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6、頼もしいお友達

 崩れ落ちた黒いスチームゴーレムの身体。

 残骸の山に変化したそれを、シャーリーは息を切らしながら見つめていた。禍々しく輝いていたカメラには光が残っておらず、すでに機能停止していることがわかった。


 アルフレッドは肩を落とすかのように息を吐き出す。

 今回もどうにか生き延びることができた。シャーリーも守り切ることができ、上出来だろう、と考える。


「先生」

『どうした? ケガしてないよな?』

「お酒で酔わせて襲うのはいけないと思います!」

『ぶふぉっ!?』


 アルフレッドの身体が震えた。

 そんなアルフレッドを、ジトッとした目でシャーリーは見つめる。


『待て待て待て! なんでお前、そんなことをっ――』

「書いてましたよ。綺麗な方を酔わせて、とっても楽しまれたようですね」

『ノォォォォォ!!!』


 アルフレッドは絶望した。知られたくなかったたくさんある秘密の一つを知られて、絶望した。

 そんな秘密を知ったシャーリーは、改めてジトッとした蔑んだ目をアルフレッドに向ける。


『ち、違うんだ! これには海よりも深い訳が――』


「へぇー。弄んで、泣かせて、楽しまれた。そんな最低なことをした先生は、一体どんな理由があっていけないことをしたんでしょうか? さぞかし深い理由があるんですよねぇー」


『やめて言わないで掘り返さないで! 謝るから、謝るからもう言わないで!!』


 アルフレッドは泣いていた。自身が犯してしまった過去の出来心に。

 シャーリーは頬を真っ赤にしながらアルフレッドを鋭い視線で見つめていた。

 ドリーはそんな二人に呆れながら笑いつつも、瓦礫の山となった黒いスチームゴーレムを見る。


『運のいい奴』


 黒い影、と呼べばいいだろうか。

 それが残した言葉が、なぜか気になった。もしかしたらあれが、始めからドリーを狙っていたのかもしれない。

 誰が、と疑問が浮かんだ。まさか敵国の誰かが命を狙ってきたのか、と考えてしまう。

 それならばいろいろと合点がいくが、どこか腑に落ちない。


「何だろう、この感じ……」


 もしそうならば、なぜ寝込みを襲わなかったのか。だがどんなに考えても、ドリーの中から答えを見つけ出すことができなかった。


『ふーむ』


 考え込むドリーを、アルフレッドは見つめていた。

 見覚えのある緋色の髪。髪留めとなっているガラスの髪飾りにも、妙な引っかかりを覚えていた。

 一体どこで見ただろうか。そんなことを考えていると、シャーリーがムスッとした顔で覗き込んできた。


「先生、もしかしてドリーちゃんにも興味があるんですか?」

『いや、ちょっと気になってな』

「え? 先生、本気で言っているんですか? 確かにドリーちゃんはかわいいですけど……」


『そうだな。若いこともあって髪がツヤツヤ。勝ち気な顔で、クリっとした目とハリのある白い肌も堪らないな。胸は残念だが、それを差し引いても将来性が見込める逸材――』


「見損ないました、先生っ。ドリーちゃんをそんな風に見てるだなんて! 私に近づかないでください!」


『ちょっと待て! お前に聞かれたから答えたんだろ! というかぶっちゃけあいつもお前も好みではないわ! どっちかというと、ボンッ、キュッ、ボンッが大好きだわ!』


「変態! 先生の変態っ!」


 シャーリーは自分の身体を抱きしめ、アルフレッドを睨みつけた。アルフレッドは弁明をするために何かを言っているが、自身の立場を悪くするだけである。

 賑やかな二人に、ドリーは苦笑いを浮かべた。

 何はともあれ、賑やかなこの二人に助けられた事実には変わりない。


「ねぇ、アンタ達」


 ドリーは何気なく声をかけると、シャーリーが顔を真っ赤にさせてアルフレッドの後ろへ隠れた。

 思いもしない行動に、ドリーは目を丸くする。何かしたかな、と頭を捻っているとアルフレッドが『ゴホンッ』とわざとらしい咳払いをした。


『えーっとな、ドリーと言ったな。まあ、緊急時だったから仕方なかったかもしれないが、手っ取り早い魔力同調は他にもあったぞ』


「……はっ?」


『魔力同調したい相手の血を吸う。他にも方法はあるが、それで魔力同調は完了だ。まあ、魔力同調は体液を得ればできることだから、間違ってはおらんな』


 アルフレッドの言葉を受け、ドリーの顔が赤く染まっていく。

 だんだんと恥ずかしくなっていき、ついには手で顔を覆ってしまう始末だった。

 アルフレッドはそんなドリーと見て、ニヤニヤと笑う。そしてドリーが最も悔しがる言葉を吐いた。


『とっても美味しかったぞ、ご馳走様!』


 それは、これまでの生涯で見たこともない悪い笑顔だった。この世の全ての悪が孕んでいるかのような、とてもムカつく素敵な笑顔でもある。

 ドリーはギリギリと歯軋りをするが、キスした事実は消せない。


 だからこそ誓う。絶対にギタギタにして記憶を消してやる、と。


「こんのぉー! 変態め、訴えてやる!」

『できるのかな? 女の子とキスしちゃったこと、みんなにバレちゃうぞー?』

「ぐ、うぅー……」


 いつもと違って強く出るアルフレッド。いつもなら止めるシャーリーだが、今回ばかりはタジタジだった。

 ドリーはとても悔しそうに奥歯を噛む。だが次第に悔しがることすらバカらしくなってしまった。


「ハァ、もういいわ。そういえばアンタ達、見たこともない姿をしているわね。もしかして東の異国から来たの?」

「ううん、交易都市ユルディアからだよ」


「ユルディア? 聞いたことがないわね。あ、そうそう。戦争はどうなったかわかる? フェアリーアとカースベーダの戦争なんだけど」


『ん? もしや〈妖魔聖戦〉のことか? あれは神の天罰により、双方が大きな痛手を負って終わった戦いだったが。フェアリーアはその天罰によって滅びたとも聞いたぞ』


「……えっ?」


 アルフレッドの言葉に、ドリーは混乱した。そんなドリーを見て、シャーリー達は心配そうに顔を見つめる。

 信じられないという顔をするドリーは、何かを思い出そうとしていた。


「うそ、一体何が。でも、本当かどうかなんて……。だけど、そんなことって――」


 ドリーは必死に冷静になろうとしていたが、どんなに落ち着かせようとしても頭の整理ができない。

 そんなドリーを心配して、シャーリーが傍へと立った。そして優しく身体を抱きしめ、「大丈夫だよ」と囁いた。


「ドリーちゃんはドリーちゃんだから。だから、大丈夫」


 身体の震えが止まる。ドリーはその温かさに、つい顔を綻ばせてしまった。

 気がつけば頭の痛みがなくなり、激しくなっていた心臓の鼓動も落ち着いていた。


「ありがとう、落ち着いたわ」


 ドリーは微笑む。シャーリーはその笑顔に安心していた。

 そんな二人をアルフレッドは、優しく見つめる。ドリーが何者で、何があったのかわからないが、今はそんなことどうでもいい。


『ドリーよ。よかったら一緒に来るか?』

「え?」


『おそらく、行く当てがないだろ? なら、ワシらと一緒に迷宮探索者(ラビリンスチェイサー)として活動しないか? もしかすると、お前が求めるものが見つかるかもしれんぞ?』


 ドリーにとってそれは、思いもしない誘いだった。

 探索者とは一体どんなものなのか。どんな活動をしているのか。そもそも、自分ができるのか。全てがわからなかった。


「やろうよ、ドリーちゃん! ドリーちゃんがいれば、百人力だよ!」


 だが、シャーリーの言葉が迷いを吹き飛ばした。

 わからないことばかりだが、それ以上にシャーリーの力になりたいと思った。


「仕方ないわね。しっかり守ってあげるから、援護と支援は頼んだわよっ」

「うんっ!」


 シャーリーは嬉しそうに返事した。ドリーはその顔を見て、満足げに笑う。

 こうしてシャーリーは、頼りになるお友達ドリーを仲間にしたのだった。

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