67 チームポチ、始動
ケーンは、ポチという偽名を使い、冒険者寺子屋生として活動を始めます。
メアリーが治癒魔法を施した後、十人はケーンとジャイアンを中心に、パーティ分けをした。
ケーンが槍使いの男女二人、弓使いの女子二人を引き受けた。
バランス的にもまずまずだろう。
メアリーとリンダが引率し、さっそくチュートリアルダンジョンに向かう。
その指示を聞いたとき、生徒たちは苦笑するしかなかった。バトルロイヤルの入寺子屋式といい、必要最小限の注意しか与えないことといい、超スパルタ方針だ。
つまり、甘えは一切許されないということだ。
それは望むところ。生徒たちは身が引き締まる思いがした。
「ダンジョン突入はポチ班から。
ジャイアン班はその三十分後。
行動開始」
リンダがそう告げた。
「ポチ、行こう!」
アリスが張り切って言う。
「バカじゃないの? 今何時?」
ケーンは、後のフレーズにリズムをつける。
「そうね、だいたいねぇ~……。
あれ?」
アリスは、無意識に乗せられてしまったことに気づく。
どういうふうに乗せられたか、気づかない読者は無視する。
「そういうことか……。
おい、食える物をさがすぞ!」
ジャイアンは自分の班員に指示する。
ちなみに、ジャイアンは、ケーンがつけたニックネームに満足している。
「体がでかく、力持ちでリーダーシップがとれる。
もう一つのパーティリーダーは、ジャイアンしかありえない。
ただし、歌は歌うな」
ケーンのよいしょは、彼をしっかりその気にさせた。
どうして歌ってはいけないのか、不明だったが。
以降、ケントという彼の本名は、寺小屋内で二度と使われないだろう。
アリスは自分の浅慮を恥じた。
時刻は昼前。
このまま突入したら、ダンジョン内で昼食をとるか、空腹を抱えて魔物と闘わなければならない。
いきなり冒険者失格だ。
「メシにしようぜ。
今日だけは俺のおごりだ」
ケーンはポチバッグから、用意のおにぎりと水筒を五人分取り出した。
ちなみに、ポチバッグとは、内容量がミカン段ボール十個分程度。
中クラスまでの、冒険者用魔道具としては、最もスタンダードな仕様となっている。
もちろん、初心者以前の貧乏メンバーには高根の花だが。
「ポチ、最初からただ者じゃないと思ってたけど……。
私、一生ついていきたい」
アリスは恋する乙女の目でケーンを見る。
「ふっ……。弱い女はいらない」
ケーンは渋く決めてみました。
あ~、青春だね~!
「それでさ、ジョブってあるじゃん。
だいたいわかるんだけど、どういうことなの?
ポチなら知ってるでしょ?」
昼食を摂り終えたアリスが聞く。
「あ~、それな。
冒険者ギルドに登録するとき、自己申告するんだ。
自分の得意分野が何か、アピールする意味で。
パーティ組むとき便利だろ?
代表的なのは戦士や剣士、狩人、シーフ。
盾防御が得意なら盾士。
魔法が得意なら、たとえば、火属性魔法使い、防御魔法使い、エトセトラ。
ただし、特殊なジョブもある。
今は全然関係ないけど聞きたい?」
アリスをはじめ、他のメンバーはコクコクとうなずく。
みんなド田舎の出身だ。冒険者に憧れるものの、詳しい情報は持ってないし、得ようがなかったというのが実態だ。
「冒険者ランクがBランク以上になったら、つまり、一人前になったら、名乗ることができるジョブだ。
成功報酬が上積みされる代わり、金がかかるし、もちろんそのジョブにふさわしい実力が必要だ。
金がかかるというのは、ギルドが認める、特殊ジョブ認定審査官を雇う必要があるからだ。
審査官はAクラス以上の冒険者が絶対条件。
高ランク冒険者のアルバイトか、もしくは引退した元冒険者だ。
交渉次第だけど、安くないことはわかるだろ?」
メンバーはコクコクとうなずく。
「審査官のランクが高いほど、信用度は増す。
審査官は、ギルドカードに名前が明記されるから、当然合格基準は高く設定する。
もちろん、自分の名誉と信用を落としめないためだ。
その特殊ジョブは、たとえば、剣豪とかニンジャとか魔導師とか。
好きに名乗っていいんだけど、なんのスペシャリストかわかりやすいのが望ましいから、ほとんどは先例に乗っかってる。
例外は勇者と聖神女。
その二つは資格がないとね」
「魔法使いと魔導師、どう違うの?」
魔法にちょっぴり自信があるアリスが聞く。
「魔法使いは、魔法がそこそこ使えますよ~というアピール。
魔導師は魔法が、自由自在に使えるというアピール。
とりあえずは、Bランクに昇格することを目指そうか?」
ケーンはアリスの頭をぽんぽんと叩いて応える。
この子、磨けば光る可能性は、なきにしもあらず、かもしれない、と思いながら。
今のところ、ド田舎の娘っ子にしか見えないけど。
だが、ケーンの勘は教える。力の伸び代は十分だ。
その後、ケーンは、前衛・中衛・後衛の役割分担と、サインの打ち合わせを行った。
パーティメンバーは、その的確な指示で、ケーンに全幅の信頼をおくようになった。
ふと思ったのですが、犬に「ポチ」という名前が付けられるのはなぜでしょう?
後に登場しますが、猫獣人に、猫又は「ミー」という名前を付けました。
猫又が想像するに、子犬の小さくて愛くるしい感じは「ぽち」というイメージ?
子猫は「ミーミー」鳴くから?
多分、子供がつけると思うんですよ。ポチとか、ミーとか。
ペットが大人になってからの違和感まで想像が及んでない?
ならば、親が子供に「キラキラネーム」をつけてしまうのは、子供並みの軽薄さの表れ?
お~! 鋭い社会批判だ!