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5章・一年生・長期休暇編_053_寝返り

 この物語はフィクションです。

 登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。

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 5章・一年生・長期休暇編_053_寝返り

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 アルビヌド山は酷い臭いに包まれていた。

 草木だけでなく、人間も焼かれているのだから本当に酷い状態だ。

 帝国軍で捕虜になったのは千人に満たない。あとは殺されたか、焼き死んだか。どっちも殺されたことに変わりはない。


 帝国軍の指揮官や首脳陣は捕縛している。

 何人か馬で包囲網を突破しようとしたが、さすがに逃げきれなかったようだ。

 昼前から始まった戦いは、夕方前には終わっていた。

 戦いというよりは虐殺に近いと思うが、攻めて来たのは帝国軍だから文句を言われる筋合いはない。


 アルビヌド山は一晩燃え続けた。

 焼けただれて変わり果てたアルビヌド山は、翌日になってもあちらこちらで火が燻っている。


「酷い臭いね」

 呆然と立ち尽くす僕の横で、オリビアちゃんが呟いた。

 オリビアちゃんもさすがに落ち込んでいる。人間をこんなやり方で殺すのは、さすがに気分のいいものではない。

 やらなければこちらがやられる。頭では分かっていても、心が納得しないのだ。


「これが戦争なんだね……」

「そうね。……私たちはお遊びでここにいるんじゃない。殺し殺される戦場にいるのよね。こんなことで戦えなくなったなんて言わないわよね、ランドー」

「七歳で帝国兵百人を土に還した僕だよ。こんなことで戦えなくなるわけないよ……」

「そう。なら、涙を拭きなさい。それとも私に拭いてもらいたい?」

「泣いてなんかないよ! これは目から汗が流れているだけなんだから!」

 服の袖で乱暴に目から出る汗を拭くと、オリビアちゃんがハンカチで鼻水を拭いてくれた。

 優しいのはいいけど、最後に鼻を強めに抓っていくのは止めて。


「ん……」

 そんな僕にフウコから念が送られてきた。


「どうしたの?」

「ナルダン子爵軍が接近していると、フウコが教えてくれたんだ」

 僕たちには感傷に浸る時間もない。今は生きるために、敵を殺す。ただそれだけを考えよう。


「そう……。戦いはまだ終わってないのね。いいわ。今回まったく暴れてないから、今度こそで暴れさせてもらうわ」

 それは勘弁してくださいよ。

 オリビアちゃんが突っ込むと、僕はとても心配するんだからね。それに僕も突っ込むことになるんだから。


 僕たちはすぐに領主様にナルダン子爵軍の接近を知らせた。

「数は?」

「ざっと八千くらいです。ナルダン子爵軍の後ろに帝国軍と思われる旗を確認してます」

「ナルダン子爵とはそれなりに確執はあったが、まさか帝国に寝返るとはな……」

 領主様がしみじみと呟く。


 すぐに皆が集められて、対ナルダン子爵・帝国連合軍の軍議が開かれた。

「ナルダン子爵軍と帝国軍は、北東から接近しています。現在はアキロス砦からおよそ十七キロの場所です」

「……まだ間に合うかな。兵千をこのテリガン山に伏せておき、残りの三千でこのアチンガ草原に布陣しましょう」

 アール様が地図を差して作戦を提案すると、領主様は頷いた。


「他に意見がなければ、この作戦を実行する……いないようだな」

 他に誰も異を唱えない。こちらはフウコのおかげで敵の動きがまる分かりだから、作戦は立てやすいようだ。


「デュークは千の兵を率いてテリガン山に入れ。敵が通り過ぎるまで決して打って出るなよ」

「おう!」

 アール様の作戦案を、領主様が実行に移す。

 ただちにデューク様が千の兵を率いてテリガン山に向かい、領主様は三千の兵を率いてアチンガ平原に布陣した。


 左翼にブロガド男爵軍。

 右翼に騎士ベリングス様が率いる部隊。その後ろに騎士デリウエア様が率いる部隊。

 中央に領主様が率いる部隊。僕とオリビアちゃんはもちろん領主様の目の届くところに配置されている。


 敵は八千。数では倍の戦力だ。

 でも戦場になるアチンガ草原はいい感じに魔力が満ちている場所だ。

「アール!」

「はい」

「皇龍地獄剣で敵の戦意を挫け」

「分かりました。あー、オリビアも連れていっていいですか」

 アール様のその言葉に、オリビアちゃんの肩が跳ねた。嬉しそうに鼻がピクピクしている。


「むぅ……いいだろう。だが、分かっているな」

「ええ、分かっていますよ」

 領主様とアール様が曖昧な言葉のやり取りをする。

 多分だけど、領主様はオリビアちゃんを戦場に出すなと言っているんだと思う。でもアール様の顔を見ていると、その逆のことを考えているような……。僕の思い過ごしかな?


 オリビアちゃんが馬の手綱を引いて、アール様に近寄る。

「アール兄さん。ありがとう!」

「この戦いに勝ったら、うちは伯爵だ」

 え、伯爵になるの? なんで?


「賢いオリビアなら分かっていると思うが、うちが伯爵に陞爵したらマーカス兄さんは子爵、僕は男爵に叙されるだろう。オリビアと結婚するランドー君も男爵だ」

「え、僕がですか!?」

「オリビアの婿になるのだから、当然だろう。もちろん領地のない法衣貴族だけどね」

 いやいや、法衣貴族でもそれはどうなの? 僕はちょっと前までただの農民だったんだよ。それが男爵とか、考えられないでしょ。


「まあ、この戦いに勝って、さらにナルダン子爵領を占領したらだけどね」

 あー、ナルダン子爵領を取っちゃうのか。まさかそのつもりで準備していたの? アール様は怖い人だ。


「それで今回はあと腐れなくナルダン子爵家の者を皆殺しにしたいんだ。最低でも当主のトロイヤは殺す。そこでランドー君の従魔にトロイヤのいる場所を調べてもらいたいんだが、できるかな?」

 上空からナルダン子爵がいる場所の特定をか。それが領主様の陞爵に繋がるなら、気合いを入れて探さないといけないな。


 

ご愛読ありがとうございます。

これからも本作品をよろしくお願いします。


また、『ブックマーク』と『いいね』をよろしくです。


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2023年7月25日 小説1巻発売予定!
隠れ転生勇者 ~チートスキルと勇者ジョブを隠して第二の人生を楽しんでやる!~
― 新着の感想 ―
[一言] 後は逆に帝国軍の領土を奪うか緩衝地域を増やせるか捕虜で身代金を奪えるかですよね。逆侵攻は主人公の領の領主がやる気が無くても帝国の侵攻を防いだ後に近くに馬鹿な領主がいたら援軍を名乗って勝手にや…
[一言] 涙は心の汗だ!
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