくって…」
「お前も含め、近衛兵の顔も覚える女性が多い。お前達がぞろぞろといたら、僕がこの近辺にいると勘ぐられてしまうじゃないか…」
アンセルさんは「言わんこっちゃない」と近衛兵たちに叱り、近衛兵たちもしょんぼりとしていたが、もうこの人込みから抜け出すことは難しいだろう。
どんどん人魚が増え、私は人の波に流されてしまった。
セオドアに声をかけようとしても、他の人魚の声でかき消される。
気付いた時には、人気のない路地裏に迷い込んでしまった。
地上でも大変なのに人魚の国で迷子だなんてどうしよう、と私は頭を抱えた。
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