48 弟子入り希望の兄妹
クオークで出会った兄妹が、ケーンを訪ねてきました。
「あ~! やっと見つけた! ケーン殿、われら兄妹を弟子にしてください!」
サマンサの薬屋から出てきたケーンとユリは、例の兄妹に見つかってしまった。
「クオークから来ちゃったの? ムサシは?」
ケーンはびっくりして聞いた。
「そのムサシ殿の推薦です。
ケーン殿は新人の育成に長け、面倒見も最高とうかがっております」
兄はケーンに、すがりつかんばかりの勢いで迫る。
「チッ……。ムサシめ~」
ケーンは舌打ちする。きっとめんどくさくなって、自分に押し付けようとしたのだ。
「あのさ、君たち冒険者登録してる?」
ケーンは一応聞いてみる。
「もちろんです!
登録してたった二年。Dランクに届きました!」
兄は胸を張って答える。
「私はまだEランクですが、回復魔法が使えます!」
妹はすがるような目でケーンを見る。この世界では珍しい丸顔で、目がありえないほどでかい。
美人系というより、あきらかにカワイイ系。
体はまだ発展途上段階だが、コスプレが超似合いそう。
ケーンの心は大いに揺らいだ。
「どうして強くなりたいの?」
ケーンが聞く。
「田舎騎士領主の五男。
その立場、わかりますか?
俺は強くなければダメなんです。
メイをゲンナー男爵の、妾になどできない!」
ケーンは、このシスコン兄の立場が、はっきり見えてきた。
妹をスケベ男爵に奪われるのがいやで、家から飛び出したのだ。
フェミニストのケーンは、妹に同情した。
「金、そんなに持ってないだろ? 宿代も厳しいんじゃない?」
兄は薄汚れた革鎧。妹はぼろい魔導服。
兄妹の家は、ある程度裕福なのだろう。元はまずまずの装備だったと思われるが、旅の苦労をしのばせる。
「お恥ずかしいですが、そうなんです。
実はムサシ様に融通していただいた路銀、底をついています。
だからケーンさんに見捨てられたら……。
うっく…超困るんですぅ~!」
メイと呼ばれた少女の目から、ぼろぼろと涙がこぼれた。
「わかった。
俺がクエストを出す。
仕事は薬草採集時のレミと、この店の用心棒。
三食付きの住みこみで頼んでやる。
空いた時間に稽古をつける。
それでどう?」
女の涙に、超弱いケーンだった。
一週間後のこと。
ケーン、キキョウ、ジャンヌのヒカリちゃんは、総子と模擬戦で戦う兄妹を見ていた。
『どう思う?』
ケーンが念話で聞く。
『思い切り装備で固めても、Aランクに届かないと思います』
キキョウが念話で応える。
『器の問題ですね。
気持ちだけが空回りして、一番危険なタイプです』
ヒカリちゃんも念話で応える。
『俺もそう思う。どうしよう?』
ケーンは途方に暮れる。
総子に付けてレベルアップさせようという心づもりだったが、めちゃくちゃ足を引っ張りそうだ。
『エリックは、救いようがないほどのシスコンですね。
メイをケーン様の嫁にするには、問題大ありです』
キキョウが苦笑して念話で言う。ちなみに、エリックは兄の名だ。
『メイもエリックほどではないにしろ、重度のブラコン。
割って入ろうとしたら、険悪な雰囲気になります。
ケーン、頑張ってください。じゃ!』
ヒカリちゃんはそう言い残し、ジャンヌの体から逃げていった。
三人は目を見合わせ、大きくため息をついた。
「そこまで! 総子、お疲れ」
ケーンは模擬戦を止めた。「お疲れ」と言ったものの、総子は汗もかいていない。兄妹は息も絶え絶えといった感じ。
総子は幼いころから剣道を習っているし、部活にも入っていた。弱い者の指導はお手の物である。
「エリック、メイ、今晩付き合え」
ケーンは引導を渡すべきだと思った。
「俺、男は……」
「兄者と二人で? それはちょっと……」
なんだかひどく誤解しているらしい兄妹だった。
ケーンが二人にコスプレさせているのが、誤解を与える要因だろう。二人はコスプレモデルとして、最高の素材だ。
照れがりながらも、兄、妹の艶姿に、お互い萌え萌えであること、ケーンは見抜いている。
「じゃね~よ!
君たち二人の将来、じっくり語りあおう」
「もしや、俺に婿入りしろと? レミさんに」
「私はケーンさんの側室?」
どうしてそういう発想? ケーンはとことん問い詰めたくなった。
ムサシはなかなかのワルでした。
兄妹の扱いに手を焼いて厄介払いです。
このシスコン&ブラコン兄妹、どうなるのでしょう?