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二葉邸殺人事件  作者: 髙橋朔也
出題編
5/22

毒無き邸宅

 俺は鑑識の奴らに、坂上が食べていた食事に毒がないか調べさせた。それと、フォークやナイフに毒が塗られていた可能性も考えたが、やはり毒は不検出だった。

「お前ら鑑識だろ!? お前らの専門分野のくせに、とっとと毒の混入ルートを調べ出せや!」

 俺が鑑識課の者を怒鳴りつけると、部下に止められた。「今の時代、そういうのはパワハラになるんですよ! 肝に銘じてください!」

 優しい部下がパワハラについて教えてくれた。が、今俺が知りたいのはパワハラ云々(うんぬん)何かじゃない。毒の混入ルート云々なのだ。

 しかし、毒の混入ルートを調べたところであまり進展はなさそうだから、やむなく部下には害者の性格と害者を恨んでいる人物を捜査させ、俺は夢野の家に足を運んだ。

 地図を便りに歩いたのだけれど、かなり遠かった。車で行けば良かったと後悔しつつ、インターホンに手を伸ばした。

 でも、応答はなかったので扉をバンバン叩いて大声で叫んでみた。

「夢野さん! 夢野さん!」

 近所の目を気にしたのか、大声で夢野の名前を連呼することによって家に入れてもらえた。ボロい家だが、我慢だ。

「夢野さん。私は一課の神田と申しますが、二葉家の長男の一郎太さんが殺害されたんですよ」

「それはお気の毒に」

「あなた、二葉家に恨みがあるでしょう? 塀を壊しましたよね?」

「塀は壊しました。ですがまさか、私が一郎太さんを殺すとでもお思いで?」

「よし、そうか。自白と見なすぞ」

「は?」

「夢野八策、刑法261条器物損壊罪の疑いでしょっ引く! 余罪を徹底的に追求して一郎太さんを殺してたんなら再逮捕だ。さあ、来い!」

 夢野を無理矢理連れ出し、パトカーを呼んで詰め込んだ。

「ちょっと、強引ですよ!?」

「あ? 器物損壊罪には該当するんだから、当然しょっ引くだろ? まずは塀を壊した経緯について聞いてやるからな」

 あとで上司には強引過ぎるとして怒られた。それは関係ないからくわしくは述べない。

 夢野を署に連行し、取調室に入れた。

「まず、何で塀を壊したんだ?」

「そりゃ、二葉家に恨みがあるからに決まっていますよ」

「ま、そうだよな。どんな恨みだ?」

「二葉家は何度も地代を増税するんで、もう生活はカツカツ。むしゃくしゃしてイタズラを頻繁(ひんぱん)にしていたんですが、今日はついに塀をぶっ壊してやりましたよ」

「二葉家は大地主だったっけ。増税か。他に恨んだ理由はあるのか?」

「他にはないですが」

「そんじゃ本題だ。一郎太さんを殺した?」

「まさか! まだ疑っているんですか!?」

「余罪の追求は当たり前だ。動機もありそうだし、疑うのが仕事だってドラマとかでも警察は言ってるだろ?」

「私はやってませんよ。そもそも、あんな高い塀を乗り越えて侵入など普通に考えたら出来ませんよ」

「それもそうだな」

 それからも夢野には話しを聞いたが、犯人ではなさそうである。また、三上老人の尽力によって二葉家は被害届を出さないので夢野はあっさりと釈放された。

 部下の方が何か掴んだかもしれないから、あくびをしながら電話を掛けた。

「あ、もしもし、俺神田。捜査はどうだ? 害者に恨みを持つ奴とかは?」

「内気な性格となっているので恨みに思う人間は少ないかなって考えましたが、害者に恨みを持った人間がかなりいましたよ」

「何で? 内気な性格なんだろ?」

「マナーなどに特に厳しいそうですよ。礼儀正しいし、そのことで坂上と喧嘩になったこともあったようです。例えば、坂上はテーブルマナーがなっていなかったので一郎太が叱りつけたとか、物を動かしてから元通りの場所に戻さないからと、細かいことで一郎太はキレたらしいとわかりました」

「それは大変だな。坂上は害者の前では常に行儀良くしていた、と」

「坂上は半年ほどの同居生活で抜け道を見つけていました」

「抜け道? どんな?」

「一郎太が消えた途端に、ある程度姿勢を崩したり、普通からすれば行儀は良いですが害者からすれば『酷い』というくらいの行儀になったり、といった具合です」

「抜け道か。同居生活なら気は抜けないな」

「はい。坂上にも多少なりの動機はありました」

 こんな感じなら、もっとたくさん害者を恨んでいる人物がいてもおかしくない。

「毒の混入経路の方は?」

「まだ毒は不検出で、邸宅中を調べてはいますがまったく反応がない、とのことでした」

「厄介だ、ハァ」ため息をもらしてから、耳からスマートフォンを離す。「じゃあ、電話切るから。すぐにまた二葉家に行く」

「え? 警部!」

『プチッ』──俺はスマートフォンをマナーモードにしてからポケットに突っ込んだ。

 今回の殺人事件の解決は困難を極めるはずだ。捜査協力を早めに頼んでおくのも手だぞ。またポケットから再度スマートフォンを取り出して、覚えてから数年も経過した電話番号を打ち込んだ。

「もしもし、神田だ。覚えているか?」

「......」

 電話の向こうで、俺の声を耳にして不快そうな顔をしているあいつが目に浮かんだ。

「事件だ。すぐに署に来てくれ」

「まったく、探偵は便利屋ではありませんよ」

「承知の上だ」

 電話の相手はやたら皮肉を並べてから、電話を切った。眠そうな声だった。もう夜も深いから、寝ていた可能性はなくもない。

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