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8、幽霊と白百合姫

◆◆◆◆◆


 その夜は、とても楽しい時間だった。

 お風呂を終えたシャーリー達は、身体が冷えないうちに食事を取ることにする。調査クエストを終えたこととドリーが仲間になった祝いを兼ねてか、ちょっとだけ豪華な晩ご飯になっていた。


「へぇー、いい香りがするドリンクね」


 アルフレッドがイタズラで頼んだワインを、ジュースと勘違いしてドリーが一口飲んだことでちょっとした事件が起きる。


 顔がビックリするほど真っ赤になり、ベロンベロンに酔っ払ってしまったのだ。ドリーいわく何も覚えていないようだが、シャーリーにとって大惨事となる。


「お胸をモミモミしゃせなちゃーいっ」

「や、やめてぇー!」


 笑い上戸となり、変態になってしまったドリーに追いかけ回される。泣きながら逃げ回るものの簡単に捕まってしまい、身体中を撫で回されてしまった。

 傍から見ていたアルフレッドはその光景に、

『百合、百合、百合ぃぃっ!』と興奮気味に叫んでいた。


 こうしてなんやかんや楽しい夜を過ごしたシャーリー達は、夜が更けると共に眠気に襲われる。ドリーと別れ、割り当てられた部屋に入るとすぐに眠りについたのだった。

 今日も大変だった。だけど、新しい仲間ができて嬉しい。


 そんなことを眠る前に思う。そのうち強力なまどろみに襲われ、シャーリーは目を閉じた。

 明日も頑張るぞ。

 ちょっとした目標を立て、決意するとそのまま闇の中へと意識が誘われていった。


『離すな――ドリーから、目を離すな』


 声が聞こえた。シャーリーは思わず目を開き、慌てて身体を起こす。

 身体を震わせながら周りを見渡してみた。しかし、どこにも怪しそうなものはない。

 単なる気のせい、と考えて再び眠ろうとした。


『約束を思い出せ』


 声が、後ろから聞こえた。ギギギッ、とぎこちなく首を回して振り返ってみる。

 そこには、一人の男性がいた。暗いこともあってか、顔がよく見えない。だが、真っ暗だというのに長い黒髪と真っ黒なローブがとても印象的である。


 その男は、ゆっくりと近づいてくる。シャーリーは逃げようとしたが、何かが身体に巻き付いて動くことができなかった。


『お前が勝手に交わした約束だ――絶対に、思い出せ!』


 顔なし男性はシャーリーの顎を掴み、クイッと顔を上げられた。覗き込むように近づき、そして――


「きゃあぁぁぁぁぁっっっ!」


 シャーリーは叫んだ。ハァ、ハァ、と息を切らしながら周りを見てみる。部屋には襲いかかってきた男性の姿はない。

 そのことを確認したシャーリーは、ホッと胸を撫で下ろした。


「夢かぁー……」


 夢でよかった、と安心する。もう一度寝ようと、シャーリーは横になる。だが、後列な夢だったためだろうか。眠気がすっかり飛んでしまい、目が冴えてしまった。

 布団を被っても効果はない。仕方なく起き上がり、暇潰しを考え始めようとした時だった。


『思い出せシャーリー――お前の決意を!』


 夢で聞いた声が、耳に入ってきた。反射的に振り返るが、何もいない。

 ヒュン、と背筋が冷えた。もしかして、と考えたくないことを考えてしまう。


「そ、そうだ! 先生っ」


 アルフレッドを頼ろうとしたその時だった。シャーリーの目に、夢で見た顔なし男性が入ってくる。ゆっくりと近づいてくる顔なし男性に、シャーリーの口が震えた。


「きゃあぁぁぁぁぁ!!!」


 悲鳴を上げ、思わず部屋を飛び出す。もしかしたらとり憑かれたかもしれない、と考えながら逃げていく。


『待て、シャーリー』


 だが、顔なし男性はしつこい。逃げるシャーリーを捕まえようと迫ってくる。

 シャーリーは必死に走った。だが、不運なことに行き止まりへ逃げ込んでしまった。


 どうにかならないかと周囲を見渡してみるが、どこをどう見ても逃げることも隠れることもできなかった。


『シャーリー!』


 顔なし男性に、手首を掴まれてしまう。シャーリーは思わず、「誰か助けてぇぇぇっ」と叫んでしまった。

 その瞬間、シャーリーの身体から純白の光が閃く。その光を浴びた顔なし男性は、声を上げることなくモヤとなって消え去っていった。


「ふえぇーっ」


 シャーリーはへたり込んでしまう。自身の身体を抱きしめ、ブルブルと震えた。

 あの幽霊は何だったのか、と考えようとしてやめる。思い出そうとするだけで、怖くて堪らなかった。


「う、うぅ……」


 怖すぎて部屋に戻れない。だけど、ここにいたらまた襲われるかもしれない。

 シャーリーは助けを求めるように見渡した。すると、すぐ傍に扉があることに気づく。


「そういえば――」


 何かを思い出し、シャーリーはその部屋へ駆け込んだ。幸運なことに鍵がかかっておらず、シャーリーはそのままベッドの中へと潜り込む。

 スヤスヤァ、と眠る酒臭い少女を抱きしめ、震えながら眠りについたのだった。


◆◆◆◆◆


 チュンチュン、チュンチュンと小鳥の囀りが響いていた。

 温かく優しい日差しに刺激されてゆっくり瞼を開くと、すぐに頭痛が襲ってきた。さらに気持ち悪さにも襲われ、ドリーの気分は最悪だった。


「うえー……」


 どうしてこんなに気持ち悪いのか。昨日の出来事を思い出そうとしてみるが、全く覚えていない。ただ気分がなんかよかったことだけはわかる。

 ひとまず、ベッドから出て顔を洗おうと起き上がった時だった。


「ん?」


 ベッドの中に、見覚えのある少女がいた。かわいらしい寝間着を着た少女は、心地よさそうに寝息を零している。


「シャーリー?」


 ドリーは思わず名前を呼んだ。しかし、まだ熟睡しているのかシャーリーが目覚める気配はない。

 昨日は何をしたのだろう、と真剣に考え始める。だがどんなに思い出そうとしても、思い出すことはできなかった。


『おーい、ドリー。シャーリーがいなかったんだが、見なかった――』


 考えていると、アルフレッドがやってきた。だが、ドリーとすぐ隣で眠っているシャーリーを見て固まってしまう。

 真顔で、アルフレッドは考えもしなかった光景を見つめていた。


『悪かった、邪魔したな』

「ちょっ、ちょっと待ちなさいよ!」

『ワシはお邪魔虫だったよ。二人だけの時間を、楽しんでくれー!』

「何勘違いしているのよ! コラ、戻ってきなさーい!」


 アルフレッドは何かを察したかのように勘違いして去っていく。慌てて引き留めようとしたドリーだがどうすることもできず、アルフレッドの背中を見送ったのだった。


「すぅー、すぅー」


 気持ちよさそうに眠り続けるシャーリーに、ドリーは大きなため息を吐いた。シャーリーはというと、ドリーの気持ちなんて知る由もなく「石、ピッカピカ」と寝言を溢す。


『いいものが見れたぜ!』


 著者アルフレッドで後に出版される〈白百合姫〉という書物がある。その題材としてこの出来事を使われたのは、言うまでもない。


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