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二葉邸殺人事件  作者: 髙橋朔也
出題編
4/22

入り口の無い部屋

 冬真さんの悲鳴に反応し、嫌な予感がした隠居パーティー参加者らは残っている使用人達とともに階段を駆け上がった。

 三階に上がってすぐの部屋の前で、冬真さんは床に倒れ込んでガタガタ震えている。三上さんは部屋の扉のノブを無理矢理にでもひねっていた。

「親父」次郎太さんは首を傾げた。「何してんだよ、そんなところで」

「じ、次郎太! 一郎太が、部屋で......」

「兄さんが部屋で、何だよ?」

 次郎太さんも扉のノブをひねるのを手伝った。しかし、後から到着した僕達には鍵の掛かった部屋の中に何があるのかわからなかった。

 三上さんと次郎太さんの協力の甲斐あって、扉をこじ開けることに成功した。こじ開けられた扉の先に広がった光景は、死体と化した一郎太さんだった。


 俺は──神田(かんだ)良悟(りょうご)。一課の警部だが、まさかこんな辺境の村で殺人事件が発生するとは思ってもみなかった。パトカーをものすごい速度で走らせて、二葉家という邸宅に着いた。

 門の前に立つと、礼儀正しい白髪(はくはつ)の老人が現れた。

「三上と申します。二葉家使用人頭を勤めています」

「捜査第一課の神田だ。三上老人、現場まで案内してもらおう」

「承知しました」

 三上老人の後に着いていき、現場を眺める。部屋の中央で横たわっているのが死体だ。

「おい、扉がぶっ壊れてんじゃねぇか」

「警部」先に現着(げんちゃく)した俺の部下が、手帳に目を落とす。「その扉は事件発生当時は閉まっていて、三上勝と二葉次郎太の二人でこじ開けたそうです」

「扉が閉まっていた? なら、この部屋の窓の鍵は?」

「それも閉まっていたようです。扉をこじ開けたのは、隣りの部屋から現場の部屋を覗いたところ害者(がいしゃ)が倒れていたからだそうですよ。証言者は現場に居合わせた容疑者全員」

「おいおい、マジかよ!? 推理小説とかに見る密室殺人って奴なのか? 害者が自殺だったという可能性は?」

「害者・二葉一郎太の死因は毒死。遅効(ちこう)性の毒が口から体に混入して死に至らしめたようです。つまり、密室外で毒が混入し、害者がこの部屋に入って鍵を掛けた後で毒によって絶命したのでしょう」

「密室はたまたまだったというわけか」

「はい。現在、毒の混入経路を探しています」

「よし。この家中の片っ端から毒を探し回れ!」

「はっ! わかりました」

 マジモンの殺人事件か。となると、毒の混入経路さえ判明すれば、あとは犯人探しだけになるな。犯人を探すにしても──いや、今は容疑者から話しを聞くか。

 こうして、俺は事情諸々を尋ねる準備をしていたら、寡黙(かもく)そうな奴が背後に立っていることを知った。

「あの、警察の責任者みたいな方ですか?」

「一課の神田だ。いかにも、俺は責任者みたいなもんだ」

「あの、一つ話したいことがあるんです」

「何だ? 事件に有力な情報なら大歓迎(かんげい)だぞ」

「有力な情報だと思います」

「なら、話しを聞こう」

「次郎太さんと一緒に見つけた情報なんで、呼んできます」

「わかった」

 害者の弟の次郎太を呼びに、寡黙の少年が去っていった。名前を尋ねておけば良かったが。

 次郎太は近くにいたのか、すぐに寡黙の少年が次郎太を連れて戻ってきた。

「んだよ、慶太。あのことを話すのかよ?」

「はい。もしかしたら、あの人が犯人かもしれないので」

 慶太というのは、田沼家の長男だ。

 慶太と次郎太は、何かブツブツと話していた。犯人の目星でも付いているのか? 警察より初動が早いじゃないか。

「おい、俺は話すのが面倒だから慶太が説明してやれ」

「わかりました。──刑事さん。僕達は正午からの四時間の休憩の間に塀を壊した(やから)を探したんです」

「塀を壊した輩?」

「今日の昼頃に、二葉家の塀を壊した人がいるらしいという使用人さん達の話しを聞いて、二人で捕まえようとしたんです」

「塀の破損。ふむ」

 部下から、塀の一部が欠損しているという報告があったな。まだ新しい跡だから事件と関係あるかもと思ったが、何かしら関わっていたというわけだ。俺の読み通り。

「防犯カメラを二人で見てから、それに該当する人物を四時間で発見するに至ったのです」

「二葉村の村人か?」

「はい」

「名前は?」

夢野(ゆめの)八策(はっさく)さんと言って、村外れに住んでいるそうです」

「会いに行ったのか?」

「いえ。会いに行こうという時に、午後四時を過ぎてしまいました」

「かなり有力な情報だ。協力、感謝する!」

「あ、待ってください」

「何だ、まだあるのか?」

「毒の混入経路を調べているのですよね?」

「まあ、そうだな」

「それについても情報があります」

 慶太の言葉に、次郎太は目を丸くした。慶太が次郎太には言っていなかったことなのだな。

「何だ? 教えてくれ」

「僕の推論ですが、警察の方々は一郎太さんの食べていた食事を調べましたか?」

「害者が食べていた晩飯のハンバーグを調べてみた。しかし、毒は検出されなかった。一郎太の使っていたナイフとフォークも調べてみたが、それすらも駄目だった」

「坂上さんは、一郎太さんに自分のハンバーグをアーンとしていました」

「坂上......害者の婚約者か?」

「はい。僕の(つたな)い推理によると、坂上さんを殺す目的で犯人が毒を混入させたが、それが一郎太さんの口に入ってしまったのかと」

「調べてみる価値はあるな。ありがとう、少年よ!」

 確かに、話しを聞いているだけでは慶太の言っている推理が正しい。夢野と同時進行で調べてみよう。

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