ほろ苦ティラミスは誰のもの?
今日はバレンタインデーです!!
このお話は……しいなここみ様の
『砂糖菓子みたいなラヴ・ストーリー企画』への参加作品です。
FCレディースU-15に所属しながら部活は男子に混じってプレイしていた私の中学時代は朝から晩までサッカー漬けだった。あの中三の11月までは……
去年の11月に行われた高円宮妃杯の県予選の準決勝戦、相手のセンターバックから受けた危険タックルによる事故で、私は前距腓靭帯の断裂と外くるぶしの骨の剥離骨折を併発し……以後パフォーマンスの高いプレイは望めないと宣告された。
元々勉強などそっちのけ、“国際湘南”のスポーツ推薦枠狙いだった私は体育以外はボロボロの内申で受験に突入! どうにかこうにか私立の女子高に潜り込めたが、白たまごのパックの中に1個だけ混じった茶色のたまごの様に、周りのコ達と“ギャル”の温度差が有り過ぎて居心地の悪い高校生活を過ごしていた。
部活は……なんにもやる気が起きなかったので“帰宅部”一直線だったが、ウチのクラス、どういう訳か結束が固く、なにかと言うと“打ち上げ”の企画が持ち上がり、カフェを貸し切りにしたりと大掛かりなものが少なくなかった。
当然、お小遣いだけでは賄えず、私は地元の小さなスポーツ用品店でアルバイトを始めた。
小さいと言ってもそれは店舗の話で……お店の売り上げの9割9分は学校やチームなどへの“外商”によるものなので……朝から晩まで飛び回っている社長の代わりに奥様と店番をしていると言う感じの仕事内容だ。
それとなく聞こえて来る噂話によると色んなご事情があるらしいのだが、お二人の間にはお子様がなく、歴代のバイトの子(男も女も)をとても可愛がってくださる優しい奥様だ。
お歳は(はっきりとは聞けないので)30半ばなのだけど、『私のお姉さん』と言っても通る位に可愛らしく美しい方でバイトOB、OGのセンパイ達は奥様の事を「沙紀ちゃん」とか「沙紀姉」と呼んで今でも慕っている。
その“沙紀”奥様が、あんまり暇なのでお店の前を掃き掃除していた私に、声を掛けてくれた。
「舞ちゃん! もうその位にしてお茶にしましょう!」
「なんだかバイト代をただ貰いしているみたいで心苦しいのにこんな事までしてもらっていいのだろうか?」といつも思っているのだけど、奥様手作りのおやつが激ウマで……私はつい“シッポ”を振ってしまう。
因みに今日はふくよかなコーヒーの香りがするティラミスだ!!
う~ん!! ほっぺたが落ちそう!!!
思わずティラミスを頬張ってしまう私に奥様はお茶のお代わりを注いでくださる。
「舞ちゃんはいつも喜んでくれるから、私、本当に作り甲斐があるの! いつもいつもありがとう」
「そんな!! 私なんか食べてばっかで……お礼を言うのは私の方です。いつもいつも美味しいお菓子をありがとうございます!! 私にはとても作れないから……」
「そんな事ないわよ! 例えば今日のティラミス! ビスケットで作ったのよ!」
「ええ??!! そうなんですか??」
「作ってみる?」
「ええっ??」
「だって、もうすぐバレンタインデーでしょ? ちょうどいいじゃない!」
奥様から少しだけ悪戯っぽく言われて、私はまだ日焼けが褪せない顔を……耳まで真っ赤にしてしまった。
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大翔くんは斜向かいの『和菓子屋みよし』の息子さんで、とても落ち着いたメガネ男子だ。
その風貌から、最初はアルバイトの大学生さんかと思ったのだが、そうでは無いと知った。
きっかけはお店の前の掃き掃除!
お互い掃き掃除に出ている事が数回あって、挨拶からなんとなく会話をするようになり、なんと!私と同い年で……サッカー馬鹿だった私でさえも名前を知っている有名進学校の生徒さんだった。
「大翔君の事、最初は大学生のお兄さんかと思ったんですよ」と言うと
「俺は舞さんの事……すっごい美少年かと思ってた……ゴメン!」
と謝られて私は……
「美少年?! それは“元”は良いって事??」なんて考えて、少し複雑だった。
思えば、カレの事を意識したのはこれが最初だったのかも!
それが決定的になったのは……私が“男の子みたいな”自分の容姿の事に絡めて「もうサッカーはできない」って告白した時!!
「やっぱ舞さんって!しっかりと目的意識を持ってて立派だよ!俺なんか『店継ぐ気が無いからそれなりにキチンとした仕事に就かなきゃ!』ってだけのみっともないガリ勉だからなあ……努力と研鑽の上でジュニアユースの選手をやっていた舞さんの事はホント尊敬するよ!!」って言って貰えて……思わず涙が零れたんだ。
でね、
えっと
えへへへ
可愛くとか綺麗に
なりたいなあ~
って思っちゃったんだ。
多分、その頃読み始めたベタベタの少女マンガの影響もあるかもだけど……
で、あれこれ悩んだ末に“沙紀”奥様に相談しよう!!と決心したのが今年になってから……
私に相談された奥様は開口一番
「舞ちゃん!! なんでもっと早く言ってくれなかったの?? クリスマスもお正月も終わったばかり!! そんな事なら、キッチリお膳立てしてあげたのに~!!」と残念がられた。
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「大翔くんは和菓子屋さんの子だからグラニュー糖はちょっとだけ抑えましょう。それからマスカルポーネチーズと生クリームはしっかり泡立てて滑らかな口当たりになるように……、コーヒーはゴールド〇レンドが良いわよ!!」
奥様のキッチンを使わせてもらって手作りのティラミスを完成させ、明日はいよいよ大翔くんをお招きする!!
「大丈夫!! “みよし”の女将さんにもキッチリ根回ししてるから!」とウィンクする奥様に
「いったいどうやって?」と訊ねると
「うふふふ それは大人の謀」とはぐらかされてしまったけど、
ともかく当日は学校が終わるとお店へ直行した。
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「このお茶はね、この間 女将さんから教えてもらった“おもてなし用の”お抹茶なの!だから大翔くんには馴染みの味かな?」
「いいえ! 母は僕には出してくれません! 僕はコーヒー派ですし」
「あらっ?! それはちょうど良かったわ。今日はね!舞ちゃんお手製のティラミスなの!」と私達の前にティラミスを出してくれた。
恥ずかしくて……私はしっかりと大翔くんの顔を見れなかったのだけど、奥様がコッソリ“Vサイン”を出してくれたのでちょっとホッとした。
でも奥様が
「ちょっとお店、見て来るわね!」と席を立ったので私の胸はまた早鐘だ!
とにかくティラミスを前にして二人だけの会話が始まる。
「これ、舞さんが作ったんだ!! 凄いね!!」
「エエーッ!! 全然凄くなんて無いよー!!」
「そんな事ないよ」と大翔くんは頭を振ってフォークを手に取った。
「ありがとう!いただきます!」
「ど、どうぞ!」
でも大翔くんはティラミスに近付けたフォークをふと止めた。
「えっ?! 安心して!! 私、ちゃんと“毒見”したから大丈夫だよ!」
「いや、そうじゃない!!」大翔くんの声が被さって私は僅かに身を引く。
中学時代、サッカーで男の子からどんなに“当てられて”も絶対引かなかったのに……
「ああ、ゴメン!! いや、そうじゃなくって……何と言うか……ほらっ?! 素敵な上生菓子に和菓子ナイフを入れる時、壊すのを躊躇っちゃうよね! そんな感じ」
「エヘヘヘ、そんな大層なもんじゃないから、どうぞザックリ召し上がって下さい!」
「うん! じゃ、遠慮なく」
大翔くんはティラミスをサクン!とひと口大に切り取って口に運ぶ。
「うん!! とっても美味しい!! それにいい香り!」
私はもう、今までの人生の中で一番心臓がバクバクしてるのだけど、用意していた言葉を必死に口に出した。
「今日は、バレンタインデーだよね」
「うん、俺には母から貰える1個だけだと思ってたけど……」
「けど……?」
「このティラミス!! とても美味しいから後で作り方を教えて欲しい!!」
ああ、私の心は瞬く間に真っ黒な雲が一杯!!
でも涙が“土砂降り”なるのは大翔くんを送り出してからだ!!
「もちろん! そうすれば自分でいつでも楽しめるもんね!」
「ありがとう! 急かすみたいで悪いけど、なるだけ早く教えてもらえるかな?」
「別にいいけど……簡単だよ」
「でも、俺、和菓子屋の息子なのにお菓子作りなんてやったこと無いから……ホワイトデーにはちゃんとした物を舞さんに食べてもらいたいんだ! だから……」
「それって……私の為?」
「当たり前じゃん!! 俺も自分の想いを舞さんに伝えたいんだ!!」
その言葉に私の決心はいとも容易く崩れて……“夕立”になってしまい、大翔くんのハンカチまで借りてしまったのだけど……
その後は、大翔くんと……ほろ苦いティラミスをとても甘くいただいた。
おしまい
。。。。。
イラストは舞ちゃんです。
企画主催のしいなここみ様から、前作についていただいたコメントを参考に書かせていただきました(#^.^#)
ここみ様、ありがとうございます<m(__)m>
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