65 青春! 冒険者寺子屋へ行こう!
ケーンは、「なろう的チーレム小説」のテンプレ、学園で青春しよう! 作戦を実行に移しましたが……。
ライラック、光の神殿分院。分院最高責任者ミハエル・オドヌス大司教は頭を抱えていた。
二週間前、光の女神から神託があった。
『分院に冒険者志望者のための寺小屋を作りなさい』
なんでやねん、と心の中で愚痴るものの、女神の神託は絶対だ。
取り急ぎ聖騎士訓練施設の一部を改装し、宿泊施設兼教室は確保している。
「オドヌス大司教。
元勇者パーティのメアリー様と、リンダ様が面会を求めておられます」
彼の秘書を務める神官が、ドアの外でそう告げた。
「お通ししろ」
アポはあったので、司教は面会を許可した。
ほどなくメアリーとリンダが、大司教の執務室を訪ねた。
「お久しぶりです。長らくのお勤め、ごくろうさまでした」
大司教は如才のない笑顔で、二人の労をねぎらう。
「お久しぶりでございます。
これといった功績は挙げられませんでしたが、期間だけは長く勤めました。
そろそろ後進を育てる年かとも思います。
なにより、光の女神様のお導き。
精一杯努めますので、ご協力のほど、よろしくお願いいたします」
メアリーは当たり障りなく応える。
「もちろんです。
もちろんですが、なにゆえ女神様は、ライラックをお選びになったのか……」
「ご存じだとは思いますが、わたくしの力では、詳しい神託を受けられません。
多分、ライラック城外に、初心者向けの森があって、そこにチュートリアルダンジョンが生まれたからでしょう。
貴族や富裕階層の教育は充実しておりますが、成り上がりたい一般庶民にも、対魔王戦への機会を与える。
女神様の意気込みがうかがえます」
「ですか……」
大司教はあきらめ顔で言う。
「ですね。さっそく寺小屋入門生募集の手筈のほど、よろしくお願いします」
メンドクセー、と思いながらも、大司教は「お任せ下さい」と、メアリーに応えるしかなかった。
ケーンは不機嫌な表情で、装備を身につけた。
一見超カッコよく見える。
だが、すべて呪いの魔道具で固められている。
堕落の革鎧・虚飾の革兜・こてこてギャグの小手・運動オンチのブーツ・博愛の剣。
トータルで筋力・体力・魔力・敏捷性・知力・精神力九割削減のバッドステータスをもたらす。
現状維持は器用さだけだ。もっとも、それらは自らが選んだ装備であり、不機嫌の原因ではない。
「美女美少女限定って、注文付けたのに……、ぶつぶつ、ぶつぶつ……」
「まあそう言いなや。
考えてみたらあんた、男友達、一人もおらんやろ?
男の友情も青春やで」
ユリが半笑いでケーンを慰める。
「現実問題として、入門希望者の八割が男性だったですから。
これでも頑張って、半分は女性をねじこみました。
容姿は……磨けば光る可能性も、なきにしもあらず…かもしれません」
入門者選考委員の責任者、キキョウがケーンから目をそらして言う。
「ごめんなさい。
美女美少女限定の条件、教会側はどうしても納得してくれませんでした」
テレサは一応教会側に主張してみた。
「女性比率が極端に高いこの世界において、女性の働き方改革は、ぜひとも必要です」
一応筋は通っているので、教会はしぶしぶ男女比率均等を認めた。
「わかってますぅ~。
継続的に有能な若者を効率よく集めるには、教会の信用に頼るのが一番。
いってくるか~!」
言い出しっぺは自分。
半年はヤローどもと青春する!…しかない。
気分を改め、入寺子屋式に向かうケーンだった。
ちなみに、美女美少女と青春しようプランは、写真付き合格者名簿を一瞥してあきらめた。
お気づきかもしれませんが、主人公は頑張ってテンプレに則った行動をするのですが、その努力は空回りしてしまいます。
ところが、努力と全く関わらない要因で、ハーレム自体は実現してしまうといった感じです。
何度か触れましたが、猫又は「少年ジャンプ」が嫌いです。
ジャンプ三原則というものがあるそうです。「友情・努力・達成(成功?)」だったでしょうか?
この作品は、その三原則の真逆をいこうというのが、コンセプトです。