21、収集家再び
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シャーリーはムスッとしていた。
眠りから目覚めたばかりということもあるのだが、一番の原因はアルフレッドである。
『さあ、大金をもらいに行くぞ!』
記憶という中身をギルドマスターに音読されまくったアルフレッドは、軽快に町中を進んでいく。
影で生み出された手には深緑に輝く石ころがあり、それを見たシャーリーはギリギリと歯をきしませてしまった。
「ねぇ、アルフレッド。いくらなんでも、シャーリーのお宝に手を出すのはダメじゃない?」
『ああ、確かにダメだ。だが、一発逆転するには売るしかない。そう、どんなお宝だろうがガラクタだろうがな!』
なぜか勝ち誇ったかのように声高らかに宣言する。
それを聞いたシャーリーはさらにムスッとし、「先生なんて燃えちゃえ」と呟く始末だ。
最悪の雰囲気の中、ドリーは顔を引きつらせていた。いくらアルフレッドがいろいろと支払いを忘れていたとはいえ、これはよろしくない。
『この石ころはどのくらいの売値になるかのぉ? 支払いで余ったらその分本を――』
「売りませんからねっ! 例え相手が神様でも魔王でも、絶対に売りませんからっ!」
『クックックッ、諦めるんだなシャーリー! お前の宝物はワシの手の中にある! つまり、ワシの意思一つでこいつの運命は決まるのだよ!』
「ぐぅっ!」
『まさに石だけに、硬いぞー!』
ギリギリと、ギリギリとシャーリーは歯軋りをする。いつもは負けっぱなしのアルフレッドだが、今回ばかりは愉悦感に浸っていた。
そんな二人のやり取りを見て、ドリーは大きくため息を吐く。
シャーリーから恐ろしい殺気が放たれており、なぜか背中に唸っている子犬の姿が見えた。いつもと違うその妙な光景に、ただただ困り果てるだけだ。
「絶対に、売りませんからぁー!」
「あ、待ってシャーリー!」
吐き捨てるようにシャーリーは駆けていく。
追いかけるようにドリーも翔け、シャーリーと一緒に集会場へとやってきた。
賑わう集会場のフロントだが、シャーリーが足を踏み入れた瞬間に静けさに包まれる。
一歩、また一歩と踏み入れると全員がシャーリーのために道を開けてくれた。おそらくそのぐらい怖い顔をしていたのだろう、とドリーは感じたのだった。
「あ、あの、どうしましたか?」
「これ、お願いします!」
アイテム換金の受付に立ち、シャーリーは持っているアイテムを全部出した。受付嬢である
ホビットは戸惑っていたが、すぐに「かしこまりました!」と返事をして下がっていく。
それから数分後、応援を呼んだのか数名の受付嬢がやってきた。慌ててカウンターに置かれたアイテムの鑑定に入っていく。
シャーリーはそれをずっと睨みつけるように見つめていた。
「ね、ねえ、あの子なんであんなに怒っているの?」
「さ、さあ? 来た時からあんな感じだったけど……」
「うぅ、忙しいのに。まだ眠いのにー……」
「あとどのくらいかかりますか?」
「「「もう少しお待ちをー!」」」
シャーリーは苛立っていた。お宝が売られるかどうかの瀬戸際なため当然だろうが、受付嬢達にとってはいい迷惑である。
『頼もう!』
そうこうしているうちに、アルフレッドが到着してしまった。シャーリーの顔から一気に血の気が引いていく。
そんなシャーリーを見るや否や、アルフレッドは機嫌よさそうに鼻歌を交じらせて中へ入ってきた。
「早く、早く鑑定結果を出して!」
シャーリーに急かされ、受付嬢は慌てて計算を始めた。
始まってしまったカウントダウンを止めるために、今か今かと待ち続ける。
迫るアルフレッドは、ニッカニカと笑みを浮かべていた。
そんな光景をドリーは呆れ顔で見つめる。そんな風にして待っていると、受付嬢が計算を終えて査定金額を提示した。
「えっと、査定額は十シルバーと三十カパーです」
「えぇっ!」
光熱費および水道代を支払いに必要なのは三十シルバー。
だが提示された査定金額は十シルバーと三十カパー。
明らかに足りない。それを知ったシャーリーは、力が抜け足から崩れ落ちた。
「シャ、シャーリー!」
「……うえぇーん」
真っ白になって呆けたシャーリーは、あまりの悲しさに泣き出した。
傍にいるドリーも、対応してくれた受付嬢達も、あまりの変わりように戸惑うばかりである。
そんな中、アルフレッドがシャーリーの肩を叩いた。
思わず振り返ると、アルフレッドは優しい顔を浮かべて笑っている。
『言っただろシャーリー、もう売るしかないと。お前がどんなに頑張っても、お宝は手放すしかないんだと!』
悪い表情を浮かべているアルフレッド。かつて女の子に手を出しまくっていた悪いアルフレッドが顔を出した瞬間だった。
シャーリーはグズグズと泣く。悔しさで涙が溢れ、だけどどうしようもなく、アルフレッドの勝利宣言を受け入れるしかない状態だった。
「ねえ、前みたいにクエストを受けて稼いだらいいんじゃない?」
さすがにかわいそうだと感じたドリーが、勝ち誇っているアルフレッドに提案してみた。
だがアルフレッドは、『ダメだ』と言い放つ。
『今日の昼までに払わなければならん。クエストを受けている余裕はない』
「でも、いくらなんでもこのまま売っちゃうのは――」
『他に方法があればやっておる。それとも何か? 今すぐどうにかできる方法でもあるか?』
「うーん……」
ドリーは困り果てた。
涙が止まらないシャーリーのために何とかしてあげたいが、すぐにお金を用意できる訳でもない。かつての権力があればできなくはないが、そんなものに頼れる立場でもない。
唸って唸って頭を捻る。そんなことをしていると、一つの怒号が飛んだ。
「ハァ? 古代の歯車がないの!?」
ドリーは思わず振り向く。すると大声で受付嬢に文句を言い放っている男性がいた。
ブラウン色の長い髪をひとまとめにした優男。メガネが非常に似合い、いかにも悪知恵を働かせていそうな顔でもある。
さらによく見ると見覚えのある顔だ。
「あれって、スレインじゃない?」
「なんか怒ってる。なんでだろ?」
シャーリー達は様子をうかがう。
するとスレインはさらに怒ったのか、大きな声を荒げるように放った。
「あれがないと困るんだけど!?」
「そう言われましても……。クエストで発注をかけてくだされば持ってきていただけるかもしれませんが――」
「来る訳ないだろ! あれあんまり価値がないんだし!」
怒るスレインは、苛立ちのあまりに後ろ髪を掻いていた。
様子を見た限りだと、今すぐにでも〈古代の歯車〉が欲しいらしい。
「スレインさん!」
ドリーが見つめていると、いつの間にかシャーリーがスレインに声をかけていた。
振り返った優男は目を輝かせているシャーリーを見て、ちょっと怪訝な表情を浮かべる。
「あれ、シャーリーちゃん? 何でここにいるんだい?」
「私、古代の歯車を持ってます! よかったら買いませんか!?」
「え? ホントかい!」
ドリーは呆然とする。隣にいるアルフレッドも、同じような顔をしてシャーリーの行動を見守っていた。
「古代の歯車、全部で六つあります。これ一つ、十シルバーでどうですかっ!」
「十シルバー!? いくらなんでも、高すぎじゃあ――」
「いいですよ、売らなくても。他にも買手はありますしぃー」
「うむむ。なら一つ三シルバーだ! これなら買えるよ!」
「ダーメ。一つ五シルバーなら売ってあげますよ?」
「くぅー! わかった。それで手を打とう!」
「ありがとうございますぅー!」
トントン拍子に交渉が進み、シャーリーはついに勝ち取った。
ニコニコと笑いながら小さくガッツポーズをするその姿は、どこか勇ましくも思えた。
何はともあれ、勝利を勝ち取ったシャーリーの姿にドリーは微笑んだのだった。




