11 Sクラスダンジョンへ行こう!
ケーンとキキョウ、それにブラックは、Sクラスダンジョンに、のんびりと挑みます!
悪魔の洞窟。基本的にダンジョン以外では、神話に登場する超強力な魔物は出現しない。
例外は魔族が独自の能力で、召喚した場合。
そして、この危険度Sクラスのダンジョンで、出現する魔物のレベルはとりわけ高い。もちろん、その分ドロップや宝箱の中身はゴージャス。
よってハイクラスのパーティが、一攫千金狙いで挑戦するには手頃である。
普通パーティは、四人から五人で構成される。
さらに難易度が高いダンジョンは、単独パーティでは歯が立たない。
分け前は少なくなるが、複数のパーティが手を組んで挑むことが多い。
「なんか魔物の数が少ないですね。
先にどこかのパーティが、もぐっているのでしょうか?」
ケルベロスを、さくっと片付けたキキョウが言う。
まだ三層目だが、ケルベロスは中クラスなら、ダンジョンボスでもおかしくない魔獣だ。
三つの首を、きれいに刎ねられたケルベロスは、あっという間に風化し、消えていった。
ダンジョンで死体が残ってしまっては、衛生的にまずい。素材としては使えなくなるが、代わりに相当分以上の硬貨をドロップする。
フィールドで魔獣を狩っても、硬貨のドロップはない。
光の女神も、なかなか工夫している。
「ラッキー! ケルベロスの短剣ですな」
貧乏性のブラックは、レアに属するドロップに喜ぶ。
キキョウもケーンに出会う前なら、喜んだだろう。
ケーンの嫁になった今は、なんの感動もない。
ケーンが手をかざすだけで、もっとえぐいアイテムが出現するのだから。
えぐいといえば、このダンジョンにもぐる前、ケーン様からもらったアイテムボックス。
あの聖神女ミレーユ様の、最高傑作だそうだ。ボックスと呼ぶものの形を持たない。
大きさ容量無制限、ボックス内時間停止、種類を自動的に分けるソート機能。
意志だけで出し入れ自由。
防具なら自動的に着脱可能。
夜の王宮の食糧庫や倉庫とも互換性あり。
チートアイテムにも程がある。ブラックさんの「ブラックバッグ」を二級品と言うはずだ。
ライラックに帰ったら、家ごとボックスに入れちゃおうかな?
まあ、ケーン様のテントの方が快適か。あれも超えぐいアイテムだ。
一応家は対外的に役立つはずだ。残しておくか。
キキョウが頑張って、王都の一等地に購入した家も、彼女的にすっかり色あせた。
その感動のなさは、最近のキキョウの、密かな悩みだった。
贅沢な悩みだとはわかっているが。
「引き返す? これじゃ張り合いないよね?」
ケーンが提案する。
「そうですね。ん?
先の方が騒がしいですね?
様子見てきましょうか?」
キキョウの感知スキルは超優れている。
だが、ケーンのスキルは、さらに優れていた。
「どこかのパーティが大ピンチみたいだ。俺が行ってみる」
ケーンが、オリハルコンの剣をすらりと抜いて、走り始めた。
キキョウとブラックは、慌ててケーンの後を追う。
天使の羽ブーツを装備したキキョウでも、全然付いていけなかった。
やっぱりケーン様は本物だ。
それはキキョウが初めて目にした、ケーンの能力の一端だった。
ブラックは、ケーンが倒した魔物のドロップを、せっせと回収していた。
彼が慌てたのは、ドロップを横取りされないか心配だったからだ。
ケーン様は、金貨もアイテムドロップも、全然無関心なんだもん!
ブラックの貧乏性は、筋金入りだった。
基本的にこの作品、手に汗握る迫力の戦闘シーンはありありません。
ごめんね!
次は一時間後。