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二葉邸殺人事件  作者: 髙橋朔也
出題編
2/22

兄弟

 冬真は年齢順に息子達を並べた。それから、順番に名乗っていくように命じていた。

 最初に、右端に立っていて背は高く見るからに内気な少年が口を開いた。

「長男の二葉一郎太です」

 慶二郎は、この内気な少年が二葉家を継ぐのだと理解した。

「一郎太! もっとハキハキと話せんのか!」声量の小さい一郎太を、冬真は叱りつけた。「もう良い。次だ」

「次男、二葉次郎太(じろうた)

 次郎太と名乗る次男は、かなり強気だ。眼は鋭く、明らかに数々の修羅場(しゅらば)をくぐり抜けてきた者だ。

「次郎太君。私は田沼慶二郎。君は息子とも歳が近そうだし、仲良くしてやってくれないかな?」

 慶二郎は慶太を次郎太の前に連れてきた。

「た、田沼慶太です......」

「ハッ! 面白い。慶太、ちょっと面を貸せ」

 薄ら笑いをした次郎太は、慶太の腕をつかんで二人で大広間を出て行った。

「三男の二葉三郎太(さぶろうた)

「よろしく。私は田沼慶二郎」

 唐突に自己紹介をした三郎太に、慶二郎はすぐに返事をした。

 それからも、四男の『四迷(しめい)』、五男の『五太郎(ごたろう)』が名乗り、冬真の息子の紹介は終わった。


 二葉家当主の次男の次郎太さんが自己紹介をしたあと、僕の腕をつかんで一緒に大広間を出た。

「なあ、慶太」

「何ですか?」

「親父さんのこと、嫌いだろ?」

 確かに、僕は父さんのことが大嫌いだ。

「何で......」

「わかったのかって? 目を見ればわかる。俺も嫌いなんだ、親父のことは」

「それで僕を連れ出したんですか?」

「ああ。良い友達になれそうだと思ってね」

 僕には次郎太郎さんの考えていることがわからなかった。

「次郎太さんは何でお父さんが嫌いなんですか?」

「そうだな......俺が話す前にお前が話してくれ」

「僕ですか。僕がお父さんを嫌いなのは、名家で有り続けるために僕にまで上品に振る舞うように強要するからです。前は敬語で話したりはしなかったんですが、今では敬語が身に染みてしまったので」

「そうか。俺と同じ境遇の奴って、探せばいるんだな」

「え?」

「俺も、お前と似たような理由で親父が嫌いなんだ」

 次郎太さんの考えていることがまだわからないけど、仲良くはなれそうな気がした。

「よし。俺の部屋に慶太を招待してやろうか」

「良いんですか?」

「当たり前だ。俺達はもう友達だぜ?」

 次郎太さんに着いていき、玄関扉のすぐ近くの階段を上がった。すると、二階に通じていた。廊下は一階同様に十字架の形になっていて、所狭しと部屋が密集する。

「一番奥の部屋が、俺の自室なんだ」

 次郎太さんの自室に入ると、すぐに目に飛び込んできたのはズラリと置かれた本棚で、本棚にはきちんと本が並べられていた。本棚に並ぶものどれもが洋本だった。

「外国の本が、好きなんですか?」

「それは、俺が英語を勉強するために取り寄せた本なんだ。俺、こう見えて英検準一級なんだ」

「すごいですね!」

「それほどじゃないよ」

 部屋の壁は、本棚が覆って見えなくなるほどだった。そこまで本が好きなことに驚いたが、それよりも数倍は目を疑うものが置かれていた。

「何ですか、これ!?」

「それか? それは蛇だ」

「蛇! これ危険じゃないんですか?」

「毒はないから安心するといいよ。そいつは『クール』って名前だ。大人しくて無害だ」

「無害......」

 とてもそうは見えなかったが、それはこの際無視することにした。

「そこの椅子にでも座ってくれ」

「はい」

 椅子はフカフカで、長時間座っていても尻が痛くならなさそうだ。

「なぜ俺が慶太を部屋に招いたと思う?」

「まったくわかりません」

 次郎太は歯を剥き出しにして笑い、ワインを取り出した。

「あんな場所より、ここで飲んだ方がうまいぞ」

「そういうことなら、僕はアルコールに強いですよ」

「張り合いがあるね!」

 僕と次郎太さんはワイングラスを手に取って、ワインをとくとくと注いでいった。

「「乾杯!」」

 その日の正午まで、二人でワインを飲み続けた。

「そもそも親父はなぁ、ごちゃごちゃいつもうるさいんだよ!」

「本当にそうですよぉね。ハハハ」

 談笑をして、背もたれにもたれて飲んでいたら、叫び声が聞こえてきた。何事かと僕は立ち上がり、窓から顔を出した。すると、二葉家の使用人が何やら揉めていた。

「放っておけ、慶太。結構前からのことなんだ」

「何がですか?」

「使用人の喧嘩だよ」

「そうなんですか?」

「何でも、最近二葉家の中を覗く不届き者がいるらしく、そいつの処分をどうするかってことで使用人の中で意見が割れたらしいんだ」

「止めないとやばいんじゃないですか?」

「大丈夫だろ。多分、使用人頭の三上が(じき)に喧嘩の仲裁をするはずだ。ちょっと待ってれば終結する」

「それなら良いんですが」

 僕が窓から喧嘩の光景を眺めていると、次郎太さんの言ったとおり三上さんが仲裁に入り喧嘩を終わらせるようにしていた。使用人頭という地位になると大変なんだな、と思いながら窓を閉じた。

「三上さんが喧嘩を沈静化しました」

「だろうな。ま、三上なら信用出来る。長年二葉家に仕えている使用人だからだ」

 ワイングラスを置いた次郎太さんは胸ポケットから煙草を取り出して、一服する、と言った。それに僕も着いていき、二人で一服するために庭まで向かった。

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