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二葉邸殺人事件  作者: 髙橋朔也
解答編
21/22

推理 陸

 ペットボトルをすり抜けて、毒を混入させる。超能力でも殺人に使われているのか?

「開栓されていないペットボトルに毒を混入させるとして、そのトリックはなんでしょう」

 冬真は口をひん曲げた。「どうやってもペットボトルをすり抜けることは出来ない。慶二郎の自殺だよ」

「いえ、慶太さんは自殺を否定しています。なら、殺人しかないでしょう。私は答えを知っていますが、再確認のために皆さんとともに考えていこうと思っています」

「ペットボトルをすり抜ける、か。あり得ると思っているのか、明智?」

「警部の言うとおり、ペットボトルをすり抜けることは普通はまず不可能。超常現象を疑うべきです」

「なら何で──」

「しかし、慶二郎さんが殺された状況でならペットボトルを難なくすり抜けることが出来るのですよ」

「「はあ!?」」

 一同、唖然とした。それが当たり前だ。ペットボトルをすり抜けるなど、人間(わざ)ではない。常人には行うことが無理な殺人だ。

「皆さん、ペットボトルをすり抜けるには特殊な能力が必要不可欠だと考えてはいませんか? 慶二郎さんは超能力などによって死に至らしめられたのではなく、ただ単に人の手で殺されたのです」

「どうやって殺したんだ?」

「ここまで言ってもわかりませんか? 実に簡単なことなんです。慶二郎さんを殺す際は、犯人は策を(ろう)することなく実行出来てしまったからです」

「何を言ってんだよ?」

 明智はとうとう頭が狂ったか。その時はそう思った。そうとしか考えられない。慶二郎殺人事件の場合、一郎太殺人事件と違って不可能犯罪なのだ。犯人はどうやってペットボトルに毒を混入させたのか。その一点に尽きる。

「これは失敬。では、答えを言いましょう」

 ついに答えが導き出されるぞ。俺は息を飲んだ。

 明智は咳払いをし、ニヤリと笑う。「慶二郎さんはわざわざ犯人の元へ、ペットボトルの開栓をお願いしに行ったのです」

 俺はつい、明智の脳天を叩いていた。叩かれた明智は、床に倒れた。

「何をするんですか、警部!?」

「何だその推理は? ご都合主義にも限度ってもんがあるんだよ! 推理を最初からやり直せよ」

「いえ、私の推理は完璧です。穴など存在しないでしょう」

「おかしいだろ。慶二郎自ら犯人の元に、ペットボトルの開栓を頼みにいくなんて」

「まあ、それが普通の反応ですか」明智は立ち上がって、服に付いたほこりを払った。「なぜ慶二郎さんは、犯人にペットボトルの開栓をお願いしに行ったのか。次はその部分を考えていきましょう」

 そんな不可解なことに、推理のしようがあるのか? 論理で説明が出来ないような行動を、慶二郎はしているんだ。

「ええっと、慶二郎さんが犯人にペットボトルの開栓をお願いしに行った理由。これを推理して、納得する答えへと結論づければ良いんです」

「って言っても、明智。少しこじつけが過ぎるんじゃないか? 被害者が加害者に殺してくれ、と言っていたのと同義になってしまう」

「ハハハ。警部は頭が固いのです。柔らかくしてから、考えてくださいよ」

「これでも十分柔らかい方ではあるぞ」

「こんな簡単な推理も出来ないのですか? 慶二郎さんが殺された状況を思い出してください」

 慶二郎が殺された状況、か。朝方に死んでいたな。状況......密室内で亡くなった。即効性の毒物が、ペットボトルの天然水から検出された。

「慶二郎が殺された状況を考えても、まったくわからんのたが?」

「まだ頭が固いのでしょう。年は取るものですね。元同期なのに、私と警部では雲泥(うんでい)の差です」

「それは良い意味なのか!? 悪い意味なのか!?」

「敢えて、どちらも選びません」

「敢えて!?」

「そんな話しは後回しです。慶二郎さんの体内に毒が混入したのは十中八九、天然水の入ったペットボトルでしょう。そのペットボトルの開栓を、慶二郎さんは犯人に頼みました。なぜ、慶二郎さんは開栓を他人に頼んだのか。それは、力が入らなかったからです」

「は?」

 力が入らなかった!? 慶二郎には十分に力がある。キャップを自力で開けられないはずがない。

「『は?』は当然の反応ですね。ですが、これはふざけているわけではないんですよ。朝には、力があまり入りませんよね?」

「そうか、そういうことか!!」

「ええ。朝に力が入らないのは、筋肉が寝ているとかいろいろ説明が可能です。そこが重要なわけではなく、本当に重要視すべきは慶二郎さんがペットボトルを開ける際に誰に頼んだかなんです」

「息子の慶太だろ」

「それが妥当でしょう。しかし、慶太さんの部屋は慶二郎さんの部屋と離れています。慶二郎さんは早く水を飲みたいはずなので、近い部屋にいて信頼出来る人物に開栓を頼んだと思います」

 近い部屋にいて、慶二郎が信頼している人物。もう一人しかいない。「慶太と仲良くなった次郎太か?」

「はい。慶二郎さんが次郎太さんにペットボトルの開栓を頼んだのは偶然ですが、次郎太さんは好機とみてペットボトルに即効性の毒を混入させたと考えています」

 皆の視線の先には、不敵な笑みを浮かべる明智が犯人として名指しした次郎太がいた。

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