セオドアの義兄上様
人魚の状態に慣れてきた頃、海底に街並みが見えてきた。
建物の多くが巨大な貝などを使用して建設されている点は、まさに海ならではといったところか。
セオドアによると、街は塀で囲まれており、塀に大きな結界が張られていて、魔物が簡単に侵入できないようにしているらしい。
そして、街からさらに奥にあり、街を見下ろすかのように高い場所にそびえ立っているのが、レムリア国の城なのだと。
私は城の美しさに目を見張った。
屋根には黄金が使用されており、壁は白いのだが黄金にも負けずに光り輝いている。
異世界にくる前、テレビでヨーロッパの城が特集されていたのを見かけたことがあるけど、ここまで美しい城はなかなか無いだろう。
城が近づくと、あと少しで仕事が終わるとわかっているシャチ達はぐんぐんスピードを上げ、あっという間に城内の広場にたどり着いた。
人魚での移動の仕方に慣れず、悪戦苦闘しているとセオドアがさりげなく手を引き、エスコートしてくれた。
そりから降りるのにも一苦労だ。
こうなったら城を移動する時に慣らしていくしかない、と私が考え込んでいるとセオドアと私に近づいてくる人魚がいた。
「あの恋愛関係には疎いセオドアが、まさか女を連れてくるなんてな」
「義兄上…今日は離宮ではなく、こちらにいらしていたのですね」
セオドアと、義兄上と呼ばれた人魚との間にピリピリした空気を感じた。
私が戸惑っていると、セオドアは我に返って紹介してくれた。
「アカネ、こちらは義兄上のリアムだ。腹違いの兄さんなんだ」
「初めまして」
軽くお辞儀をしてリアムを見ると、雰囲気はまるでセオドアと対照的な印象だった。
気怠そうだが、私を見る目つきは爛々としていて、何か企んでいそうにも見える。
どこか退廃的で、私の独断と偏見による第一印象だと、顔の良さを生かして何人もの女性を泣かせていそうだ。
リアムはセオドアが反応するよりも早く私に近づき、私の手の甲にキスをした。
「王への謁見の後、デートしたりするんだろ?ぜひ、楽しんでいってくれ。セオドアのエスコートで物足りなかったら、俺が相手しよう」
「兄上!」
セオドアが怒り、すぐに私とリアムの間に入る。
その様子にリアムはクスリと笑い、帰っていった。
リアムが歩みを進めるとどこからか女性陣が現れ、リアムにくっついていっしょに歩いていく。
好色そうな印象はあながち間違っていなかったのかもしれない。
リアムが居なくなるとセオドアは落ち着きを取り戻したが、私の近くから片時も離れようとしなかった。
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