話せなかった秘密
お城の裏口から、城に食材等を持ち込む業者と紛れるようにして、セオドアと外に出る。
セオドアの腕につかまって支えられれば、だいぶ人魚の姿でも動けるようになった。
一見細く見える腕も、触ってみるとがっしりとしてて頼りがいのある腕だった。
やがて城壁を抜けると、色彩豊かな美しいレムリア国が一望できた。
私が景色に見惚れていると、セオドアはうれしそうに私に話しかけた。
「アカネ、もっと景色の良い場所を知ってるんだ。案内するよ」
セオドアが連れてきてくれたのは、私の世界で言うとロープウェイのような場所だった。
法螺貝のような見た目だけど人間の背丈ほどある大きな貝から、今度は6人は余裕で入れそうな大きなシャボン玉が出てきた。
セオドアによると、そのシャボン玉に入ると浮上して、上から街を一望しつつ、周回し、時間になると乗り場に戻ってくるらしい。
人気のあるスポットだけど、たまたま空いていたらしく、2人だけでシャボン玉に乗ることができた。
美しいレムリア国に目が離せないでいると、レムリア国の国民も見えた。
海中のためか、高い場所にもどこでも泳いでいけるようで、シャボン玉の乗り物の少し下を泳いでいる人魚もいた。
屋根の上で人魚が歌を歌うと、屋根で壊れている部分が直っていく様子も目にした。
どうやら滞在していたマリーナミューズよりも、日常的に魔法が使われているようだ。
マリーナミューズでは、魔法が使えない人も多かったけど、人魚の世界ではやはり魔法が使える人が多い。
私はセオドアに失望されることを覚悟して、打ち明けた。
「ねえ、セオドア。言ってなかったことだけど、私は魔法が使えないんだ。だから、きっとお嫁さんになったら迷惑かけちゃうよ」
私はうつむいて、がっかりしているであろうセオドアの顔を見ないようにした。
しかし、想定外に優しい声でセオドアは応えてくれた。
「魔法が使えなくても、君がいいんだ」
私が驚いてセオドアを見ると、セオドアは優しく私を見つめていた。
「普段は魔法を使う機会はそうそう無いよ。魔法を使う機会があっても、付呪付きの道具を取り寄せるし、困らせない。色んな手段はある。だからアカネ、心配しないで」
そんなに優しいと、もう隠している全てを明かしたくなる。
溢れる涙をこぼさないように必死に堪える。
私は、私がこの世界に来た時に保護してくれたハンナさんにも明かしていないことを、セオドアに話した。
「でも、でもねセオドア。私、本当はこの世界の人間じゃないの。魔法が使えない世界から来たの。何年かしたら、ううん、もしかしたら明日には元の世界に戻ってるかもしれないよ?」
その言葉に、流石にセオドアも驚いたようだった。
でもセオドアは、既に決心していたようだった。
「君が違う世界の人だとしても関係ないよ」
「え?」
「君は、マリーナミューズで明らかに異質だった僕のことを、たった一人で立ち向かって助けてくれた。そんな君のことを尊敬しているんだ。アカネ、君は君のままでいいんだ。僕の傍にいてほしい。君が困ったら、すぐに助けられる立場でいたい」
元の世界でも、これだけ親身になって心配してくれそうなのは親友、いや家族ぐらいだろう。
私はついに涙を堪えられなくなって、異世界に来てから初めて泣いてしまった。