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2章・七歳編_009_森へ

 この物語はフィクションです。

 登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。

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 2章・七歳編_009_森へ

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 僕の仕事は朝の水汲みと薪拾い、そして糞尿運びが追加された七歳のランドー君です。


 この二日、オリビアちゃんの顔を見ていないんだ。

 彼女は貴族だから、貴族としてのイベントがある時は来れない。それ以外は大雨や嵐じゃない限り必ず僕の家にやって来ていたのに、この二日は嵐でもないのに来ない。


 僕のほうからオリビアちゃんの家―――屋敷に行ってもいいけど、領主屋敷だからなかなかハードルが高い。彼女と一緒に屋敷の敷地に入るのはいいけど、一人ではさすがに無理だよね。


 彼女のママさんはとても美人で優しい。遊びに行くとお菓子をくれるんだ。この世界というか、この村でお菓子を食べられる家は多くない。さすがは領主様のお屋敷だよね。


 おっと、噂をすればオリビアちゃんだ。こっちに歩いてくるのが見えた。でもなんだか足取りが重い……?


「ランドー。行くわよ」

 いきなりだね。どうしたのさ?


「行くってどこに?」

「来れば分かるわ」

 オリビアちゃんは相変わらず天真爛漫で、思い立ったが吉日の人だね。


 僕はオリビアちゃんに手を引かれて、どこに行くかも分からずに小川を超えて進んだ。

 彼女の手は相変わらずというか、以前よりも硬くなっている。マメができて潰れてまたマメができてを繰り返していると、潰れるマメがなくなって皮膚が鎧のように硬くなったようだ。


 とても七歳の少女の手とは思えないけど、僕はこの手を凄いと思っている。この手が彼女の努力の結晶なのだ。それは並な努力ではないことを、僕は知っている。


「ちょ、オリビアちゃん! 森に入る気!?」

 このまま行くと森に入ってしまう。それは危険だ。


「うん!」

「うん! って、森は危険だよ」

「知っているわ」

「え?」

 何を言っているのかさっぱり理解できない。危険だと知っていて、なぜ行くし?


「魔獣が出るって言うんでしょ?」

 九月に入って少し涼しくなったから、暑さで頭がやられたわけじゃないようだ。ちゃんと危険を理解しているようだね。


「魔獣は危険だよ。大人もいないのに森に入ったらダメだよ」

「大人がいたら森に入れないじゃない」

 うん、そうなんだけどさ、噛み合わないね。


 僕たちが出会ってすでに二年数カ月、彼女がここまで理解できない人だとは思って……いたけど、さすがに今回はヤバい。


 魔獣というのは、普通の動物が巨大化してさらに狂暴化した化け物のこと。普通なら手の平に乗る小さなネズミでも、魔獣になると中型犬くらいの大きさになる。つまりクマのような大型動物が魔獣になったら、シャレにならないくらい大きくて危険だということ。


 この森は魔獣が生息している場所で、立ち入る人は限られている。

 フーベルト兄さんがこの森の近くに家を建てて、そこで住み始めたのは二カ月前の七月のことだ。

 そのフーベルト兄さんは森神の加護レベル一を持っていて、子供の頃から狩人などについて森に入っていたからいいのであって、僕たちのような子供が初めて入るのにつき添いもないのはダメすぎる。


「大丈夫。ちょっとだけ、ちょっと入るだけだから。本当に先っぽだけなんだってば」

 言っている意味が分からないんですけど!


「なんで森なの?」

「……ママが病気で、どうしても薬草を採取したいの」

「……そ、そうなんだ。その薬草はどういったものなの?」

 オリビアちゃんのママさんが病気だなんて初めて聞いた。オリビアちゃんがこの二日間顔を見せなかったのはそのためなんだね。


「リバニア草という薬草が必要なの。こんなのよ」

 紙切れが僕の顔の前に出される。

 これって……本から破ってきたな……。

 本は高価なのに、こんなことしたら後から怒られるぞ。僕は知らないからね。


「この―――」

「お願い! 私に力を貸して! 私は剣しかできない。薬草なんて探すことなんてできない。ランドーの力が要るの!」

 オリビアちゃんは後頭部が見える程頭を下げた。いまだかつて、彼女が頭を下げたところを見たことはない。それだけ切羽詰まっているんだね……。


 彼女の悲壮感溢れる顔を見ると、嫌とは言えない。

 それに領主夫人―――オリビアちゃんのママさんにはいつも美味しいお菓子をもらったり、オリビアちゃんの暴走を止めてくれたりお世話になっている。

 僕もそうだけど、ジーモン兄さんは領主家からたくさんの本を借りていて、その際に対応してくれているのが領主夫人なんだ。兄弟揃ってお世話になっている人が病気だからなんとかしてあげたいけど、森は危険だ。

 でも僕の加護があれば……。


「分かったよ。リバニア草を探すんだね」

「いいの!?」

「こんなところまで連れて来て、そんな資料まで持って来ているのに今更だよね(笑)」

「ごめん。でも、ランドーのことは私が絶対守るから!」

 刀を僕の胸に押しつけて来る。この刀にかけて僕を守るという意味なんだと思う。


 この刀は僕が精も根も使い果たして創造した逸品で、今年の春にやっとオリビアちゃんの納得いくものができたんだ。

 刀特有の鋭い斬れ味がなかなか出なかったけど、なんとかここまで造り込んだ。本当に苦行のような日々だった。


「その資料を貸して」

「はい。よろしくお願いします」

 恭しく資料を渡してくる。まったく、最初からママさんのことを言ってくれれば、もっとちゃんと準備をしたのに。


 資料には挿絵があって、リバニア草の特徴などが記載されていた。

 しかしかなり珍しい薬草だと書いてある。見つかるのだろうか……。いや、なんとしても見つけるんだ。それができるのは、僕だけなんだから。


 リバニア草に意識を集中した僕は、首にぶら下げているネックレスを掴んで強く念じる。このネックレスは創造神様のシンボルを(かたど)ったものだ。

 ジーモン兄さんに聞いたら、各神にはシンボルというものがあると分かった。それで作ったものなんだ。


「ふー……。探索神様……どうか僕にこのリバニア草を手にする機会を与えてください」

 創造神様は全ての神の頂点に君臨する存在で、その加護を持つ僕は他の神々との親和性がある。さらに僕には探索神の加護がある。

 さすがにレベル一なので何かを感じるとかではないけど、そんな気がする方角を指差す。


「多分あっち」

「分かった! 私が先導するから、ランドーはついて来て」

 ズンズンと一人で森の中へと分け入っていくオリビアちゃんの背中は男らしい。頼もしい。安心できる。それでいいのかと疑問に思いつつ、オリビアちゃんについていく。


 

ご愛読ありがとうございます。

これからも本作品をよろしくお願いします。


また、『ブックマーク』と『いいね』をよろしくです。


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